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第二十九話 魔女ロヴェリナの遺産
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しおりを挟む「お久しぶりねマクレイ副隊長、その後お加減はいかがかしら?」
「・・・・・・・・・おかげさまで。もう随分よいですよ」
「それはなによりね」
ティア姫は虐める獲物を見つけた虎のようにまざまざと副官を睨みつける。
マクレイの胃腸が幾分縮んだ。
「・・・ひ、姫様、さあ参りましょう。皆お待ちですよ。会場では笑顔でお願いしますよ、そんな怖い顔をなさらず」
「悪かったわね、もともとこんな顔よ」
「そんなことはないでしょう?姫様、笑顔は素敵なのですから笑ってください。もういいお年なのですから大人になって。王族としての義務を果たしてください」
「分かっているからここに出てきているのでしょう?黙りなさい」
姫の顔がさらに恐ろしくなった。
「・・・・・・」
マクレイは黙って姫の手を取り会場へと向かう。
会場に入ると姫はにこやかに挨拶する。
「ごきげんよう皆さま、お茶会、楽しんでくださいね」
いくつかの団体に挨拶回りをしてからそそくさとダンスホールへ向かう。
早く任務を終わらせたい心情がありありである。
「・・・・あの、姫、もう少しゆっくり・・・・」
「黙ってついてきなさい」
「・・・・・・」
吐き捨てるように言われた。なにもそこまで嫌うことはないだろうとマクレイはひっそりため息をつく。
姫が手を差し出すのでその手を受け取りダンスを始める。
これさえ終われば任務は終わりと信じるマクレイだが実はここまでが序章であり、地獄の茶会第一幕はここから始まるのである。
「―――――――――!」
どこからか息を飲む音が聞こえた。ふと腕の中の姫を見ると恐ろしい形相で遠くを見ている。
「・・・・あの、姫?痛いです」
姫の指がマクレイの腕にぎりぎりと食い込む。同時に歯ぎしりまできこえる。
「・・・・・・・姫、ダンスに集中してください」
姫のヒールが何度もマクレイの足に刺さる。
「・・・・・あの?」
もはや姫にはマクレイの声は届いていないようだ。
ダンスが終わるころには姫の機嫌が相当悪化していた。マクレイの足がぼこぼこにはれ上がった。
「――――いくわよ」
「え?どこへ・・・・?」
冷ややかな目で睨みつけられた。いいから黙って着いて来いということだろう。
マクレイの背筋が凍る。一体何が起こるのか、全く予想がつかない。
――――なぜ?一体何が?
姫の言動は全く理解不能だった。
ほんの数日の休暇だったが随分と有意義ではあった。
自分のルーツである身内の事ならば少しでもしれれば嬉しいものだ。
そこから思うことはいくつかあるが何もない時よりはいいと思える。
自分の縁あるものがあるのだ。そして相まみえることができる。
オーレイ伯爵邸で数日を過ごし、ルウドは随分と気が緩んでいた。
ロズと伯爵と三人で食事をとりながらいろんな話をしたり、伯爵邸の図書室を見せてもらい本を読み漁ったり、時折庭で剣訓練に励んだり、充実した日々を送っていた。
そして伯爵につきそい社交場にも行ったりした。
「私の長い付き合いの友人の家だ。そう固くならなくても大丈夫だよ。君と同年代の若者も多いので話して見るといい」
伯爵の友人とは貴族ではないかと身構えたが実際あってみると気安いものだった。
男性一人と女性三人、彼らは家主の親者だという。
元々仕事上貴族と交流のあるルウドには随分と話しやすい相手だった。
しかも仕事でもないので彼らとはすぐに打ち解けた。
そしてその彼らにパーティに行こうと誘われた。
「王家主催のパーティなんだけどね。招待状を持っているんだ。ペアで三枚。ちょうどいいだろう?」
「・・・・・・」
迷ったが彼らが行ってみたいというので付き合うことにした。王族主催なら王族にまみえるだろうが問題はないだろうと思ったのだ。
しかしその判断が後々後悔することになる悲劇の始まりとなる。
パーティにはペアの三組で行った。
オーレイ伯爵の友人グランツ伯の孫息子ダミアンと婚約者ミーミア
ミーミアの友人コレットとダミアンの従妹グロリア
ルウドとロズ
ルウドはグロリアをエスコートし、ロズはコレットとペアを組んだ。
女性たちは話しやすかった。そしてとても楽しそうだ。
「ありがとうルウドさん、私たちだけでは王家のパーティなんて敷居が高くてこれなかったの。おかげで来ることができたわ」
「お役に立ててよかったです。しかし、何か面白いものでもありますか?」
「まあ、見るものすべて素晴らしいし、真新しいですわ」
女性三人が朗らかに笑う。
王宮を見慣れているルウドには何が珍しいのか良く分からない。
「美しい庭園、時期が来れば沢山のバラが咲くそうで」
「そうですね。今は冬まじかでこれといって見られるものはありませんが」
「王宮の食事も楽しみですわ。王族もとられるお料理ですもの。どれほど絶品なのでしょう」
「・・・・そうですか」
「あと王族もお目見えするのでしょう?私たち田舎者なのでお姿を見るのは初めてで緊張します」
「マルス王家の方々はとても美しいと評判でご兄妹が全員揃うと天使絵のようだとか」
「・・・・・へえ・・・」
「皆さま優しくて穏やかな方々だそうですよ」
「麗しい皇子様に微笑まれたら万人が幸せな気分になれるとか」
「・・・・ふふふっ、楽しみね」
「・・・・・・・」
世間に流れている王家の噂と実情があまりにもかけ離れている気がする。
しかしところどころに真実も含まれていて否定撤回するほどでもない。
そもそも夢多き女性たちの妄想を壊すこともない。
ルウドは黙って聞き役に徹することにした。
.
ダンスホールではすでに音楽が鳴りダンスが始まっている。
社交場の目的は情報収集が主な仕事だが時には物見遊山で来た者もいる。
「一応何か目的はあるのですか?何かの情報を欲しているとか?」
ダミアンにこっそり聞いてみると彼は照れたように微笑む。
「そんな高尚な目的はないよ。ただ王族を見てみたかったんだ。他国にも名高い美しいお姫様とか、皇子様とか」
「なるほど」
ルウドは見慣れているがあまり王宮に用のない下級貴族には珍しいものだろう。
「王宮のパーティなのでどなたかは姿を見せると思いますが本日はどなたででしょうか。皆様忙しいでしょうし」
「私としては皇子様がパートナーと共に来ていただけると嬉しいですが」
「えっ?皇子様にはパートナーがおられるのですか?」
「あっ、候補者がおられるだけです」
「まあ、候補者ですか?それならば沢山いそうですね」
「・・・・そうですね。国内外からも大勢」
「この国の皇子様は一人しかいませんから大変ですね」
「そうですね、選別が大変ですし、そもそも選ぶのが皇子様ですから」
「そのお立場で一人を選ぶなんてとても大変でしょう。人に選んでもらったほうが気分的にも楽そうなのに。重すぎて怖くて私には出来ないことです」
「そうですね、私にもきっと出来ないことです」
王族は個人ではない、国なのだ。
結婚は国家の問題、本来個人が決めることでもない。
しかしこの国には結婚相手は当人が決めるようにとの法がある。
一体どのくらい昔に誰が定めたのかは不明だが、とても勇気のいる法律である。
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