意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二十九話 魔女ロヴェリナの遺産

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  王族の昼食は晩餐部屋と同じ部屋で出される。暖かい日は庭園やテラスなどに集まることもあるが寒くなってきた今はほとんどこの部屋である。
 本日は家族が全員集まっている。
 しかしどうにも空気が冷たい。
 それというのも末姫が無言無表情でただ食事をしているからだ。
 
 ルウドが城を出て行ってから以降こんな空気で家族はどうしていいか分からないでいた。
 国王陛下が何とかしろとパラレウスを見るが皇子とてどうしていいか分からない。
 静かなのはいい事だ、などと笑えない空気だ。
 
 しかし姉二人は知らぬ存ぜぬ我関さずといった様子で黙っている。
 何だか寒い、とても寒い。しかしなぜルウドのことで一家が寒くならなければならないのか?
 
  パラレウスはふと思う。
 ルウドはただの一介の騎士である。隊長ではあるが何が特別ということもない。
 むしろ隊長でなければ何の身分もないただの労働者である。
 特別というなら一番隊にいる身分高い騎士たちのほうがよほど特別だ。なにしろ貴族なのでそれなりの気遣いがいる。
 
 なのになぜルウドばかり気にするのか。それはティア姫がご執心だからである。
 そもそも騎士が好きなら別に彼でなくてもそれなりの身分高いものでもいいのではないかと思ってしまう。
 姫にはこの機会に他の者にも目を向けてもらいたい。

「ティア、今晩の茶会には出席するのだろう?お相手はいるのかい?なんなら私のところの騎士を貸そうか?」

「・・・・・いきなり何を言われるのお兄様。一番隊は御免です」

「どうしてだい?いまは二番隊も不在だし三番隊は忙しいだろう?君の側に付くものがいないじゃないか?」

「一番隊はいや。気がきかなくて愛想がなくてつまらないもの。暇そうなその辺の騎士を捕まえてきたほうがまし」

「・・・・・・」

 一番隊は高位貴族が集まった品位も品格も腕も上流な者たちである。彼らはただまじめに仕事をしているだけである。
 彼らは決して何も悪くない。ただどうにもティア姫とはそりが合わないらしい。

「…しかしティア、こんなときだしたまには一番隊も」

「お兄様、なぜそんなに一番隊を押すのよ?」

「たまには相手をしてもいいだろう?彼らは君には申し分のない相手だよ」

「不快なのよ」

「そんなこと言わないで。彼らの立場もあるし、そんな嫌うほどひどい者たちじゃないから。そんなあからさまに姫に避けられたら不憫じゃないか」

「どうでもいいでしょう?一番隊だって私の相手なんかしたくないはずよ」

「そんなことないよ、みんな君の相手をしたいと思っているよ」

「とても信じられないわね」

「・・・・・・と、とにかく今は皆忙しいし、一番隊ならまだ手が空いているし、君の相手なら皆喜ぶだろうし、だから今日のところは君が大人になって。先々どんな嫌な相手とも付き合わねばならないこともあるだろうし、それの練習と思って!」

「・・・・・・」

 ティア姫は物凄く嫌そうな顔をしたがそれ以上は何も言わなかった。
 皇子はそれを是と解釈してこっそりため息をつく。疲れた。








 王国騎士団一番隊は高位貴族の隊である。格式高く、国最高レベルの知識、腕、権力を併せ持つ一団である。現在騎士、見習い含め三十名程。
 おもに国王夫妻、世継ぎ皇子の護衛を任されている。
 隊長カルディス=ルノアール四十五歳、国王リーンとともに国を守ってきた騎士の一人である。
 毎日の訓練は欠かさないが今はほとんど執務官で外に出ることはない。
 若い騎士たちの成長を見守りつつ時折口をはさむ、退屈な毎日である。

「・・・・・・・」

 本日も退屈な書類仕事を遂行中である。しかし・・・・・

『本日のお茶会のティア姫の相手に一番隊の誰かをよこしてほしい』

 皇子からの要請である。拒否することはできない。

「・・・・・・」

 王族相手にいうことでもないがティア姫と一番隊はそりが合わない。
 騎士が何をしても姫には気に障るらしく一番隊は近づくなと凄い嫌われようなのだ。
 
 なのに、なぜ?珍しいこともあるものだ。
 そういえば姫ももうすぐ十七歳、落ち着いてもいい年だ。社交にも出なければいけないし。いつまでも我儘な子供では困るということだろう。

 そもそも一番隊には姫の手本になるような騎士たちがそろっている。誰を見ても洗練とした仕草、風格を持っている。
 姫の相手としては最適なのだ。
 カルディス隊長は書類を副官に渡す。

「急ぎで希望者を募り相手を決めてくれ」

 書類を見た副官は微妙な顔をする。

「・・・・めずらしいですね」

「まあそろそろ我々が必要になってきたということだろう」

「・・・・そうですかね?」

 一番隊は嫌なことでも顔には出さない。そう訓練されている。
 たとえば社交の場で相手に感情を知られるなど、あってはならないことだからだ。
 そこのところを姫は分かっていない。

「あの、希望者がいなかったらどうなるので?」

 おずおずと副官が問う。

「決まらなかったらお前がいけ」

「・・・・・・・・はい」

 副官が胃腸を痛々しそうに撫でさすった。
 隊長はティア姫に関する昔の一番隊に対する所業を色々思い出した。
 しかし決して恨んではいない。それは昔の子供の過ちなのだから・・・。






 お茶会には城在住の貴族たちがたくさん集まる。ダンスホールでダンスを楽しむ者もいるが大方情報収集が主なのでところどころで会話が弾む。
 会場はバイキング形式でホストが飲み物を持ちまわっている。
 座る席もいくつかあるがほぼ立ち形式で挨拶から始め、込み入った話ともなると別室へ移動する。
 会話が主なお茶会なのでさしてイベントもないが一応王族主催の夜会なので毎回王族が一度は顔を出す必要があった。
 いつもは国王夫妻か兄皇子が出席しているのだが彼らが出られない際は姉たちが出る。
 今回はその姉たちも所用で出られず、ティア姫が出ることになった。

 「たまには出席しなさいよ、少しくらい我慢しなさい」

 「そうよね、ちょっと挨拶してダンスでもして戻ればいいのだから」

 「・・・・・・」

 しかたがない。王族の義務だ。
 そういわれれば反抗のしようもない。
 しかし茶会当日、姫は最高に不機嫌になった。
 いつもの二番隊騎士がいない、最悪三番隊騎士でもいい。しかし三番隊も不在で今回一番隊騎士が回ってきた。最悪にもほどがある。

「・・・・・・・」

「一番隊副官ロディアス=マクレイです。今回姫様のお供に選ばれ大変光栄に思っております。どうぞ宜しくお願い致します」

嘘っぽいはりつけた笑顔を見せて挨拶する男を見た途端、姫は男を火にくべたくなった。



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