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第六話 白薔薇姫と薬の真実
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しおりを挟むルウドは実は姫の部屋の前の廊下にいた。
「ルウド、姫様が荒れているよ?」
「……ああそうみたいだな」
ジトリとハリスが横眼で見る。コールに姫の様子を見て来てくれと頼んだのはルウドだった。
「ティア姫はルウドでなければ抑えられないから目付役を頼もうと思っていたのに」
「今の所部下五人で事足りているだろう?」
「人数的には五人より一人の方が効率がいいのだが」
「私はまだ完治していない。移ってはまずいだろう?」
「何か会えない理由でもあるのか?」
「……そんなモノはない」
「………」
ルウドは真顔でそう答える。だが何だかいつもの彼らしくないとハリスは感じる。
「何かあったのか?」
「何も……」
思えばあの舞踏会の日からルウドは何かおかしい。
彼の中で何かが起こっているのだろうか?
「当分この子をここで預かって下さい」
警備隊が子供を連行してきてそう言った。
ゾフィーは大変困った。だが仕方がない。
「魔法使い!ねえ俺に魔法を教えてよ!」
子供はこれ幸いと嬉しそうに言う。
―――冗談ではない。塔は子供の遊び場じゃない。
危険な薬品なども置いている室内に気軽に好奇心旺盛な子供など入れられない。
そもそも頼まれたのは子供の監視だ。面倒をみる言われもない。
「まず何をしたらいい?何でもするよ!」
「そうか、では庭の掃除をしてもらおうか。草も刈って綺麗にしておくんだ」
「……ええと」
子供は塔の周辺全てを見渡す。
「庭ってどこまでかな?」
「ここから見渡す限り、全て」
「―――――!」
塔周辺の庭と森との境界線はない。森全てが塔の庭だった。
「全て終わるまで中に入れないからな」
「そんな!魔法使い!」
「何でもするのだろう?出来ないならずっとそこにいるか牢に戻るといい」
ゾフィーは冷たく言い放ち、塔に入った。
外から人でなしとか叫ぶ声がしたが知ったことではない。
ティア付きの不幸な騎士達はすでに二人その場に力尽きた。
その辺に転がっている護衛騎士達を見ても何ら心が動かされるわけでもなくティアは納得いかない思いを抱えて憮然としていた。
納得いかない事は沢山ある。いろいろ確かめなければ気が済まない事も幾つかある。
大体聞きたい事を聞けないのはストレスがたまる。
「………」
ティアは少しドアを開けて外で張り込む護衛三人を呼ぶ。
「…ねえ、あなた達…」
「姫様。駄目です、聞きません。ドアを閉めて下さい」
外からドアを閉められた。
「……」
いつまでこんな状態が続くのか?何時までもこのままでは我慢ならない。
―――仕方ない。
手段はある、余り選びたくない手段だが仕方がない。
二番隊隊長ルウド配下の護衛騎士、現在ティア付きに配属されている騎士達は配下の中でも精鋭中の精鋭である。
ルウドがティア姫の為に最上の護衛を配置させ、気を抜くなと言い含めて厳重な警戒を敷かせている。彼らは有能であり優秀なのだ。
にもかかわらず彼らがよく姫を見失ってしまうのはけして彼らが無能だからではない。
騎士達の目を逃れようとするティア姫の手口が巧妙かつ卑劣なせいだ。
実直な彼らには姫の常識を超えた手段には慣れて居ても中々想像の範疇でなく付いていけないでいた。
「ねえちょっとお願いがあるの。ジル、入って来てくれる?」
ドアの外で警備をしていた三人の騎士の中の一人、ジルは五人の中では一番若かった。
現在二十歳。だが腕の立つ騎士である。
そのジルが姫に呼ばれてどきりとする。護衛の一人としていつも姫の身近にいるが名指しされるのは初めてだ。
「…おい、くれぐれも油断するなよ」
「はい」
ジルは先輩の忠言を受けて勇気を出して中に入る。
そもそもティア姫の護衛に着いてからろくな目にあっていない。それは全て姫のせいだ。
―――また何か企んでいる……。
姫は護衛が気に入らないのだろう。だからすぐ逃げだそうとする。
ジルは大いに警戒した。だが――――
「うああっ?ロデイオさん、アイサさん!」
転がっている護衛二人を見つけて驚き駆け寄る。
「どうしたのですか?大丈夫ですかっ?」
息はしているが何か魘されている。一体何があったのか?
「ほっといても大丈夫よ。じきに起きるでしょ」
振り返るとティア姫が居た。冷めた視線でジルを見ている。
「ひひひひひひひ、姫様っ!何をしたのですか!」
「ちょっと八つ当たりしただけであっさり落ちたのよ。駄目ね、最近の騎士は弱くて…」
「八つ当たりって……」
どんな事をされたら気絶まで追い込まれるのだ?想像したくもない。
ジルが姫に目を向けると姫が意味ありげな視線を向けてキラキラと微笑む。
―――やはり何か企んでる…
分かっていても美しい姫様に優美に微笑まれながら見つめられるとドキドキする。
中身はともかく姿は白い薔薇と定評のある姫だ。若いジルには刺激が強すぎる。
ジルは緊張した。
「あの?姫様…‥?なななな何を?」
「あのねえ、あなたにお願いがあるの」
「……何でしょうか?」
「私ね、用事があるの」
「ダメです、聞きません」
「部屋に閉じ込められて何も出来ない私を不憫だと思わないの?」
「い、いけません。駄目です」
ティア姫がジルを見つめたままじりじりと近づいてきて、ジルはたじろいだ。
「ちょっと外に出るだけよ?城内ならいいでしょう?」
「当分大人しく部屋にいるとハリス隊長と約束したのではないですか」
「もう時効よ、そんなの」
「昨日の事でしょう?早いです」
ジルはじりじりと下がって行きついには壁にぶつかった。
「ひひひひひ姫様……」
姫が壁に手を突きジルを逃がさないようにしてさらに近づく。
「……駄目駄目って何でも反対して。息が詰まるのよ、護衛なら黙って仕事だけしてればいいでしょう?あなた達の為になんで私が我慢しなければならないの?」
姫の据わった目がジルを覗き込んでいる。
「そそそそんな、人手不足なんですから少しはご協力ねがいますよ?」
「知らないわよ、あなた達の手抜きの為になんで私がこんな窮屈な生活を強いられないといけないのよ?」
「そんな、手抜きだなんて。すべて姫様を思っての采配だと思いますよ…?万が一など絶対あってはならないと」
「誰の采配よ?」
「わが隊長ですよ?」
「……ああ、なるほどね」
据わっている姫の目に釘づけになっていると、姫がおもむろにジルのあごを取った。
「―――――――ひっ、姫…?」
一瞬の隙に開いたジルの口へ素早く怪しげな液体を流し入れ、閉じた。
「―――――――――っ!」
ジルは飲むまいと抵抗したが口を抑えられ、飲んでしまった。
飲んだ瞬間冷や汗がでる。
「…姫様…………」
「ちょっと実験台になって貰うわ」
「……何を…飲ませ…」
「すぐに分かるわよ?」
ジルはとたんにくらくらと眩暈を覚え、膝をつく。
姫は目の前でにこやかに微笑み、ジルを見ている。
「あのねえ、ジル。私お願いがあるのよ」
次の瞬間にはジルはとても幸せな気持ちになって姫に微笑み返す。
「―――何なりと。ティア姫様」
波打つ感情の揺れが何一つこの姫に逆らってはいけないのだと命じていた。
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