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第六話 白薔薇姫と薬の真実
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しおりを挟む塔の中で薬品の精製などをしていた魔法使いは外の空気が変わるのを感じて顔を上げた。
それは魔法でも何でもなく、ただ黙って耳を澄ましてみれば遠くから聞こえる誰かの声。慌ただしく走り回る幾人かの足音。どこからかの怒鳴り声や叫び声。
その声は耳からだけでなく肌で感じる事が出来る。
それは普通の人では出来ないゾフィー特有の能力かも知れないがけして魔法ではない。
たぶん方角は薔薇園、ティア姫が居なくなったと誰かが騒いでいる。
―――――またか…。
ゾフィーは息をもらす。
そもそも行動派のティア姫を部屋に押し込めておくこと自体無理があるのだ。何か好きな事を夢中でしている以外は姫はどこにでも動き回る。一人で大人しくなんて性質上無理があるのだ。
それを押し込めようとするから被害者が出る。
そんな事を考えていると、ふとこちらに向かってくる足音を聞いた。足音はどんどん近付いて来て塔のドアを開ける。
「ゾフィー、いる?話があるの」
ゾフィーは息を吐いた。
「外では姫が居なくなったと騒ぎになっているようですが?」
「平気よ、騎士のひとりに行先は言ってあるし、見つかっても当分連れ戻されないようになっているから」
「……騎士?今度は何を?」
「ちょっと気になる事があって、あの薬を使ってみたのだけど」
ゾフィーがたちまち不安そうな顔になった。
「……あの薬とはまさか、例の媚薬?」
「……‥」
ティアは憮然とした顔で媚薬のビンを取り出しゾフィーの前に置いた。
ゾフィーがビンを手に取るとずいぶん減っている。もう半分くらいしか残っていない。
「ひ、姫様…‥?」
「……騎士には効いたわ。でも……、分量とか個人差があるのかしら。ちょっとだけじゃルウドにはさっぱり効き目がなかった」
「い、何時の間に…‥?」
「ルウドが油断していた夜に。ちょっとだけ試すつもりで使ってみたの」
夢の続きが見たかった。だから…‥。
ティア姫が寂しげに笑う。
「…姫様、この媚薬はルウドさん用でしょう?他の者に使っては危険です。すいません、もっと早く言っておくべきだった」
「危険ってどういう事?まさかルウド以外だと体調がおかしくなるの?」
「体調は何ともないですが、媚薬ですから。異常に姫を好きになります」
「媚薬だもの、分かってるわよ」
「騎士とて男です。けして二人きりにならぬよう警戒して下さい」
「……毒消しないの?」
「媚薬ですから。まあいわば興奮剤のようなもので。効果が切れるまで待つしかないですね」
「たちが悪いわね。でもどうしてルウドには効かなかったのかしら?」
「やはり個人差でしょうか」
「そう……」
ゾフィーはそそくさとその薬を取りただちに片付けた。
媚薬はルウド用。効いていない訳はなかった。たぶん姫が気付かない所で効いていたのだろう。
ティアは深くため息を漏らす。
「……ルウド、どうしたのかしら。全然見ない。もう起きているはずなのに」
「…起きたのなら仕事の段取りとかで忙しいのでは?」
「何で私に会いに来てくれないの?仕事が忙しいのなんかいつもじゃない」
「……すいません、それは当人に聞いて下さい」
「まあいいわ。ところで話があるの」
「はい」
「昨日私初めて街へ行ったの」
「…知っています、もう二度と、そのような事はやめて下さい。城外に出られたら私も守りきれません。どんな不測の事態が起こるか分からない」
姫はウンザリとゾフィーを見る。
「その件は、分かったわ。もう一人で外に行ったりしないから。それより気になる事があるのよ」
「気になること…‥?ですか…」
「あの子、パティーのお母様は毒を含んでいたわ。それも植物じゃない、薬品毒よ?そんなもの、どこで含んだというの?」
「……それは不思議ですねえ……」
「誰かが意図して毒を含ませたの?どうして?気にならない?」
「……それは街警備の仕事でしょう?姫が心配する事はありませんよ」
「歯切れが悪いわね?何なのよ?」
「その件は忘れるようにと、誰かに言われませんでしたか?」
「…言われたわ。でも気になるじゃない。街で何か起きているのよ?それを知っちゃいけないの?」
「その件はもう街警備が動いているのでしょう?皇子が早くに手を打って警備隊を街に派遣したと聞いています」
「五番隊を隊長ごと派遣したのよ、知っているわ」
「では彼らの邪魔をしてはいけません」
「……分かっているけど……」
姫は不服そうだ。関わってしまった以上知らなければ気が済まないのは姫の性分である。
「まあそれよりも……」
ゾフィーはえへんと咳払いして話を逸らす。
「媚薬を呑んだ彼はいまどこに?」
「私を脱出させる手伝いをさせた後、さらに仕事を与えたわ」
「……仕事…?ですか?」
「私の為になんでもするって言うから」
「………そうですか」
ゾフィーは余りいい予感がしなかったが敢えて聞かない事にした。
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