意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第六話 白薔薇姫と薬の真実

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 城内を捜しまわったがティア姫が見つからないので結局外へ出た。
 薔薇園、庭園を回って魔法使いの塔へ行きつく。見ると森の辺りで子供が草をむしっていた。
 何だろう?新手の修行だろうか?
 それはともかくルウドは入り口で足が止まってしまった。

「………」

 ティア姫を捜しているとはいえ当人に会う平常心がなかった。
 とても真っすぐ顔を見る勇気もない。
 それというものあの舞踏会の日からおかしな妄想が頭の中を駆け巡り、夢にまで出てくるからだった。

 こんな事、誰にも相談できるわけない。
 だが最近は思い切って魔法使いに相談しようかと思っている。彼ならきっといい特効薬や処置を施してくれるに違いない。
 このままほっておいたらホントにまずい事になりかねないとルウドは思っていた。

 姫が居るかもしれないと緊張しながら塔のドアを叩く。

「――――――ゾフィー殿、居られるか?」

「はい、いますよー?おやルウドさん」

 ドアから顔を出したゾフィーがルウドを見る。

「……ティア姫はおられるか?」

「今はいませんよ?部屋に戻られたのでは?」

「……そうですか……」

 ルウドは肩を降ろして息を吐く。

「ルウドさん、病み上がりでしょう、無理なさらないで少し休んでは?中でお茶でも?」

「……頂きます、実はちょっと相談がありまして。私事なのですが」

「はい、何でも聞きますよ。城内の人達の相談役も私の仕事です」

「ありがとう」

 ルウドは塔の中の客間へ招き入れられ、お茶を入れて貰った。

「…あの、本当に姫はいませんよね?」

「居ませんよ、たぶん部屋に戻る前に皇子の部屋でしょうから」

「皇子の?」

「…苦情とかあるのではないですか?まあどうでもいい事ですよ。それよりあなたの方がよほど深刻に見えます」

 ルウドは苦悩しゾフィーを見る。

「……実は、あの舞踏会の日から変な夢ばかり見るのです」

「……夢、ですか」

「夢ばかりではなく、頻繁におかしな妄想まで」

「……‥妄想…」

「…夢は願望の表れと言いますが今までそんな事はなかったのにいきなりこんな事…。私の頭はどうかしてしまったのでしょうか?」

「……夢とは、どのような?」

「……………」

「……ルウドさん?」

「………ティア姫の、夢です。あんな邪な夢、何で私が見るんだ?もう自分が信じられない。私はもしかして欲求不満なのか?いっそハリス達と共に大人の遊び場に行った方がいいのか?」

「そんな、思いつめないでください!大丈夫ですから!」

「ゾフィー殿……そんな風にはとても……、それとも私は、姫に害を及ぼす前に腹を切った方がいいのか…‥」

「大丈夫です、夢も妄想もあなたのせいではありませんから!薬です!惚れ薬なんです!私が造ってしまったんです!貴方はそれを飲んだんです」

「……ほれ、薬…?」

「いわゆる興奮剤です。即効性で長時間効き続けます。個人差がありますが蝶が花に誘われるように相手の匂いに誘われて虜になります」

「……そんな薬を何時の間に私は……」

「ルウドさんの場合小量だったのでしょう。だから夢や妄想で済んでいるのです」

「……私の場合……?」

 しまった、と言わんばかりにゾフィーは口を閉じた。ルウドは彼を凝視する。

「ゾフィー殿、惚れ薬は明らかに姫用ですね?」

「………」

「姫が持っているのでしょう?そして誰に飲ませたのです?」

「……媚薬はもう回収しました」

「媚薬を飲ませた男はどうなるのです?私でさえあんな邪な妄想を……、大量に飲まされたらもう……………‥ゾフィー殿!」

「………」

 ゾフィーは観念したようにこっくり頷く。

「……その、あなたの部下の……一番若い、大量に飲まされたようでもう姫の虜です」

「―――――ジルか!道理で目が危ないと…‥!まったくあの姫はロクな事をしない!」

 ルウドは立ち上がり、慌てて外へ飛び出した。
 もはや自分の悩みなど眼中外に消え去った。






 ティアは兄に散々苦情を言ったあと自分の部屋へ戻った。
 まだ捜し回っているのか、警備隊が誰もいない。

「全くお兄様はホントに分かっているのかしら…‥」

 兄と姉とは喧嘩にならない。兄は必死の苦情も軽く笑って流すし、姉は返しに困る言葉を吐いて終わらせる。実は喧嘩の相手になるのは下の姉ミザリーだけだった。
 ティアは全く面白くない。

 ソファーに座るとジルがお茶を持ってきた。

「さあどうぞ」

「ありがとう、でもあなた何故ここにいるの?情報収集は?」

「街に出なければあれ以上は出ませんよ。現状を見なければ。それよりも姫様…」

「なによ?」

 ジルはそっとティアの横に座り、姫の白い手をそっと取り、姫の目を熱く見つめる。

「私はあなたの虜です、あなたの為なら何でもします。どんな苦労もいとわない。ティア様、世界で一番貴方を愛しているのはこの私です。この愛は永遠に変わらない。こんな私にご褒美をください」

「――――――……な、なにを?」

 ジルは熱のこもった眼差しでそっと手を伸ばし、ティアの白い頬に触れ、赤い唇に触れる。

「あなたに触れるお許しを。その赤い唇に触れる事が許されるなら、私は命を賭してもかまわない」

 ティアは目を見張り、固まる。ジルの手を押しのけようとするが彼は動かない。
 ジルの端正な顔が近づき、熱い吐息が顔にかかる。

「――――――ティア様…‥」

「は、離して、許さないわ」

「構いません、私はもう我慢できない」

「――――――や、やめて!ルウド!ルウド!」

「姫様、隊長は貴方を愛してはいませんよ。私の方がよほど愛している」

「――――――!」

 ジルの言葉にティアはざっくり傷付いた。分かっていてもその言葉は聞きたくなかった。

「……嫌よ、ルウド、ルウド…!」

「あなたに会おうともしない男のどこが好きなのですか?明らかに嫌われているじゃないですか?もういい加減忘れた方がいいですよ?」

 呆れた声のジルの言葉にティアは涙があふれる。

「呼んでも来てくれやしませんよ?あなたに無関心でしょう?隊長は」

「……ルウド…」

 ジルはニッコリ微笑み姫の唇に近づく。寸前で触れようとしたとき彼の頭が突然横に吹っ飛んだ。そして身体ごと壁に叩きつけられ動かなくなった。
 驚いて身体を起こすとソファーの後ろにルウドがいた。眉間にしわを寄せてジルを見ている。

「……ルウド…」

「全く、ほんとにロクな事をしませんね貴方は。ああ罪のない部下を殴ってしまった、あなたのせいですよ、姫」

 怒っている。

「ルウド、私、襲われてたのよ?」

「自業自得でしょう貴女は。事情は全て聞きました。全く何を企んでいたのか知りませんが馬鹿な薬を人に飲ませて。好きでもない男に媚薬なんか飲ませて馬鹿ですか貴女は?襲われるに決まってるでしょう」

「き、決まってるの…‥?でも…」

「でもなんです?媚薬なんか飲まされて大人しい男なんかいますか?全く馬鹿な薬で人を従わせようとするからこんな目に遭うのです。少しは自重しなさい」

「…………」

 ルウドはジルを肩に担ぎあげる。そして姫の腕をガッチリ掴む。

「ゾフィー殿の所へ連行します。ジルも直して貰わねばならないし、姫にはいろいろ聞きたい事もありますしね?」

「………」

 ティアは大人しく連行される。途中護衛隊やハリスにもばっちり見つかり小言を言われた。






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