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第六話 白薔薇姫と薬の真実
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しおりを挟むティア姫は塔の一室に入れられて警備隊と隊長二人にガッチリ見張られるはめになった。
可哀そうなジルは怪我を手当てされてとある個室に収監された。効果を消す薬がないため効果が消えるまで待つしかない。
「―――さて、何を企んでいたか吐いて貰いましょうか?」
テーブルの向かいでルウドが睨んでいる。ティアは不思議そうにルウドを見つめる。
「…何も企んでいないわ」
少しでも媚薬は媚薬。ジルであれだけの効果を出したのにルウドでは効果なし。
そんな訳がないはずだ。絶対おかしい。
「……ねえルウド、私を見て何か感じない?」
「大変な怒りと苛立ちを感じています」
「………私そんなに魅力ない?」
「今そんな話してないでしょう?」
「媚薬を飲ませたらルウドもあんな甘いセリフを言ってくれるのかしら」
「薬で言わせて満足ですか?何か意味がありますか?」
「気休めよ、叶わない夢を見るくらいいいじゃない」
「人に迷惑がかからなければ私も文句は言いませんがね」
「ルウドにしか掛けないわよ」
「………‥」
二人は何故か火花を散らす。
二人の会話と雰囲気に耐えられなくなって来た騎士達とハリスは静かに部屋を出た。
しばらくの沈黙の後、ルウドが口を開く。
「あんなもの私には効きませんよ」
「そんなはずないわ」
「絶対に効きません」
「…………それだけ私が嫌いって事?」
不安で崩れそうな顔になる姫にルウドは慌てて叱りつける。
「馬鹿な事を言わないで下さい!何時もいつも何故そんなあり得ない事を思うのです?全く理解できない!」
「何よすぐに会いにも来てくれないくせに!私の事なんか愛してもくれないくせに!」
「…………」
泣きだすティアにルウドは掛ける言葉を無くして凍りつく。
姫から目を逸らしてしばらくしてルウドは呟く。
「―――――貴方にその言葉を掛けるのは私ではありません」
「私は、あなたでなければ駄目なのよ……?」
「…無理を言わないでください」
ルウドはそっと席を立ち、部屋を出て行った。
―――――いつも一方通行。何時になったら……。
誰の言葉より、ルウドの言葉が一番痛かった。長年拒絶され続けて傷付けられて、それでも変わらない気持ちが苦しくてならない。
気休めでもいい、どうせ叶わないのだから。
束の間の幸せを求めて何が悪いというのだ。
外へ出るとハリスと警備隊達がいた。何とも言えない顔をしてルウドを見る。
「ルウド、姫があんな事をしたのはもとはと言えば……」
「何も言うな、分かっている」
何があろうと認めるわけにはいかない、知らぬふりをするしかない。
長年そうやって凌いできたがもういい加減限界が来ていた。
―――認めなければ、先へは進めない。
ルウドもティアもとうの昔からすでに手遅れだった事は知っていた。
知っていて知らぬふりをしていたのはルウドだった。
直向きな思いをひたすらぶつけて、心が壊れる程に傷ついて泣き続けるのはティアだった。
冷酷な言葉を姫にぶつけて心が痛まない訳がない。その痛みすらもルウドは知らぬふりをした。
ジルに罪はない。元々悪いのはティア姫なのは分かっている。
だがあのとき、あの光景を目の当たりにして。
泣いてルウドの名を呼びながらも今しもジルに唇を奪われそうになっているティア姫を見た時。
異常な程大きな憎悪と殺気が一瞬にして膨れ上がったのをルウドは覚えている。あのまま姫が奪われていたらきっと、ルウドは狂ってジルを殺していたかも知れない。
「……どうしろというんだ」
持っている物は気持ちだけ。それではどうする事も出来ない。
ルウドにはつかの間の夢すら見せる勇気も余裕もなかった。
ルウドは全く自分に自信がないし、信用も出来ない。
深い思いは理性で包み隠して心の奥底まで封じ込めた。
いつでも決意と覚悟を持って姫と接していた。
長年鍛え続けていた鉄壁の理性がたかが媚薬ごときで崩れる訳がない。
『可憐で優しく繊細で、誰よりも愛しい白薔薇の姫。貴方を守り、誰よりも幸せになれるよう、何時でも最善の努力をするよ』
たとえ思いが還らなくとも。別れればそれが永遠になる事を知っていても。
それが何も持たないルウドが姫に出来る精一杯のことなのだ。
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