意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第七話 マルス城の噂の真相

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 魔法使いに預けられた子供、パティーはひたすら庭の草むしりをしていた。
 ひたすらぶつぶつ文句を言いながら仕事をしていると塔には様々な人達が出入りしているのが目に入った。

 塔の入り口では警備隊達が何か深刻な顔で話している。

 ―――なのに俺だけカヤの外。未だに塔の中にすら入れて貰えず。

 この草むしりも何か理由があるのかと考えてみたが特に思いつかなかった。
 逃げようかと思ったが逃げたところでパティーに行くところなどなかった。



「くっそう、疲れたなあ。中に入りたいなあ…」

 のろのろと立ち上がり、塔の側まで近付くと突如ドアが開いた。

「魔法使い!ねえそろそろ中へ入れてよ!」

 ゾフィーが今気がついたという感じでパティーを見た。

「なんだ?まだいたのか?」

「どう言う意味だよ!逃げ出すわけないだろ!」

「じゃあ牢に戻りたくなったのか?」

「そんなわけあるか!中へ入れてくれよ?塔の中へ」

「………」

「…………なんだよその沈黙?」

「草は全部刈ったのか?」

「そんなの無理に決まってるだろ!何の修行だよ!」

「牢になら戻ってもいいぞ?」

「何にもしてないのに何で牢に入らなきゃならないんだ!冗談じゃない」

「ならそこにいろ」

 冷やかに言われ、ドアがパタンと閉められた。
 パティーは仕方なくのろのろと森側に進み、木陰に座る。
 こんな無理難題突き付けるあたり、魔法使いは塔に入れてくれる気がなさそうだ。
 仕方がないのでパティーはとりあえず今夜の寝床を捜す事にした。








 昼食の席でパラレウス皇子は困っていた。

「……」

 ティアが無言の圧力を掛けている。
 掛けられても困る。昼食ぐらい静かに味あわせて欲しいと切に願う。
 ティアの雰囲気に何かを感じ取った一家は今度は何だ?という視線を持って皇子を見ている。
 知らぬ顔を通している皇子は注目されている中、一人黙々と食事をとっている。

「―――あー、ティア。ルウドの様子はどうだ?もういいのか?」

 沈黙の耐えられなくなったらしい王が口火を切った。

 ルウド、の名前にぴくりとティアは反応する。

「……元気よ。もうすっかりね……」

 その割には声が暗い。また何かあったのだろうか?
 王はしまったと言わんばかりに姫から目を逸らし、スープをスプーンですくって飲み始める。

「また喧嘩したの?全く懲りないわねえ。だいたいルウドはティアなんか相手にしないって分かってるんだからもういい加減諦めればいいのよ。その辺に皇子なら幾らでも居るのだから無難なのを選べばいいのに」

 ミザリー姫がまた懲りもせずに地雷を踏んだ。
 ティア姫の目がぎろりとミザリーを睨み、光る。

「まあ、そう言うお姉さまこそまだお相手も決まっておりませんわね。決めかねているのか、決める事が出来ないのか、どちらかしら?」

「……いいのよ、私は。いずれ決めるわよ」

「いずれ?ああ今は無理ですよね?それはそうだわ、今はあの方に夢中ですものね?あの黒い肌をした………」

「なっ!何言っているの!ち、違うわよ?違うんだから!いい加減なこと言わないでよティア!」

「まあ、ごめんなさい、まだ確証がないものね」

 ティア姫がくすくす悪魔の笑みを漏らす。
 焦るミザリー姫に全員の目が集中した。

「ご、ご、誤解なんだからあああああ!」

 ミザリーは逃げた。
 パラレウスは息を落してふと顔をあげるとまたティアが睨んでいる。

「―――お兄様……」

「いや、その、君が気にかける様な事は何も無いから」

「気になるのよ。気になって夜も寝られないわ」

「夜は寝た方がいいよ。夜更かしは肌に悪いよ」

「どうでもいいのよそんな事。お兄様、私に隠し立てしてそのまま済むと思っているの?」

「隠し立てなんてそんな。何も隠してはいないよ」

「―――へえ、あくまでもそう言う方向なのね。いいわ、私にも考えがあるわ」

「……ティア、くれぐれも言っておくが先日のような事はほんとにもう二度とやめてくれよ」

「分かっているわ。一人で外へ出たりはしないわよ」

「……‥」

 ティアは不機嫌そうにサンドイッチをほおばる。
 皇子は何だか不安になったがこれ以上は突っ込まない事にした。






「―――――腹減ったなあ…」

 パティーは木陰で休みながらぐうぐうとなる腹を押さえる。最後にモノを食べたのは昨日牢の中で。街で病気の母と共に強制移動されて、母は病棟へ、パティーは何故か牢に閉じ込められた。
 
 不当な扱いにしばらく怒り騒いでいたが牢の中で与えられた食事は粗末ながらも美味しかった。何日ぶりかのまともな食事に満足したパティーは、牢だがきちんと寝台も毛布もあるその寝床で何日ぶりかの睡眠を貪った。

 牢が罪人を押し込めるところという一点さえ除けばパティーにとってそこは天国のような場所ではあった。何もしなくても食事が出るなんて夢の様だと思う。

 ―――もしかして俺は明日処刑されるのか?まさかあれが最後の晩餐?

 ただ寝台に横たわっていると訳もなく不安に駆られたが、罪など犯していないのにそんなわけはなかった。
 母は街役人に預けられ、パティーは再び城に入れられた。
 ぞんざいに魔法使いの所に預けられたが実際はパティーの監視役らしい。
 だから放置され、食事も与えられずにこのままだ。

「連れてきて放置されてもなあ…。街へ逃げ帰っても仕方ないしなあ」

 実際パティーに行く当てはない。ここにいるしかない。

「―――――あら、坊や…?」

 魔法使いの塔に向けて歩いていたティア姫と目があった。

 姫はパティーを見るとすぐに寄ってきた。

「何をしているの?そういえば草刈をしていたような?」

「パティーだよお姫様。こんな広いとこ一日で草刈出来るもんか。……それよりさあ、何か食べるもの持ってない?森の湖の魚、採って食べてもいいかなあ?」

 ティア姫が目を丸くしてパティーを見る。

「パティー、昼食まだなの?食事はきちんととらないとダメよ?」

「だからさあ、食べ物どこにあるんだよ?誰もくれないし…」

「……パティー、食事は自分で摂りに行かなきゃ誰も運んでくれないわよ?」

「姉ちゃん、俺分かんない、何にも聞いてないし…」

「……そうなの…?」

 魔法使いも警備隊も何も教えてくれない。嫌がらせだ、とパティーは思った。

「食事はお客様用の食事室もあるし、使用人用や警備用の食事室もあるのよ?その部屋はいつも開いているし好きな時間に食事出来るようになっているの。
 城内の人達は皆昼夜問わず動いているから必要なのよ」

「へえ、すごい、いいなあ。何時でも食べれるのか…。そこってただなの?」

「……城の人はみんな身内よ。お金なんて取るわけないわ」

「夢の世界だな。俺もここに生まれたかった…」

「……ええと、貴方はお客様になるのかしら?」

「―――――ティア様。パティーは警備隊と同じ宿舎で。お客様ではありません」

「ルウド、…そうなるのね」

 姫様の後ろから銀髪青眼の警備隊の男が現れた。
 なんだか冷たそうな感じの怖そうな男だ。目つきも鋭い感じに見えた。
 ルウドと呼ばれたその男は何故かパティーをじろじろ見る。嫌な感じだ。

「じゃあパティー、行きましょう?警備隊の食事室はすぐ近くよ」

「やったあ!」

 パティーは姫に手を引かれ、食事処に案内される。その後ろからルウドが何故か着いてきた。

「……ねえちゃん、後ろの人、ついてくるけど?」

「うん。私の護衛だもの。ずっと付いてた護衛隊がとうとう限界で休ませたいからって当分彼一人が付く事になったの」

「……城内のあちこちに警備隊いるだろ?なのにまだ専属の警備が必要なんだ…」

「うーん、まあ色々あるのよ」

「……へえ……」

 パティーは疑わしそうにティアを見る。お姫様が動き回るから警備が必要なのではないのか?
 ちらりと後ろを見ると困った顔で着いてくる護衛と目があった。







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