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第七話 マルス城の噂の真相
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しおりを挟む外に出るともう空に夕闇がかかっていた。
「何時の間にかもうこんな時間。一度晩餐に戻らなきゃ」
「そうですね。探検はもう明日に回してはどうですか?」
「お姫様、ルウドさん、でも次の噂は夜にあるんだよ。湖に何か出るって噂」
「確かめるのは一人でも出来るだろう?ティア様はもう部屋に戻りましょう」
「……そうね、残念だけど」
「ティア姫様、半日付き合ってくれて有難う。夜の結果は明日報告するよ」
「そう?じゃあ楽しみに待っているわ」
「パティーも食事を済ませて塔で待っていなさい。私は姫を送ってくる」
「うん、わかった。有難う」
パティーは元気に食堂の方へ走って行った。
ティアは城内へ入り晩餐へと向かい、護衛のルウドは付き従う。
「パティーは元気ね。明るくていい子だわ」
「そうですね」
貧民層の街の子供の現状がパティーを見て良く分かった。
分かったからと言ってティア姫に出来る事はないのだが。
「それに引き換えうちのお姉さまは仕方がないわね」
「まあ仕方がないのは貴方もですけどね?」
「…‥なんでよ?」
ティアは横のルウドを睨む。ルウドは微笑む。
「笑い花も城の幽霊も元はと言えば姫のせいでしょう?部下に余りおかしな事をしないで貰いたい」
「ただの栄養剤って言ったでしょう?」
「そもそもなぜそんな物をあげたのです?」
「ちょうどゾフィーの薬が切れてたのよ」
「……陛下に飲ませてるとか?」
「別に何ともないわよ。元気でしょう?元気すぎてチョット…とかお母様が言っていたけど」
「……そうですか…‥」
ルウドは肩を落とす。
ティアは突然そのルウドの襟元を掴んで引き寄せる。
「姫様?何するんですか?」
「そうよ思い出したわ。これだけは絶対吐いて貰うわよ?貴方、ゾフィーから媚薬を回収したでしょう?何に使うの?」
「使うわけないでしょう?処分するのです!」
「嘘よ!あっ、まさかどこかの意中の女の人に飲ませていけない事を!いやっ、ルウド不潔よっ!」
「そんな事出来るわけないでしょう!大体あれは姫用の媚薬。姫が誰かに飲ませる薬でしょう?使える訳がない!処分するのです!」
慌てるルウドをティアは半眼で睨み据える。
「へえ…、ルウドにも使える媚薬なら使うんだ」
「媚薬など使いません。意味がありませんから」
「ふうん、薬なんか使わなくても自信があるわけね?」
「……ありません。いいからもう放して下さい。何故そんなに絡むんですか?」
「……‥」
ルウドがティアの身体を無理に剥がした。
ティアはちょっと悲しそうにルウドを見る。
「姫様、さあ晩餐にお行きなさい。家族が待っておりますよ?」
「ルウド」
「何です…‥?」
ルウドの隙をついてティアはルウドに抱きつく。
「大好きよ。たとえ貴方が私を愛してくれなくても私はルウドをずっと好きだし、絶対捨てたりしないわ。最後までずっと傍にいて面倒見てあげる」
「私はあなたのペットではありません。最後までなんて不可能な事誰も望まないし信じはしませんよ」
ティアは弱弱しく微笑み、晩餐の部屋に入る。
ルウドには身内はいない。今は騎士業と庭師をしているが実は辞めようと思えばいつでも辞めれる。何をしても止める者がいない彼は自由で、行こうと思えばどこへでも行ける。
ティアと離れたければ簡単に縁を切って出ていける。
考えたくもないがそんな日が近づきつつある気がしてティアは怖くてならなかった。
――――拷問だ……。
ルウドは姫と別れたその足で森の湖まで早足で歩く。
周囲の状況など考えられない。ルウドはひたすら歩き続け、湖のほとりまで来てへたり込む。
この暗い森ならルウドの顔は見えない。誰もいないのだから気にする必要もないのだが今は自分の顔を確認すらしたくなかった。
ルウドは湖の水面に頭ごと顔を付ける。頭も顔も冷やしたかった。
「―――――――ティア………」
この腹の底から湧き上がる感情を誰か何とかしてほしい。
けして媚薬の効果などではない。そもそも媚薬など関係ない。
「…気が変になりそうだ…‥」
媚薬よりも厄介なのは長年与えられ続けてきた姫の温もり。優しい言葉。柔らかな感触。
ティア姫が必要だと言ってくれるからルウドはまだこの城に居る。
この暖かな居場所を与えてくれたティア姫に、誰よりも幸せになって欲しいから傍で護っているのにその姫にあらぬ欲望を抱くなどあり得ない。
ルウドは何度も湖に頭を突っ込む。
いっその事滝にでも打たれたい。湖に飛び込むことも考えたがまた熱を出したらハリスに怒り狂われるからやめておく。
「頭を冷やせ……」
まだしばらくは姫の傍にいたい。いなければならない。
姫の幸せを見届ける、その時までは―――――。
夜の森は真っ暗で何かがいそうだ。
一人で探検するとは言ったもののやはり一人では怖いので食事処で会ったハリス隊長に着いて来て貰った。
「森で水音?うーん、まあいいよ?」
ハリスはあっさり承諾してくれた。最初の印象は悪かったが話してみると結構気やすくていい人だった。
二人はランプを持って森へ入る。
するとしばらくしてどこからかぴちゃぴちゃと水音がした。
「……ホントに水音…?」
「……あいつまさかまた…?」
ハリスが足早に水音の方に進むのでパティーも慌てて着いていく。
「ハリスさん、なんか心当たりが?」
ハリスの足がぴたりと止まる。
「……ああ、やっぱり…」
木の陰から湖のほとりを覗くと黒い影が水辺で何かしていた。
「……何してるのあれ?人?幽霊かな…?」
「幽霊は水浴びなんかしないから。うーん、頭だけならまあ…」
頭を水に突っ込んでいる。そして何かブツブツ言っているようだ。
「……あれはあれで薄気味悪いなあ。今の時間は結構涼しいのに何であんな事してるのかなあ?聞いてこようか」
「よしなさい。ほっておいてあげなさい。彼なりに何か頭が沸騰するような事があったのだろう。ああやって気を静めようとしているのだよ」
「……お城の人って大変なんだね」
半日歩いて回っただけでパティーのお城の役人達のイメージは大変変わった。
厳格で冷徹から、何だか愉快で可哀相な感じに。
そしてこの湖の幽霊。
何度か遭遇し、正体を突き止め、事情を知ったとき、パティーの中で真実の噂がまた一つ増えた。
【お城の庭師は白薔薇姫を愛する余りに時折森で正体をなくして幽霊になる】
けして今他言出来る噂ではないがいつか流してもいいかとパティーは思っている。
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