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第五話 幻の秘薬と奇跡の姫
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しおりを挟む「…詰まんない…」
ティアは薔薇園で独り呟く。
病気で倒れたルウドの見舞に行ったのだがうつってはいけないと部屋にすら入れて貰えなかった。仕方がないので花だけおいてティアは引き返した。
何も出来ないのでせめてルウドが気にしているだろう薔薇園で薔薇の手入れをすることにした。
明るく晴れやかな空の下、穏やかな薔薇園で作業に集中しているとどこからか騒ぐ声が聞こえる。
「そっち行ったぞ!囲め!」
「早く捕えろ!」
「くそっ、素早い奴め!」
「どこへ逃げた!」
「……」
うるさい。人が気分良く作業しているのに。
ティア姫は非常に気分を害し、護衛の兵にクレームを付ける。
姫の護衛は現在、やはり五名の騎士が付いている。やはりハリスの差し金だが、ティアの所業の報復を企む者もいるかもしれないと言われてしまったら黙って受け入れるしかない。
彼らはティアを囲むようにばらばらに周辺に配置している。
「ちょっと!庭園が煩いわよ、何が起こったのか見てきなさい」
「出来ません、我々は姫様の護衛ですから」
「少しくらい離れたって大丈夫でしょう?」
「ただの一時も目を離してはいけないと強く言われております」
「何が起こっているのか気にならない訳?」
「庭園にも警備は十分に配置されているのです。彼らに任せておけば問題ありません」
「……貴方、二番隊?」
「そうですが?」
「……そう」
ティアはしぶしぶ作業に戻る。
部下は上官に習うものである。三番隊は迂闊なのが多いが二番隊は頭が固いのが多い。
それを分かっていてこの配置をしたならハリスはやはり油断ならない癖ものだ。
一人でブツブツ言っていると更に声が近付いてきた。薔薇園をバタバタ掛けずりまわる足音がする。
「――――ちょっと!うるさいわよ!何してるのよっ!」
「すすすす、すいません!侵入者が…、すぐ捕えます!」
「侵入者?」
「意外に素早くて、すぐに捕えます!」
警備兵は慌てて走って言った。
一体何を追っているのか?動物だろうか?
動物位で一体何をやっているのだ?
薔薇園の周囲を見回すとバタバタと警備が走り回っている。
「ちょっと!いい加減に……!」
薔薇の隙間から現れた子供と目があった。
「………」
「……‥」
「…ちょっと、薔薇の枝を荒らさないでよ。薔薇園は遊び場じゃないのよ?」
「……、ええと……御免なさい。遊んでるわけじゃないんだけど」
「どうでもいいわ、とっとと薔薇園から出て行きなさい」
子供は困ったように通路に出た。土の上でせっせと枝の手入れをするティアを眺める。
「……あの、お姉さんは城の人?」
「そうよ?」
「魔法使いの塔って知ってる?」
「知ってるわよ」
「そこに用があるんだけど?」
ティアはそこでようやく顔をあげて子供を見る。
「なによ、あなたゾフィーのお客さん?」
「……うん、そうなんだ。お客なんだ」
「なら早く言いなさいよ。案内するから待ってなさい」
「ホント?有難う!」
ティアは片付けを済ませると薔薇園から離れる。
「そう言えばあなたどこから来たの?城の子ではないでしょ?」
「うん、街から。大切な用で」
「……へえ‥…」
「―――――姫様!お待ちください」
周囲を守っていた護衛達が慌てて追いかけてきた。
「姫様っ、護衛を置いていかないでください!…なんですその子供?」
「ゾフィーのお客よ?ちょっと塔に案内してくるだけよ?」
子供はティアの後ろに隠れる。
「まさか不審者ではないでしょうね?」
「ゾフィーのお客だって。私一人で十分よ」
「いけません、我々も付いていきます。それが仕事です」
「……分かったわよ」
珍しそうに眺める子供を連れてティアは歩きだす。その後ろから騎士が五人ぞろぞろ付いてきた。それはもうとても目立ち、周囲の人々の注目を浴びた。
「―――――姫!」
庭園を過ぎた所でハリスが駆けよってきた。
「ちょっとハリス!なんとかしてよこの状況!恥ずかしいったらないわ!」
「そんな事より姫様、その子供は先程から捜している不審者です。お引き渡しを」
子供は素早くティアにしがみ付いた。
「……ゾフィーのお客じゃないの?」
「そうだよ!俺は魔法使いに用事があるんだ!連れていっておくれよ!」
「連れていけばいいんじゃない?」
「いけません、この子供は城内に勝手に忍び込んできた不審者です。子供であっても許すわけにはいきません」
「許さないってどうするのよ?」
「侵入経路を吐かせた後、城外へ追い払います」
子供はティアにしがみ付き必死に訴える。
「お姉さんお願いだよ!魔法使いの所へ連れて行ってよ!」
「さあ姫様、お引き渡しを」
「ゾフィーに会わせるくらいいいんじゃないの?」
「ダメです、何かよからぬ事を企んでいるかも知れません」
「…ただの子供でしょ?」
「俺悪い事なんか考えてないよ!魔法使いに用があるんだよ!お願いだよお姉さん、お役人様!」
ハリスは困ったように姫に張り付いている子供を見る。
護衛達が姫から子供を剥がそうとするがなかなか剥がれない。
「こら!離れろ子供!この方をどなただと思っているのだ!」
「何が姉ちゃんだ無礼な!子供といえど許さんぞ!」
「汚い手で姫に触るな!なれなれしいぞ!」
「何なんだよおお、姫ってお姉さん?何者だよ?」
「この国のお姫さまだ!無礼は許さんぞ!」
「ええええっ?」
驚いた子供がようやく姫からはがれた。護衛の一人が子供を拘束する。
「さあ隊長、どうぞ」
「わあやめろ!俺は諦めないぞ!」
「ゾフィーに会えば大人しく帰るのよね?」
「そうだよ!だから頼むよ!」
「ハリス…」
「……分かりました。ただし我々も付いていきます。そして用件が終わったらすぐに城から出て貰いますから」
「それでいいわよね、坊や」
「坊やじゃない、俺はパティーだ」
「……そう、分かったわ。私はティアよ」
さらに連れが増えてしまいウンザリしながらティアは塔へ進む。大の男が何人もぞろぞろと付いてくるので姫はとても目立った。
だが庭師姿の姫を見て誰もそれがティア姫と認識するお客はほぼ居なかった。
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