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第五話 幻の秘薬と奇跡の姫
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しおりを挟むお城には様々な噂がある。
【マルスの王城には夜な夜な魔女が実験台を求めて彷徨い歩く】
【王国の姫君は恐ろしい秘薬を操り人を呪い殺す】
【城の庭から夜な夜なすすり泣く声が聞こえる】
【最近夜中になると湖から水音が聞こえるが確認しても誰もいない】
【不気味な魔法使いが昼夜問わず城中を徘徊している】
それはお城で務める者達から流される噂なので信憑性が高いが街中に広まるまでに不気味な尾ひれがつきまくりどこからどこまでが真実なのかが分からなくなっている。
だが噂の中に真実があるのも確かだ。でなければ噂は出ない。
「……魔法使い…魔女…」
会いたい。どうしても会って縋らなければ。
噂はともかく実際に会って優しい人達である事を心底祈る。
もう他に拠り所とするものがない。
だから、どうか。
あの舞踏会から数日、ティア姫は機嫌が良かった。
何か憑き物が取れたようにすっきりしている。
あれだけ泣いていたのにルウドが優しいと言うだけでここまで変われるものなのかとゾフィーは呆れる。
彼女は複雑そうに見えて案外単純に出来ているのかもしれない。
全く謎の生き物だと彼は思う。
そして謎の生き物と言えばもう一人。なぜ暑くもないのに冷たい湖で毎夜泳ぐのか?
意味が分からない。そして彼は熱を出して倒れた、普通の人間なら当たり前の結果である。理解不能だった。
「ところで姫様、例の薬ですが、まだお持ちで?」
「持っているわよ?」
「使われないなら返して下さい」
「…どうして?」
「薬品の管理は私の仕事ですよ。ここでしか造れないような薬ばかりですから他に出回っては大変なのです」
「………」
姫は困ったようにゾフィーを見る。どうやらまだ迷いがあるようだ。
「姫様?彼に薬は使えないのでしょう?」
「ルウドの心は私にはないわ。私、夢はみたい。だってきっと一生叶わない夢だもの。でもまだ夢を見る勇気はないの。だって後が怖いもの……」
「…では時期が来たらお渡ししますから一度返して下さい」
「分かったわ」
ゾフィーは沈んでしまった姫をみて掛ける言葉もなく困ってしまった。
白薔薇姫がどれだけ庭師を愛しても彼はずっと気付かない。
庭師は本当に白薔薇の愛に気付いていないのだろうか?
「ルウド、ほんと困るよ、人手がないこの時期に」
「済まない…‥部下は全員預けるから」
「ルウドでなきゃ無理な仕事沢山あるって分かってる?」
「……済まない。明日までに治すから」
「騎士隊長の自覚持ってよ本当に。庭師だけが仕事じゃないんだから」
「悪かった……」
高熱で寝込んでいるルウド相手に散々愚痴った後、ハリスはルウドの部屋を出る。
もともと見舞に来たのだが自分から湖に飛び込んで風邪をひいたと聞かされては文句の一つも言いたくなる。何故そんな事をしたのかと問い詰めても彼は何も言わなかった。
全く意味が分からない。そういえば彼が湖に飛び込んだのはあのパーティの夜だ。とするとまたティア姫と何かあったのだろうか?
―――全く困ったものだ。どうして普通に仲良くできないんだあの二人は…。
ハリスは駐留地に向かいながら自然溜息が漏れる。
歯痒いのは何も出来ず見ている事しか出来ない自分だ。
ハリスは庭園の方へ向かう。城門から城の周囲の警備は元々二番隊の管轄だが隊長のルウドが倒れたのでハリスはこちらの警備まで請け負わされた。
仕方がないが最近働き過ぎだとハリスは思う。
ハリスは庭園に異常がないかを確認する。
特に何も無い、いつもの普通の光景。ティア姫が意地悪をしていないとこんなにも庭は平和だ。その平和がルウドの挙動に掛っていると思うと複雑なモノがあるが。
ハリスは部下の報告を受けながら庭園の周りをゆっくり進む。すると突如、何かが植え込みから飛び出してきた。動物か、と一瞬思ったがそれが人の形をしていたので咎めようとして言葉を飲み込む。
―――子供だ……?
見た所十歳前後の男の子。城にも子供は何人かいるがこの子供は明らかに城の子供ではない。客人の子でもない。街の貧民層の子供だ。
「――――――君!待ちなさい!」
子供は素早く逃げた。人々の間をすり抜け薔薇園の方へ。
「―――侵入者だ!その子供を捕まえろ!」
警備隊も周囲の客達も泡立つ。バタバタと庭園が混乱した。
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