意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
43 / 171
第八話 真実の書

2

しおりを挟む


 魔術師の塔へどかどかとやってきたティア姫は魔法使いゾフィーへ堂々と言い放った。

「私は行くわ!誰が反対しようがどうしようが絶対行くからね!」

 ゾフィーは怯んだ。姫の護衛で張り付いているルウドも困った様子で姫を見ている。

「毒は消せるの!今すぐに毒消しを飲ませれば皆助かるのよ!とりあえず今はあの薬を使うわ!」

「……姫、皇子の許可は…?」

「体面気にして動かない人の言うことなんて聞くもんですか!助かる命があるのに助けないなんて最悪よ!もう待てないわ!こっそり街に行って重症患者に薬を飲ませてくるわ!」

「……‥姫…」

 無茶である。だがこの姫は危険すら省みず突き進んでいこうとする。
 反対する者がいれば倒してでも先に行く。そこに壁があれば破壊する。
 姫が持つ手札が姫に力を与える。

 何故こんな事になったのだ?

 ルウドもゾフィーも大変困った。
 普通のお姫様は部屋で大人しくしているものだ、姫の姉アリシア様のように。

「お待ちなさい、姫」

「何よ、ルウド。止めたって無駄よ?」

「別に止めはしませんが、薬を届けるのなら別に姫が行く事はないでしょう?兵に届けさせなさい」

「でも、こっそり飲ませるのよ?簡単に行かないわ」

「騎士隊の兵ならば簡単に街の牢に入り薬を飲ませるなど容易いですよ。街をろくに知らないあなたよりはね?」

「………」

 ティア姫は黙ってルウドを睨む。

「それとも貴方は私の部下が信じられないとでも言うのですか?」

「……分かったわよ、任せるわよ。ついでに幾つか買い物も頼むわよ」

「……‥」

 ティアは買い物リストをルウドに渡すとあとはゾフィーに頼んで調剤室に籠ってしまった。

「……ルウドさん」

「仕方がない。姫には街にだけは出て欲しくないんだ。そのための多少の妥協はやむをえまい」

 ルウドは買い物リストを開いて眉をひそめる。

「……どこにあるんだこんなもの?」

 意味が分からない。またいつもの嫌がらせだろうか?







 外の用件は騎士達が果たしてくれるようなのでティアは研究に専念することにした。
 材料は外で調達してきてくれるのでいいが問題はまだ解読出来ていない文書などがあるところだ。
 ただちに資料を集めて解読に取り掛からねばならない。
 ゾフィーの調剤部屋にも本がある。しかしここの本はゾフィーの集めたゾフィー好みの本。一応調剤系の専門書もあるがあまり役に立たない。

 ロヴェリナの記述書は完全な魔法薬の専門書。だからこそ難しい文書や専門用語がずらずらと並び、素人では到底解読できないようになっている。

 だがティアは諦めない。そもそも記述書の研究はもうかれこれ六年も続けている。
 少しは理解しているつもりなのだ。
 だからこそ、例の万能薬を見つけた。

「急がなきゃ!時間が足りない!」

 バンとドアを開けると廊下にいたゾフィーとルウドと目があった。

「―――行くわ!」

「…姫様、どちらへ…?」

「調べ物をするわ。まず資料集めよ!」

「……?」

 ゾフィーは困った顔で姫を見送り、ルウドは分からないままに姫に付き従う。








「お兄様!書庫で捜し物をさせていただくわよ!」

 突然バンとティアはドアを開け、皇子の書斎に入ってきた。そして無遠慮に捜し物を始めた。

「……ルウド……」

 続いて入ってきたルウドを責めるように見ると、ルウドは困ったようににが笑う。

「申し訳ありません。たぶん、すぐ、済むと思いますから…」

 別にルウドが謝る様な事でもないが彼はすまなそうに部屋の隅で姫を待つ。

「ティア、何を捜しているんだ?」

「ん、いろいろ」

「………‥」

 色々って何だ?

「……ルウド…」

「私にも分かりかねます」

「ルウドなのに……‥」

「私だからと言って姫の全てを知っているわけではありません」

「そうなのか…‥?」

 幼いころより実の兄より慕っている彼にはティアは秘密一つ無いモノと思っていた。
 それは結構意外だ。
 すると捜し物に集中していたティアが突然怒りだす。

「お兄様のばか!何考えてるのよ!ルウドが私の全てを知っているわけないでしょう?いやらしい想像しないでよ!」

「…いや、そう言う意味ではないが。君こそ何考えているんだ?」

 言い返したらぎろりと睨まれた。お姫様なのにこれでいいのかと時々疑問に思う。

「もう、いいわよ。お兄様、何冊か借りて行くわよ」

 そして慌ただしく出て行った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。 本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。 母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。 そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。 これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

おばあちゃんの秘密

波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。 小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

修道院パラダイス

恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。 『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』 でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。 ◇・◇・◇・・・・・・・・・・ 優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。 なろうでも連載しています。

処理中です...