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第八話 真実の書
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しおりを挟むティア姫が次に訪れたのはアリシア姫の部屋だった。
アリシア姫は相変わらず部屋でのんびり過ごしている。
「あらティア、どうしたの?ルウド付きで」
退屈を紛らわせるものが来てアリシア姫は嬉しそうだ。
「相変わらずねお姉さま。よく飽きないものね」
アリシア姫は一日のほとんどを部屋で過ごす。勉強や趣味の読書など。
もちろんお客様の相手や婚約者との逢瀬もある。
「貴女が全く懲りないのと同じね」
クスクスと笑うアリシア姫にティア姫は憮然とする。
「……まあとにかく、お姉さまの書庫で捜し物をさせていただくわ」
「いいわよ。あなたの望む物があるかは分からないけど。あ、でも何冊かお勧めの本を貸してあげる。読んでみると面白いのよ?騙されたと思って読んでみて?」
「……‥」
アリシア姫お勧めの本とは恐らく殆どバリバリのロマンス小説。
笑える前にティア姫は眠くなる。
「……私よりルウドの方が楽しく読んでくれそうよ?そうね、先にルウドに貸してあげる」
ティアはそそくさと隣室の書庫へ入って行った。
残されたルウドは不満そうに書庫に繋がるドアを見る。
ロマンス小説などルウドだって興味ない。
「ルウド、ティアを待つならここに座って。そんな所に立っていないで。私の書庫は広いから結構時間かかるわよ?お茶でもどうぞ」
「申し訳ない、有難うございます」
ルウドは大人しく座り、アリシア姫にお茶を入れて貰う。
「これお勧めの本よ。貴方が読んだ後でいいからティアにも読ませてあげてね?」
「はい」
ルウドは目の前の二冊ほどの本の表紙をじっと見る。
本自体あまり読むのは得意じゃない。ロマンス小説ならば子供の方が好きではないだろうか?
ルウドはこの本をパティーに押し付けることを思いついた。
その間アリシアはルウドの向かいのイスに座り、興味深くじろじろと眺める。
「……なんです…?」
「ちょうどいい機会だからぜひ聞かせて貰うわ。ルウド、ティアとどこまでいっているの?」
「………‥どこも行っていません」
アリシア姫は残念そうにルウドを見つめる。
「固いわね、駄目よそれじゃあ。お父様が大変心配してるところだけど、欲しければ今のうちに奪い取っておくべきよ?私はあなたとティアの味方だからね。
お父様があなたとティアを離そうと画策し出す前にけして離れられない様に契りを結んでおくべきだわ」
固いルウドもアリシア姫の爆弾発言に顔色が変わった。
「―――――なななななな、何言っているんですかっ!そんなこと出来る訳ないでしょう?大体そんな仲ではありません!変なこと言わないで下さい!私はただの庭師兼騎士です!姫を守る立場の私がそんな事する資格がありますかっ!無茶言わないでください!ティア様は、お姫様らしくどこかの国の皇子と結婚してこそ幸せになれるんですっ!」
「――――――…へえ…‥」
アリシア姫は呆れたようにルウドを見ている。
「あれだけティアを愛しておいて、途中で手放すなんて本当に出来るのかしら?」
「――――――――…っ、あああ、アリシア様はっ、少しロマンス小説の読み過ぎではないですかっ?私がティア姫を……、なんてあり得ないでしょう?なななななな、なぜそのような妄想膨らませるのですかっ!あり得ないっ!やめて下さいっ!」
「そう?でも余りやせ我慢が過ぎるとふとした時にぷつりと箍が切れて感情が抑え切れなくなって一気に……なんてことがあるかもよ?」
「なななななな、何言っているのですかっ…」
ルウドは真っ赤になって首を横に振り続ける。
「あり得ない妄想はやめて下さいっ!」
「…私の妹なのに、そんなに魅力ないのかしら?」
「………」
「お姫さまだからってどこかの皇子と結婚するのが幸せってわけではないわ。あの子は自分で幸せを見つけて行く子だもの。あの子の幸せがどこにあるかなんて本当は貴方だって知っているはずでしょう?」
「――――それでも、あり得ません。素性の知れない私ごときがティア姫を愛するなど…」
アリシア姫にさんざん遊ばれながら待っているとしばらくしてティア姫が出てきた。
何だか元気をなくしていたが目当ての本を幾つか持っていた。
「一度部屋に戻られますか?この本を置いていかなければ」
「そうね、これを置いてからまだお父様のお部屋とお母様の部屋と、一応ミザリーお姉さまの部屋にも行くから」
それなりに分厚い十冊の本は重い。二人で分けて持って、ティア姫の部屋のテーブルに置いて、息をついた。
「しかしこの事典、教材、歴史書。何を調べるのですか?全く予想付きませんが」
「いいのよ、知らなくて。ルウドなんかに教えてあげない」
「……何か機嫌悪いですか?私何かしましたか?」
「―――――そうね、何もしてないわ」
ティア姫が冷ややかに言い、部屋を出て王の私室へ向かう。
ルウドは怪訝そうに付いていく。
空気が悪い。なんだか部屋の温度が下がったようだ。
ティア姫は王の執務室にある書庫で目当ての本を捜している。ルウドは部屋の隅で待っていた。
王は執務をしていたが姫が来たので手を休めてソファーに座り、お茶を飲む。
「………」
ティアは無言で書庫をあさっている。ルウドは無言で立っている。
二人とも無言なのに部屋の空気が嫌に冷ややかなのは二人のせいだと分かる。
王はゴホン咳払いをするとルウドに目を向ける。
「…ルウド、身体はもういいのか?」
「はい、おかげさまで。もうあのような事はないよう気をつけます」
「ああそうだな、騎士隊は大変なのだから身体には気をつけなければ」
「肝に銘じます」
「……ティアも勉強家なのは良い事だがほどほどにな?疲れは肌の大敵だぞ?」
「そうですね」
「………」
気のせいか声色さえも冷たく感じる。
なんだか寒くて王は暖かい紅茶を口に含む。
「……ルウドもどうだ?」
「いいえ、アリシア様の所で頂きましたので」
「……」
寒い。何なのだ?この二人は?また喧嘩したのか?
いつもいつも懲りない二人である。
しかしあまり仲がいいのも王にとっては不安なのでこれでちょうどいいのかもしれない。
そもそも嫁入り前の姫を、姫が想っている男の前に差し出していること自体不安で仕方がないのだが今更それを言っても仕方がない。
いつでもどうぞ、という状況をルウドが耐えてくれることを祈るしかない。
「そう言えばお父様」
「うん、何だ?」
ティア姫がじっと見てくる。
「ルウドのお父様と友人だったのよね?」
「……ああそうだよ?」
「ならルウドの両親の事知っているのよね?」
「……え……?まあ少しは…」
王は更に寒くなった。何故姫がそんな事を聞くのだ?
「知っているなら教えてよ?」
「…‥え?何故そんな事を聞くんだい?ルウドの父は庭師だと知っているだろう?」
「お母様は?私見た事ないけど」
「お前が生まれた頃に亡くなっているからな」
「どんな方だったの?」
「ええと、ルウドと同じ銀髪の、とても美しい人だった」
「どこの国の方?」
「……・それは知らない。姫、その話はもうやめなさい。姫には関わりのない話だ」
「でもルウドには関わりあるでしょう?」
見るとルウドが深刻な顔でじっとこちらを見ていた。
王は何だか頭痛がしてきた。
「もうそれ以上は知らない。姫よ、そんな事を聞いてどうするのだ?何か変わることがあるのか?」
「だってルウドが!素性が分からなければ嫁も取れないって!」
「………‥」
「……ティア様、私そんなこと言ってませんから」
「……‥」
ティア姫がルウドを睨む。
空気がさらに冷え、緊張感が辺りを支配し、王は嫌な汗が流れる。
「……姫さえ片付いたら、私だって普通に結婚しますよ?普通の相手と」
「……私じゃどうしても駄目ってわけね…」
ティア姫は持っていた数冊の本を投げ付けて部屋を出て行った。
ルウドは投げつけられた本を手に持って部屋を出ようとドアに向かう。
「…陛下、いつかその話、私には聞かせて下さるのですか?」
「……いいや、必要ないからな」
「……‥」
今現在、ルウドの父母の素性を知る者は恐らく王しかいない。その彼が話す気がないならばやはり秘密は永遠となる。
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