意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
44 / 200
第八話 真実の書

3

しおりを挟む


 ティア姫が次に訪れたのはアリシア姫の部屋だった。
 アリシア姫は相変わらず部屋でのんびり過ごしている。

「あらティア、どうしたの?ルウド付きで」

 退屈を紛らわせるものが来てアリシア姫は嬉しそうだ。

「相変わらずねお姉さま。よく飽きないものね」

 アリシア姫は一日のほとんどを部屋で過ごす。勉強や趣味の読書など。
 もちろんお客様の相手や婚約者との逢瀬もある。

「貴女が全く懲りないのと同じね」

 クスクスと笑うアリシア姫にティア姫は憮然とする。

「……まあとにかく、お姉さまの書庫で捜し物をさせていただくわ」

「いいわよ。あなたの望む物があるかは分からないけど。あ、でも何冊かお勧めの本を貸してあげる。読んでみると面白いのよ?騙されたと思って読んでみて?」

「……‥」

 アリシア姫お勧めの本とは恐らく殆どバリバリのロマンス小説。
 笑える前にティア姫は眠くなる。

「……私よりルウドの方が楽しく読んでくれそうよ?そうね、先にルウドに貸してあげる」

 ティアはそそくさと隣室の書庫へ入って行った。
 残されたルウドは不満そうに書庫に繋がるドアを見る。
 ロマンス小説などルウドだって興味ない。

「ルウド、ティアを待つならここに座って。そんな所に立っていないで。私の書庫は広いから結構時間かかるわよ?お茶でもどうぞ」

「申し訳ない、有難うございます」

 ルウドは大人しく座り、アリシア姫にお茶を入れて貰う。

「これお勧めの本よ。貴方が読んだ後でいいからティアにも読ませてあげてね?」

「はい」

 ルウドは目の前の二冊ほどの本の表紙をじっと見る。
 本自体あまり読むのは得意じゃない。ロマンス小説ならば子供の方が好きではないだろうか?
 ルウドはこの本をパティーに押し付けることを思いついた。
 その間アリシアはルウドの向かいのイスに座り、興味深くじろじろと眺める。

「……なんです…?」

「ちょうどいい機会だからぜひ聞かせて貰うわ。ルウド、ティアとどこまでいっているの?」

「………‥どこも行っていません」

 アリシア姫は残念そうにルウドを見つめる。

「固いわね、駄目よそれじゃあ。お父様が大変心配してるところだけど、欲しければ今のうちに奪い取っておくべきよ?私はあなたとティアの味方だからね。
 お父様があなたとティアを離そうと画策し出す前にけして離れられない様に契りを結んでおくべきだわ」

 固いルウドもアリシア姫の爆弾発言に顔色が変わった。

「―――――なななななな、何言っているんですかっ!そんなこと出来る訳ないでしょう?大体そんな仲ではありません!変なこと言わないで下さい!私はただの庭師兼騎士です!姫を守る立場の私がそんな事する資格がありますかっ!無茶言わないでください!ティア様は、お姫様らしくどこかの国の皇子と結婚してこそ幸せになれるんですっ!」

「――――――…へえ…‥」

 アリシア姫は呆れたようにルウドを見ている。

「あれだけティアを愛しておいて、途中で手放すなんて本当に出来るのかしら?」

「――――――――…っ、あああ、アリシア様はっ、少しロマンス小説の読み過ぎではないですかっ?私がティア姫を……、なんてあり得ないでしょう?なななななな、なぜそのような妄想膨らませるのですかっ!あり得ないっ!やめて下さいっ!」

「そう?でも余りやせ我慢が過ぎるとふとした時にぷつりと箍が切れて感情が抑え切れなくなって一気に……なんてことがあるかもよ?」

「なななななな、何言っているのですかっ…」

 ルウドは真っ赤になって首を横に振り続ける。

「あり得ない妄想はやめて下さいっ!」

「…私の妹なのに、そんなに魅力ないのかしら?」

「………」

「お姫さまだからってどこかの皇子と結婚するのが幸せってわけではないわ。あの子は自分で幸せを見つけて行く子だもの。あの子の幸せがどこにあるかなんて本当は貴方だって知っているはずでしょう?」

「――――それでも、あり得ません。素性の知れない私ごときがティア姫を愛するなど…」


 

 アリシア姫にさんざん遊ばれながら待っているとしばらくしてティア姫が出てきた。
 何だか元気をなくしていたが目当ての本を幾つか持っていた。

「一度部屋に戻られますか?この本を置いていかなければ」

「そうね、これを置いてからまだお父様のお部屋とお母様の部屋と、一応ミザリーお姉さまの部屋にも行くから」

 それなりに分厚い十冊の本は重い。二人で分けて持って、ティア姫の部屋のテーブルに置いて、息をついた。

「しかしこの事典、教材、歴史書。何を調べるのですか?全く予想付きませんが」

「いいのよ、知らなくて。ルウドなんかに教えてあげない」

「……何か機嫌悪いですか?私何かしましたか?」

「―――――そうね、何もしてないわ」

 ティア姫が冷ややかに言い、部屋を出て王の私室へ向かう。
 ルウドは怪訝そうに付いていく。






 空気が悪い。なんだか部屋の温度が下がったようだ。
 ティア姫は王の執務室にある書庫で目当ての本を捜している。ルウドは部屋の隅で待っていた。
 王は執務をしていたが姫が来たので手を休めてソファーに座り、お茶を飲む。

「………」

 ティアは無言で書庫をあさっている。ルウドは無言で立っている。
 二人とも無言なのに部屋の空気が嫌に冷ややかなのは二人のせいだと分かる。
 王はゴホン咳払いをするとルウドに目を向ける。

「…ルウド、身体はもういいのか?」

「はい、おかげさまで。もうあのような事はないよう気をつけます」

「ああそうだな、騎士隊は大変なのだから身体には気をつけなければ」

「肝に銘じます」

「……ティアも勉強家なのは良い事だがほどほどにな?疲れは肌の大敵だぞ?」

「そうですね」

「………」

 気のせいか声色さえも冷たく感じる。
 なんだか寒くて王は暖かい紅茶を口に含む。

「……ルウドもどうだ?」

「いいえ、アリシア様の所で頂きましたので」

「……」

 寒い。何なのだ?この二人は?また喧嘩したのか?
 いつもいつも懲りない二人である。
 しかしあまり仲がいいのも王にとっては不安なのでこれでちょうどいいのかもしれない。
 そもそも嫁入り前の姫を、姫が想っている男の前に差し出していること自体不安で仕方がないのだが今更それを言っても仕方がない。
 いつでもどうぞ、という状況をルウドが耐えてくれることを祈るしかない。

「そう言えばお父様」

「うん、何だ?」

 ティア姫がじっと見てくる。

「ルウドのお父様と友人だったのよね?」

「……ああそうだよ?」

「ならルウドの両親の事知っているのよね?」

「……え……?まあ少しは…」

 王は更に寒くなった。何故姫がそんな事を聞くのだ?

「知っているなら教えてよ?」

「…‥え?何故そんな事を聞くんだい?ルウドの父は庭師だと知っているだろう?」

「お母様は?私見た事ないけど」

「お前が生まれた頃に亡くなっているからな」

「どんな方だったの?」

「ええと、ルウドと同じ銀髪の、とても美しい人だった」

「どこの国の方?」

「……・それは知らない。姫、その話はもうやめなさい。姫には関わりのない話だ」

「でもルウドには関わりあるでしょう?」

 見るとルウドが深刻な顔でじっとこちらを見ていた。
 王は何だか頭痛がしてきた。

「もうそれ以上は知らない。姫よ、そんな事を聞いてどうするのだ?何か変わることがあるのか?」

「だってルウドが!素性が分からなければ嫁も取れないって!」

「………‥」

「……ティア様、私そんなこと言ってませんから」

「……‥」

 ティア姫がルウドを睨む。
 空気がさらに冷え、緊張感が辺りを支配し、王は嫌な汗が流れる。

「……姫さえ片付いたら、私だって普通に結婚しますよ?普通の相手と」

「……私じゃどうしても駄目ってわけね…」

 ティア姫は持っていた数冊の本を投げ付けて部屋を出て行った。
 ルウドは投げつけられた本を手に持って部屋を出ようとドアに向かう。

「…陛下、いつかその話、私には聞かせて下さるのですか?」

「……いいや、必要ないからな」

「……‥」

 今現在、ルウドの父母の素性を知る者は恐らく王しかいない。その彼が話す気がないならばやはり秘密は永遠となる。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】番のキミが幸せでありさえすれば それでいい

美麗
恋愛
獣人の国 スピノザ 私、エンリケは王弟として生をうけた。 父と母は番であるため、私と兄はもちろん同母兄弟である。 ただし、番を感じることは稀であり 通常は婚約者と婚姻する。 万が一ではあるが、番の命の危険には 番の悲鳴が聞こえるとの そんな 話もあるようだ。

死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。

藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」 街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。 だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!? 街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。 彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った! 未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!? 「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」 運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

初めての愛をやり直そう

朝陽ゆりね
恋愛
高校生の時に恋・キス・初体験をした二人。だが卒業と共に疎遠になってしまう。 十年後、二人は再会するのだが。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。 ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。 クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は 否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは 困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。

処理中です...