意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第九話 騎士隊長コールの災難日誌

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「――――――なんだこれは…‥?」

 
 街警備隊に配属されている王宮騎士隊長コールはにがい顔でそれを見つめる。





 本日昼、城から二番隊の騎士が二人、こそこそとやってきた。
 何でもティア姫の指図で例の重篤患者に姫の薬を含ませてやって欲しいと。

 周囲の医者達の手前、余り宜しくはなかったが確かに今の所姫の薬ほどの効果のあるものはなく手立ても見つかっていない。
 医者は頑張っているが毎日のように息を引き取る者が出ている。
 これは緊急を要する事態で、姫の薬はやむを得ない手段だった。

 コールは知っていたから尚更のこと、死者が出るたびずっと悩んでいた。
 実の所、どれだけ姫に助けを求めたかったか知れない。
 姫が知るべくもないが、それが手元に来た。
 コールはそれを迷わず使った。
 あとで問題になるだろうが今、それで助かる命がある。それで良かった。

「有難う」

 コールはそれを持ってきてくれた騎士達を労った。

「お役に立てて良かった。姫様にもその言葉、伝えておきますね」

「………」

 騎士達は分かっているという様にニコニコと頷く。

「ところで私達、お使いも頼まれたのですが……」

 騎士がお使いリストをコールに渡す。

「私達も余り街に詳しいわけでないのでそのようなモノがどこにあるのか分からないのです。コールさんこの街出身ですよね?詳しいですよね?」

「……この街出身だが……、それはあまり関係ないな。どこで手に入るんだこんなもの…?」

 ありえない。ちなみに姫のリストの最後の文面にはルウド隊長の字で『無理なら無理でいいんだよ』と書いてある。
 さすがルウド隊長、フォローが優しくて泣けてくる。


 姫の買い物リストは容赦なかった。

 1、不死鳥の卵の殻
 2、火山の硫黄の中の石灰
 3、鉱山の中の銅板
 4、伝説の不死の剣と世界一固い盾
 5、大量の銀食器
 6、猛毒を持った蝮の牙(出来るだけ大量)



「……ええと、まず無難なのから。銀食器はそれ専門の店に売ってますよね?」

「ああ、売っているな。と言うか城に幾らでもあるだろう?」

「食事用ではないから、わざわざ街で買い求めるようですよ」

「店に注文しておけばすぐにでも喜んで城に届けてくれるだろう」

「では次に無難なのは、蝮……‥ですね」

「猛毒を持った蝮なんて。噛まれたら確実に即死だが?」

「………」

 しかも大量。不可能だ。

「…先に聞くべきだったが。こんなものどうする気だ姫は?」

「薬を造るそうです」

「―――薬。全く懲りない姫だ。また得体のしれない薬品を造って人に害を及ぼすのか。何故城で止めなかったんだ?」

「姫自らここに来るといわれていたので」

「それでか…。しかしこれは無理だろう」

 むしろ嫌がらせとしか思えない。

「ルウドさんもいいと言っているし、やめた方がいい」

「いえしかし、後が怖いです」

「……‥」

「あとで役立たずと謗られるのも嫌ですし」

「……‥」

 騎士二人は顔を見合わせうんうん頷く。

「我らがやらねば姫自ら蝮に挑みそうですし」

「……」

 真面目な上に姫の恐怖が根元まで浸透している彼らは諦める事を考えない。
 全く面倒なことこの上ない。

「蝮は後にして、この銅板はどうでしょう?銅を製造する技術者を当たれば少し分けて貰えるでしょう」

「鉱山でなくても銅板ならいいのか。なら骨董屋で事足りないか?」

「そうか、鉱山で摂れた銅板ならいいんだ。なら話は早い」

「これも注文すれば城に届けて貰えるな。よかった」

「なるほど、つまりそのように考えればいいわけだ。火山の硫黄から出てきた石灰であればいいんだから、石灰を扱う業者を当たればいいんだ」

「伝説の不死の剣と世界一固い盾。これも骨董屋だな。注文ついでに見て来よう」

「不死鳥の卵と蝮の牙は呪術屋か薬屋っぽいな。当たってみるよ」

 騎士達は早速二手に分かれて動き始めた。

 ―――しかし本当にそれでいいのだろうか?

 コールは思ったが口には出さなかった。
 大体姫の造る薬などロクなものではない。
 材料など姫の気の済む程度に適当に集めておけばよい。それで薬が成功しなかったとしてもそれは材料のせいではなく姫の力量の問題だ。
 大した知識もなく遊び半分に魔法使い気取りで薬品などを造った所で結果はたかが知れている。
 姫様のお遊びに付き合わされる騎士達の苦労を思えば何も言えない。




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