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第九話 騎士隊長コールの災難日誌
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しおりを挟む翌朝、城門に送りつけられてきた荷物を見てティア姫は眉を顰めた。
「……何これ?」
昨日買い物を請け負った騎士達も物を検分する。
大きな段ボール箱が五つ。騎士達はそれを開けて中を見せる。
「姫様、銀食器です。五十ほど揃えました。十分でしょう?」
「……そうね…」
「こちらは石灰です。もちろん硫黄から抽出した代物です。箱一杯ありますよ」
「……」
そんなにいらない、とは流石の姫も言えなかった。
「そして不死鳥の卵。百個ありますよ。蝮の牙は毒と牙が別々になってしまいましたが問題ないですよね?」
「……まあそうね…」
なんだか胡散臭いが黙っていた。
「銅板は形がバラバラですけど結構仕入れました。運がいい事にその店に伝説の剣と世界一固い盾もありましてね。何とか譲って貰いました」
「…………そう、御苦労さま。魔術師の塔に運んでおいて」
「はいっ」
騎士達は使命を果たしたとばかりに顔を綻ばせた。
その彼らが持って来たコールの手紙をティアは開く。
あまりいい事は書かれていないのは分かっていたがティアは内容を見たとたん嫌な顔になった。
『一体何を企んでおいでなのかは知りませんが、あなたの気まぐれな買い物のお陰で騎士隊全員の給金の一年分の出費が出ました。無茶苦茶ですよ。例の件に関してはぜひお礼を言いたいところですが貴女、やっぱり馬鹿でしょう?何も考えずに気まぐれに適当に事を起こせばロクでもない事にしかならないと強くご忠言申し上げますよ。ホントにいい加減学んでくださいね?』
「……‥」
ティア姫にはっきりここまで言えるのはルウド以外は彼くらいだ。
コールの言いたい事は分かっているが悔しいモノは悔しい。何か一矢報いてやらねば気が済まない。
魔法使いの塔に何やら胡散臭い段ボール箱が運び込まれた。
塔は見かけの大きさより割と狭いのでゾフィーは内心迷惑だと思った。
が、姫の荷物だといわれれば文句は言えない。
調剤部屋に入れられたそれをしばらく眺めて、姫が来てから箱を開ける。
「姫様、何ですかこれ?」
「買い物リストの結果よ。やっぱりちょっと無理があったかしら?」
ゾフィーは姫の書いたリストを見る。一目見て無理なのは分かる。
それを騎士達は知恵を振り絞って何とかこれを集めて来たのだ。
文句など言えようはずもない。
姫は箱から物を出してテーブルに並べ、ゾフィーを見る。
「…ねえゾフィー、これでいいと思う?」
「何を造るつもりだったのですか?」
「最強の万能薬。どんな病にも効くという」
ロヴェリナの記述書、あの厄介な書物に書かれている。
姫にあれを持たせてしまった事が最大の元凶と言える。
しかしあの書物には真実しか書かれておらず、材料が間違いなく本物ならば万能薬も出来上がる。
「……姫様、諦めてはどうでしょう?リストに書かれた通りの本物の材料など無理ですよ」
「そうかしら?銅板とか石灰はいいせんじゃない?」
「この卵、何の卵ですか?こんなにたくさんどうするのです?」
「……使わない分は調理場行きね」
「伝説の剣や盾がその辺にぞんざいにないですよね普通」
「何かすごい高く売りつけられたみたいよ?」
「足元見られたのでしょう。骨董屋とはそういうものです」
「じゃあこのマムシも……?」
「酒で漬けた蝮ですか。何に使うのでしょうねえ…」
「………」
紛い物ばかりでは話にならない。ティア姫は拍子抜けした。
「もう少し何とかならないのかしら。せめて伝説の剣と世界一固い盾」
「……そ、それは簡単に手に入るものでは」
「どうして?剣と盾なら勇者か騎士が持っているモノよ?そうだわ!騎士が持っているはず!すぐ近くにあるはずだわ!」
「……」
姫は諦めない。そして止まらない。
ゾフィーはすべてを諦め、止めずにただ姫を見守る。
姫は騎士宿舎の奥にある騎士訓練所に向かった。ここには警備隊、騎士隊など、城の兵が集まり様々な訓練をする場だがあまりティア姫は近づかせて貰えなかった。
見るだけでもルウドが駄目だと言ってろくに近づけない。
しかし正当な理由があるならルウドも怒らないだろうとティアは結論付けた。
どちらにしろ今、ルウドはいない。護衛をハリスと代わってしばしの休憩に行っている。
煩いルウドがいないうちに色々事を済ませようと思っていた。
「…姫様、その方向は…」
「用事があるのよ、いいでしょ?」
「え…まあ、ハイ…」
ハリスは黙って着いてくる。
訓練所は外と中がある。天気のいい日は大抵外の柵で囲われた中で訓練している。
「こらお前達!早くからばてるな!それでは私の訓練にならんだろうが!」
「そ、そんな勘弁して下さい。病み上がりなのに何でそんなに元気なのですか、ついていけませんよ!」
「私の訓練相手にもならんとはたるみ過ぎだ!だらけるな!立て!」
柵の中を見ると一人と十名が対していた。しかし十名の殆どが地に伏している。
「……あらルウド…」
ルウドが一人で十名の相手をしている。
「訓練所の方からの要請で少しでも兵を鍛えてくれと言われていたのです。それでこの所たるみ気味だと感じたルウドが気分転換に体をほぐしているわけです」
「ふうん、でも病み上がりのルウドにすら敵わない兵って…」
「隊長ですからあれぐらい当然なのです。彼らが弱すぎる訳ではないのです」
「そう、まあ別に何でもいいわ」
ティアはルウドに見咎められないよう通り過ぎようとした。が―――、
「ルウドさん!素敵、流石ですね!」
「本当に、すごいです。強くてカッコいいなんて最高!」
柵の入り口に何故か女の子達がいた。何故かタオルを持って待ち構えている。
「――――――ちょっと、なによあれ?」
ティア姫に聞かれたハリスはうろたえる。
「ええと、その、あれはですね、お、応援団です!ああして励まされると男は張り切るものですから!」
「……何でルウドの応援よ?普通負けてる方の応援でしょう?」
「そっちの応援もしていたと思いますっ!」
ハリスの苦しい言い訳を聞き流してティア姫は真っすぐ女たちの方へ方向転換した。
「あっ…ひ、姫様…」
柵の入り口に居る女二人は真っすぐにルウドを見ている。
「ルウドさん素敵!あのクールな所がいいのよね?なぜいつまでも独身彼女なしなのかしら?」
「それがねえ、たちの悪い女に懐かれてるって専らの噂よ?なんかもう迷惑だって言っていても絶対離れないんだそうよ?」
「わあ、可哀相、ルウドさん。お祓いとか紹介した方がいいかしら?」
「厄払いじゃどうにもならないわよ。やっぱり彼を守れる女じゃないと」
「そうねえ、それが一番だわ。ランジール守備隊とか造って女を追い払ったらどうかしら?」
「いいけど公になるライバルが増えるわよ?」
「……そうねえ…」
「ちょっとあなた達……」
ティアは呆れた声で赤毛と黒髪の女たちに声をかける。見た所城で働く者の様だが。
「こんな所で何をしているの?」
ティアと年も変わらなさそうな二人は何だか偉そうな娘を見て目を白黒させる。
「―――私達は休みよ。どこで何をしようが勝手よ。今日は久しぶりにルウド隊長が訓練所に来るって言うから見に来たのよ。仕事柄なかなか姿をお見かけ出来ないんだもの」
「あなたこそ何なのよ?」
ティアの格好は今動きやすい庭師用の服なのでとても姫とは認識されない。特に姫の顔など知らない下働きには分からない。
格好はそうなのだが雰囲気や所作が庭師とは思えない風情なので二人は不審そうにティアをじろじろと見る。
「見た事ないわこんな人、どこから来たの?」
「どうでもいいわよそんな事。ところで何そのタオル?」
「もちろんルウドさんに渡すのよ、汗を拭いてもらおうと思って」
「私も飲み物を用意したのよ、これで顔見知りになろうと」
「……へえ…」
「貴方は何も用意してないわね?彼を見に来たのでしょう?駄目ね、全然」
「……」
何故か二人に勝ち誇ったように嘲笑われた。
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