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第九話 騎士隊長コールの災難日誌
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しおりを挟む城へ入り、皇子へ報告の前に魔法使いの塔へ行った。
手紙だけでは埒が明かない。無茶な要求ばかり突き付けられては迷惑極まりない。
ティア姫の前に荷物を置いて、コールははっきり断りを入れる。
「迷惑ですから、もうこんな下らない要件で騎士を振り回さないでください」
「…ちょっとお使いを頼んだだけでしょう?まともに手に入れる事も出来ないくせに偉そうに何なのよ?」
分かっているのかいないのか、ともかくその言葉にコールはぷつりと切れた。
「どこの世界にこんなあり得ない材料があると思ってるのですかっ!こんな物が街に気安く売って居たら世界は波乱の地になりますよっ!」
「そんな大袈裟な。確かに勇者の剣と盾は難しいかもしれないけど」
「難しいどころかあり得ません!どこの勇者がそんな物持っているのですか!そもそも勇者がどこにいるのです?」
「ええ?いないの?詰まんない」
「ホントに馬鹿ですか貴女はっ!大体不死鳥の卵って何です?そんな生き物が本気で現存すると思っているのですか?空想世界の産物でしょう?」
「ええ?ほんとにいないの……?」
コールは本当に泣きたくなった。常識はずれにも程がある。
「ゾフィー殿も何とか言って下さい!この馬鹿姫どうにかして下さい!」
ティアも曇りのない目でじっとゾフィーを見る。
「本当にないのゾフィー?魔法使いなんだし本当のとこ知っているわよねえ?」
「……大昔はあったのですよ?大昔はね…?」
ゾフィーは姫に甘い、とコールは思う。
姫はむずかしい顔をして何か考える。
「大昔のばかりね。やっぱり今では無理なのかしら?」
「姫様の持つ記述書自体がはるか大昔に作成されたものですよ。今ではとても手に入らない材料ばかりです。翻訳すら古代文字で、解読するのは大層難儀なものだと最初から知っているでしょう?」
「でも何とか読めるわ。古代文字は調べれば何とかなるもの。それを現代仕様に翻訳しても実際の精製となると無理があるのね」
「ええと、姫の目的はそれではないでしょう?ならそれでいいではないですか?」
「代用品でどうにかならないかしら?」
「そんな簡単に代用できるシロモノはありませんよ」
「八方ふさがりね…‥」
コールは途中から話が分からなくなった。
「………」
記述書?古代文字?解読?
何をしているのだこの姫は?全く賢いのか馬鹿なのかよく分からない姫である。
「―――失礼します、姫様」
コールが難しい顔で姫を見ていると警備隊らしい男がやってきてメモを渡した。
ティア姫はメモを見て目を見開く。
「――――――…‥これは…!」
「どうされました?」
「大変な由々しき事態が発生したわ!コール着いてきなさい!」
「ええ?私皇子に報告………」
「そんなの後よ!冗談じゃないわ!行くわよ!」
「……?」
困ってゾフィーを見ると困った顔で首を横に振られた。
時は夕刻、空が茜色に染まるころ。
ルウドは街の食堂にいた。食事を約束した娘さん二人と一緒である。
一人では何を話していいのか分からないというのでハリスもついて来た。
「しかしルウド、よく来れたな」
「姫は調べ物で忙しいから余り周りの状況を気にしてないんだ。少しくらい大丈夫だろ」
「でもまあ、たまにはいいよな。息抜きも必要だ」
テーブルの向かいでそわそわしている二人の娘さんは沢山の料理が運ばれてくると嬉しそうに目を輝かせる。
「ルウドさん、こんな御馳走、なんか申し訳ないわ」
「うん?お詫びだから全く気にしなくていいんだよ」
赤毛と黒髪の女性は顔を合わせ、ルウドを見る。
「お詫びなんて。ルウドさんは助けて下さったのでしょう?お詫びされる意味が分かりません」
「…いいんだ、気にしないでくれ」
ハリスはにが笑うしかない。ルウドは現場を見ていなかったがハリスはばっちり見た。
ティア姫が娘さん達に例の薬を散布するのを。
原因が姫だと悟ったルウドは責任を感じて二人を食事に誘った。
これを知ったとて姫は自業自得と言うしかない。
「まあまあ、折角女性との晩餐なのだから。お詫びなんて気にしないで楽しくやろうよ。私も誘ってくれて嬉しいよ。美しい女性達との食事なんて久しぶりだ。私はハリス、よろしくね」
「知っていますわハリス隊長。城の隅々まで有名ですもの。そんな有名人と知り合えるなんて夢みたい。私ジェンといいます、こっちの赤毛はローラ」
皆で仲良く乾杯をして食事をとりながら話をする。
二人はやはり新米の下働きらしい。おもに城内の家事炊事の下っ端なので外に出る事は滅多にない。
「久しぶりの休みに稽古場を見に行ったら訳の分からない目にあったけど今があるからこれは幸運なのかしら」
「あの女様様よね、でも何だったのかしらあの女?」
「はっ、もしや噂の幽霊かしら?昼間でも出るって専らの噂よ?」
「……そんなに噂になっているのかい?」
「見たって人が何人もいるのですよ」
「…‥害はないのですよね?」
「ええ、見ただけです、証言では絶世の美女だそうですよ」
「へえ、それはぜひお目にかかりたいねえ、ルウドも思うだろ?」
「……ああそうだな。本当に幽霊ならな…」
ルウドは歯切れが悪い。そう言えばそんな噂を以前していたような?
ハリスは話題を変える事にした。
「そう言えば君達は剣に興味が?せっかくの休みに稽古場なんて珍しい」
「まあ、おほほほ、それなりには…」
「……失礼、ルウドを見に来ていたのでしたね」
そしてたまたま通ったティア姫に目を付けられた。
「ハリスさん、嫌だわ、そんなにはっきり仰っては」
「…私、ですか?」
ルウドが怪訝そうに二人を見る。
「特に何も面白い事はしていませんが?」
「……ルウド」
「ふふふ、ルウドさんも有名なんですよ?知りませんでした?」
「……さあ?何で有名なので?」
何故かルウドは不安そうに二人を眺める。二人は楽しそうにコロコロ笑う。
「面白いわ、ルウドさん。心配するほど悪い噂じゃないですよ?むしろ銀髪が素敵とかクールな所がいいとか、大体王族を警護する強い騎士さんじゃありませんか。人気があって当然です」
「そうなのですか?」
姫にばかり目を掛けているルウドは周囲の自分の噂には全く無関心なようだ。
照れたように笑うルウドを見て、女性達の評価は更に上がっていそうだった。
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