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第九話 騎士隊長コールの災難日誌
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しおりを挟むもちろんこの楽しそうな光景をティアは見ていた。
街へ出てはいけないという騎士達の制止も聞かずムりやり数人を引きずってこの食堂へやってきた。
緊急事態だからと付き合わされたコールは呆れて帰りたかったが姫をこのまま放置する事も出来ずにここにいる。
「姫様、帰りましょうよ?」
「ふざけないで、あれを放置して帰れるものですか!」
ふざけるなとはこっちが言いたい。
「ルウド!私に食事なんか奢ってくれた事もないのに通りすがりの女に!悔しいいいいっ!」
嫉妬と独占欲もほどほどにしてもらいたい。
「何よルウド、鼻の下伸ばしていやらしい!何喜んでんよ!あの女ども色目なんか使って許さないわ!どうしてやろうかしら!」
ほっておいてあげて欲しい。そうでないと店に被害が出て大ごとになる。
どう宥めて城へ返すべきかと考えていたら、ふと遠くの席のハリス隊長と目があった。
状況を見てハリス隊長は真っ青になった。
「…あらハリスさん?何か顔色が?どうかなさったの?」
「へ、いえなんでも、ふ、あはははは、あ、ちょっと所用を思い出しました。すいません少しだけ席を離れますね。すぐ戻ります」
「……ハリス」
「ルウド、少しだけだから。ちょっとくらい場を取り持ってくれ」
「……ああ」
何だか不安そうなルウドを残してハリスは席を離れた。
そして彼らの目に着かないところからコールの居る席へこっそり向かう。
「……姫様。なになさっているのですか?」
「見て分かんないの?」
「………お願いですから帰って下さい…」
「ふざけないで」
「……‥」
ハリスが哀願するような目をコールに向けると、彼は黙って首を横に振った。
「ねえ、あれ、ハリスのせい?」
恐ろしげな姫の声にハリスは慌てて首を振る。
「ちちちちち違いますよ!ルウドの誘いです!もとはと言えば姫のせいですからね」
「―――なんですって?」
「女性二人に意地悪したのはあなたでしょう?責任を感じたルウドが変わりにお詫びに食事に誘ったのですよ?」
「………」
「その邪魔をしたらルウドの顔を潰す事になりますよ?だから、さあ、見つかる前にお帰り下さい」
「……‥」
ティア姫はとても不服そうだったが何とか引き下がった。
「……ハリス、ちゃんと見張ってなさいよ?ルウドが女の匂いつけて帰ってきたら、あなたの息の根も止めるからね」
背筋の凍る様な事を言って姫は帰って行った。
それからハリスは席に戻ったがもう食事が通るような状態ではなかった。
女性達と別れた後、何だか切羽詰まった様子のハリスにどこかへ付き合わされた。
着いて行って入った店は宝飾店だ。
「何か買うのかハリス?まさかあの二人にプレゼントか?」
ルウドは呑気に笑う。
「違う、プレゼントするのはお前だルウド。さあ選んで買え!」
「……なんで私がそこまでしないとならんのだ?」
不服そうなルウドにハリスは現実を突き付ける。
「ルウド、姫にばれたぞ。城に戻れば怖い事になる。土産くらい買って帰らないと姫の機嫌が直らないぞ?」
「何でばれたんだ?それよりなぜ私がそこまでしないといけないんだ?」
「理不尽でも何でもそれ一つで姫の機嫌が直るなら安いものだろう?いいから姫が好きそうなのを選んで買え。用意しておいて絶対損はないから」
「………」
仕方なくルウドは安物のネックレスなどを買った。
姫の悪さの為に大変な出費になった。全くもってついてない。
「―――――……遅いわ」
ティア姫はいらいらしていた。
普段この時間はとっくに部屋に戻っているのだがとてもそんな気になれず魔法使いの塔にいた。
ゾフィーはまだ調剤室から出てこない。今部屋にいるのはティアとルウド待ちのパティーと心配で姫から目を離せないコールだった。
部屋にいるもののパティーとコールは姫を見ないようにしている。
ぼんやり待っているとホントに時間が長い。その間もルウドが女達とよろしくやっているのかと思うと気が気ではない。
「何してるのかしら。食事なんてそんなに掛かるわけないじゃない。晩餐だって三十分もかからないのに何時までものろのろと。いい加減にしてほしいわ。待ってる人の事は考えないのかしら。何考えているのかしら?」
ぶつぶつと呟いても埒が明かない。ティアはイライラが収まらず、席を立ってうろうろし始める。
「もう帰ってきたかしら?門に入ったかしら?ちょっと見て来ようかな」
「――――――姫様、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんていられないわよ。私のルウドが変な女にひかかったらどうしてくれるのよ?」
「何が貴方のですか?隊長だって遊びたい盛りなのに姫のせいで自由恋愛も出来ないのですか?不憫すぎます」
姫がぎろりとコールを睨む。
「ルウドはそんなことしないわよ」
「子供の相手ばかりではさぞ不満でしょうねえ」
「……」
爽やかに笑うコールとにらみ合う。
そんな二人を困ったようにパティーはただ見ていると外から声が聞こえた。
「パティー、居るのか?遅くなって済まない」
待ち望んだルウドの声に、ティアが誰より早く反応した。
「ルウド――――っ!」
こんな時間に塔からティア姫が出てきて驚いた。
しっかり抱きついて何故か匂いを嗅ぎ回られる。
「なっ、何してるんですか?こんな時間に何故いるのです?」
「ルウドを待ってたのよ!遅かったじゃない!何してたのよ?」
「何って…別に。休みなんですから何しようが勝手でしょう?」
「しら切るんじゃないわよ!女と会ってたのは分かっているんだから!」
「……だ、だからって何故あなたにそれを責め立てられなければならないんですか?」
「何よ私に黙って出かけて!私の知らないところで私に言えない様な事してたのね!最低!すごく心配してたのに私の事なんか思い出しもせず自分だけ楽しくしてたのね!酷いわ!信じられない!ルウドのばかっ!」
そしてとうとうティアは泣きだした。
「もうルウドなんか信じられない!変な女に引っ掛かって外でいかがわしい事してたなんて―――――!」
「――――…な、何言って……?」
無茶苦茶である。泣いて喚く姫を眺めてルウドは途方に暮れた。
夫の浮気を責める妻を地でやる姫を見てパティーもコールも二の句が継げなかった。
ルウドが助けを求めてこちらを見ているがどうにもならない。
「ルウドさん、姫様部屋まで送らなきゃ。俺先に宿舎へ戻っているから」
「…‥ああ、そうだな…」
「わ、私は出直すとしよう、今日はもう帰るよ…」
コールは疲れたように城を出た。
本来の目的も忘れてただ姫に振り回される一日だった。やはりあの姫に関わるとロクな事にならない。
見捨てたルウドには申し訳ないがもう姫に関わるのはまっぴらだった。
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