56 / 200
第十話 薬品の効能と大きな弊害
2
しおりを挟む―――退屈だ。
街へ出て忙しく働いている警備達には悪いがルウドは今一人暇を持て余していた。
ルウドの護衛対象であるティア姫が地下に籠ってしまったので護衛する必要がなくなったのだ。
姫の地下の研究所は姫でなければ入れない部屋なのでルウドすら入れて貰えない。
そこで魔法使いの塔へ向かうとゾフィーは調剤部屋に籠って出てこない。例の秘薬の製造に忙しいのだろう。
ルウドは塔へ入るのを諦めて森の湖のほとりに来ていた。
ここは幽霊が出るとの噂なのでいつも静かだ。
森の隙間からの光が差し込み、暗い森を照らし、湖を煌かせる。暗い森に吹く風は涼やかだが冷気も含み、それを不気味と感じる者もいるのだろう。
ルウドはここが好きだった。何しろ気持ちが落ち着く場所だ。
人が不気味と感じるこの適度な冷気が心地いい。
さわさわと木々のざわめき音がする。時折鳥や獣の声もする。
湖の水面が揺れて、キラキラと銀の光が揺らめいた。
「―――…………母さん……?」
ルウドは瞬く。
そんなわけはない、ルウドの母はとうの昔に亡くなっている。
だが真っ白な銀の髪はルウドの持つ母の面影だ。そして瞳はすんだ青。
キラキラ揺れる白い光はルウドにその記憶を思い起こさせる。
「………お母さん……?」
ルウドは驚き光の束を見る。
目の錯覚だろうと何とはなしに見ていたそこから声がするとは思わなかった。
よく目を凝らすとそれは人の形をとり、ルウドの傍にやってきて微笑む。
「……貴方は……?」
彼女の髪は銀ではなく金だ。そして誰かを思いださせる青の瞳。
「ふふふふふっ、やあだ恥ずかしいっ、お母さんなんて言われちゃったわ、ルウドったら意外と甘えんぼさんなのねっ」
何故か嬉しそうに照れ笑いされた。
「……す、すいません間違って悪かったです。やめて下さいそれ、恥ずかしいですから」
「あらいいのよ、呼んじゃっても。可愛く呼んで?うふふふふふっ」
「………いえもういい年ですから勘弁して下さい」
ルウドはキラキラ揺れる金の髪を見る。
何なのだろうかこの人は?
いや何かは分かる、彼女の姿は透けている。幽霊には違いない。
しかし幽霊はこんなに明るくて綺麗なものなのか?もっと禍々しいものであるべきではないのか?
「ええと、何か御用で…?」
「まあ冷たい。一人で寂しそうだったから出て来てあげたのに」
「……‥いえそんな事は。なにか話したい事があって出て来たわけでは?」
「べつにないわよ?」
「しかし何か心残りがあるのでは?この世に留まる原因とか?」
「心残りはあるわねえ。実は子供を置いてきちゃってねえ…」
「ではその子を捜せば…‥」
「無理よ。もうそれは大昔の話だから。今ここにいる訳はねえ。まだまだ遊び足らないって言うか―?」
「幽霊なのですから遊び足らないといっても出来る事ないでしょう?何故成仏しないのですか?」
「まあひどい。ルウドまで私を邪魔にするの?幽霊なんだから邪魔になんかならないわよ?」
「……すみません…」
なぜ謝らねばならないのだろう。そしてこの幽霊の存在理由が分からない。
「ルウド、あなたこそこんな所で一人ぼっちで、悩みがあるのでしょう?聞いてあげるから話して?」
「え、特に何も……」
「貴方が悩むのなんてあのお姫様の事くらいでしょう?可愛くて真っすぐでいい子よねえ」
「………」
「でも真っすぐ過ぎるのもちょっと困るわよね。ルウドの理性はどこまで持つのかしら」
「………」
何故幽霊に悩みを相談せねばならないのか?しかも彼女は何故かすべてお見通しである。
幽霊だからどこからでも覗き放題ということだろうか。
それは余りいい気分はしない。
「あら、怒ったのルウド?」
「怒ってません……」
「あのね、私は大体ティア姫の傍だから、覗きたくて覗いているわけじゃないのよ?」
「……何故姫の傍に……」
「魔力の大きい人達の傍でないとこの姿を保つのは難しいのよ?話せないし。魔力のない人達には私の姿すら見えないわ」
「では貴方は幽霊ではなく……、何なのです?」
「うーん、まあ幽霊みたいなものよ?深く考えないで」
「……」
つまり幽霊ではなく魔女か。そして日中でも見る者がいる訳も分かった。
0
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
転生令嬢はやんちゃする
ナギ
恋愛
【完結しました!】
猫を助けてぐしゃっといって。
そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。
木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。
でも私は私、まいぺぇす。
2017年5月18日 完結しました。
わぁいながい!
お付き合いいただきありがとうございました!
でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。
いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。
【感謝】
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。
完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。
与太話、中身なくて、楽しい。
最近息子ちゃんをいじってます。
息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。
が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。
ひとくぎりがつくまでは。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
とめどなく波が打ち寄せるように
月山 歩
恋愛
男爵令嬢のセシルは、従者と秘密の恋をしていた。彼が従者長になったら、父に打ち明けて、交際を認めてもらうつもりだった。けれども、それを知った父は嘘の罪を被せて、二人の仲を割く。数年後再会した二人は、富豪の侯爵と貧困にあえぐ男爵令嬢になっていた。そして、彼は冷たい瞳で私を見下した。
【完結】雨の日に会えるあなたに恋をした。 第7回ほっこりじんわり大賞奨励賞受賞
衿乃 光希
恋愛
同僚と合わず3年勤めた仕事を退職した彩綺(さいき)。縁があって私設植物園に併設されている喫茶店でアルバイトを始める。そこに雨の日にだけやってくる男性がいた。彼はスタッフの間で『雨の君』と呼ばれているようで、彩綺はミステリアスな彼が気になって・・・。初めての恋に戸惑いながら、本をきっかけに彼との距離を縮めていく。初恋のどきどきをお楽しみください。 第7回ほっこり・じんわり大賞奨励賞を頂きました。応援ありがとうございました。
ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
菱沼あゆ
恋愛
ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。
一度だけ結婚式で会った桔平に、
「これもなにかの縁でしょう。
なにか困ったことがあったら言ってください」
と言ったのだが。
ついにそのときが来たようだった。
「妻が必要になった。
月末までにドバイに来てくれ」
そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。
……私の夫はどの人ですかっ。
コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。
よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。
ちょっぴりモルディブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる