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第十一話 姉の条件
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しおりを挟むレナン伯の屋敷は大きい。個人の邸宅と使用人宅、お客様用屋敷に、パーティ会場用の屋敷。それらが敷地内にある。
そして外には狩猟用の森と湖。敷地内の庭から森の隅々まで管理され、綺麗に整備されている。
レナン伯は他国の貴族とも交流広く、今回のパーティにも様々な国の友人知人を招待しているので敷地内の警備網は厳重である。
「皆様が安心してパーティを楽しめるようにするのが私どもの務め。招待客にも人選をしっかり選んでおります。身元のしっかりした身分ある方々ばかり。
皇子様や王女様にもご安心してお相手を選んでいただける環境を用意いたしました。それでも何か不都合がございますればその都度対処させていただきますので」
「それはそれは痛み入ります」
「あとはもう出会うのみです。少しでも気にかかる令嬢を見つけたら積極的にお声をかけるのです。それが殿方の役目というものです。皇子がお声を掛けて喜ばぬご令嬢が居るものですか。自信を持って頑張って下さい」
「…‥ハイ…‥」
グレイス婦人は今回とても皇子にしつこく説教する。
なんだかんだでいつも誤魔化されているが皇子ももう二十歳、誤魔化されてもほってはおけない程に焦りが見えた。
皇子本人は特に焦ってはいないがもうかれこれ四年弱結婚についてしつこく問い詰められている。
「アリシア様にはもう婚約者が居られるのです。パラレウス皇子が結婚を決めなければ兄君に気兼ねして嫁げないではないですか。それにミザリー様もティア様も。
皇子が妻を取らねば安心して国を離れられませんよ」
「……そうですね…‥」
姉妹は別に皇子に気兼ねなどしていない。そもそも個人で事情があるのだ。
そんな言い訳をしたかったが婦人にそんな事を言っても仕方ないので止めておく。
「ふっ、ふふっ、ふふふふふふふふふふ!」
婦人と二人で庭を散策していたのだがどこからか不気味な笑い声が聞こえた。
「…何だ?」
花壇を一回りするとその聞き覚えのある声の主の元へ行きついた。
「あははははっ、ふふふっ、ふふふふ!」
「……ミザリー…‥?」
花壇の隅に座り、黄色い花をいじりながらうっとりと笑っている。
「……ミザリー姫様…?」
変だ、婦人が不審そうに姫を見る。
何だろう?まさかまたティアにおかしな薬を嗅がされたのだろうか?
皇子は不安になった。
「……どうしたんだミザリー?大丈夫か…?」
「あ、お兄様、何でもないですわ。うふふふ、あ、見て下さいこれ、四つ葉のクローバー。お兄様に差し上げますわ。お兄様に早く春が来ますように」
「……そ、そうかい、悪いね…」
「では失礼しますわ、ホホホホホ」
ミザリーはパラレウスにクローバーを渡すと、足取り軽くどこぞへと去って行った。
「……‥」
「お、皇子、ミザリー様は…‥…?」
婦人の顔が引きつっている。
「ミザリーは、まあほっておいてあげましょう。ああ見えても大丈夫ですから。芯はしっかりしていますし」
「……そ、そうね…」
夕刻前になってようやく婚約者エルフィードがやってきた。
他国の皇子である彼ともレナン伯は交易で繋がりがある。
「うーん、本当はお断りしようと思っていたんだけどね、アリシアが来るって言うものだから」
着いた早々にアリシアの元へ来た婚約者は嬉しそうに姫を抱き寄せる。
どうにも影が薄いと専らの噂の彼は栗色の髪と目を持つ至って普通の青年だった。
「知人という人はいらっしゃったの?」
「うん、先にレナン伯の所に行ったと思うよ?」
「貴方はいかないの?」
「行くよ、その前に君に会いに来たんだ」
「そう、じゃあもういいわね、早く挨拶に行って」
「冷たいな。何か怒っている?」
「よりによってティアに接待させるなんて」
「……済まない、引くに引けなくなってね」
もとはと言えばエルフィードが知人に恋人の自慢をしたことにあった。
恋人は噂高い薔薇姫。それはもう自慢するしかない。
だがそれを聞いた友人知人が会わせろとしつこく言ってきた。これも当然。
しかしその件に仕事上の取引を挟めば断る事も引き下がる事も出来なくなった。
「私の妹に貴方の不始末のつけを払わせるなんて、後が怖いわよ?私知らないからね?」
「覚悟はしておくよ」
エルフィードはしぶしぶアリシアを離し、ドアに向かう。
「仕方ない、用件を先に済ませてくるよ。それまでに機嫌を直してくれ」
「困った人ね」
エルフィードは苦笑し、出て行った。
ルウドはレナン邸に着いてしばらく、情報収集と周囲の安全状況を確認して回っていた。
警備状況としては流石レナン伯、不備はない。
皇族が安心して滞在出来るだけの警備体制が整っている。
これならばとりあえず姫の周辺にさえ気づかっていれば問題ない。
ルウドは一通り調べて、ティア姫のいる部屋に戻った。
姫の部屋の前で張り付いていた警備隊が困っている。
「どうかしたのか?」
「あっ、隊長、ティア様に全員閉めだされてしまって。中に居られるはずなのですが、物音もしませんし…」
「……脱走は出来ないだろう」
「あ、ルウド隊長」
「エルフィード殿下」
エルフィード皇子が姫の部屋の前に来た。
「…ティア姫のご機嫌はいかがなものかな…?」
「さあ?どうも窺い知れませんが。少し様子を見てきますね」
「……頼むよ」
ティア姫はルウドでなければ抑えられないのはエルフィードも周知の事実だ。
「ティア様、入りますよ?」
ルウドはノックをして部屋に入った。
「……ティア様…?」
ティア姫はソファーにいた。横になって眠っている。
「姫様、こんな所で眠っていたら風邪をひいてしまいますよ?それにもうすぐパーティが始まります。そろそろ準備をしなければ。さ、起きて下さい」
ルウドはティア姫を優しく揺り起こす。
「―――――――ル、ルウド…」
ティア姫がいきなりルウドの胸倉を掴む。
「な、何するんですか?」
「ルウド!私浮気なんかしないからね!」
「な?何言ってるんですか?」
「絶対何があろうと私はルウド以外の人に心動かされたりしないわ」
「……そ、それは困りましたね。まあ先の事は分かりませんし、今は起きて下さい。いまエルフィード殿下が来られてますのでご挨拶を」
ルウドは姫から離れ、そそくさと外のエルフィードを呼ぶ。
すぐに彼は入ってきた。
「お久しぶりです、ティア様。この度はご面倒おかけして申し訳ございません」
「―――――よくものうのうと私の前に現れたわね?まさかただで済むとは思っていないわよね?許せないわ。この私に貴方の知人の接待なんかさせるなんてどういう神経しているの?馬鹿じゃなくて?どうなっても何一つ責任は持てないわよ?」
エルフィードは笑っていたが顔がどことなく引き攣っていた。
「も、申し訳ございません。ですがホント、そんな大層な事ではないのですよ?ちょっとお会いして頂いて、ちょっと楽しくお話して頂けたらそれでいいのですから」
「話が違うわね?それじゃまるでお見合いみたい。一体何企んでるの?影が薄いくせに油断のならない男ね?」
「……‥そんなつもりは…。そんな難しい話でもないですし。ル、ルウドさん……」
エルフィード殿下に助けを求められた。
求められても困るとルウドは思う。
「……姫様、アリシア様とのお約束でしょう?殿下に恨み事を言っても事態は変わりませんよ?さあ早く準備を始めて下さい。マリーも戻ってきてますよ?」
怒れるティア姫を置いて、ルウドはエルフィードと共に部屋を出た。代わりマリーが中へ入って行った。
「ところで、エルフィード殿下」
「あはは、相変わらず怖いねえティア姫は。何かな?」
「殿下の知人とはどういうお方ですか?」
「え、うん、まあ、悪い人ではないよ?ちゃんとした身分ある貴族の御子息だし。年は私と同じ二十一歳。若いから遊び盛りなのは否定できないけど……」
「………うちの大切な姫に…‥」
「分かっているよ。重々注意してあるから。相手は箱入り姫様だって彼も分かっているから…」
「………」
「き、君だって警護に着くんだろう?問題ないさ。ははははは」
エルフィードはから笑いをしながら手を振って早々に退散した。
どうも信用できない。ルウドは彼を不審の眼差しを持って見おくった。
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