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第十一話 姉の条件
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しおりを挟む真っ赤なバラの花束を持って、彼は現れた。
「ああ、何と麗しい赤い薔薇の姫君。折角持ってきたこの薔薇も貴方の美しさの前では霞んで見えてしまう。はじめまして。私の名はエリック=クロディウス。エリックとお呼び下さい。お会いできてとてもうれしい。私ずっと噂高い三姉妹のファンで何時かお会いしたいと思っておりましたのです」
「まあそれは光栄ね。私もうれしいわ」
手を差し出されたからアリシアも手を出して握手をかわそうとしたら、そのまま手を引かれて彼の腕の中へ引き入れられた。
「……あっ…、エリックさん…?」
「エリックとお呼び捨て下さい。貴方の様な御方があのエルフィードの恋人というのが全くもって解せないのですが?もしお戯れならば私めに乗り換えませんか?
あの男より私の方がずっと貴方を楽しませることができますよ?」
耳元で低く優しく囁かれてアリシアはぞくりと鳥肌が立った。
同時にどこからかカチリと引き金を引く音が聞こえた。
「―――アリシアを離せ、エリック。彼女は私の恋人だ」
「……どこから入ったんだ?エルフィード…‥」
エリックの頭にエルフィードの銃が突き付けられている。
エリックはしぶしぶという様に手を離しアリシアから離れた。
「アリシア!」
エルフィードは銃をしまい、恋人の為に手を広げる。
「エルフィー」
アリシアはエルフィードの胸に飛び込んで長い口づけを交わす。
見ていたエリックがにが笑いつつ小さく舌打ちする。
「……君達見せつけ過ぎだよ。何時までやってるんだいもう。悪かったよ、アリシア姫には手を出さないから勘弁してくれ」
ようやく二人は固い抱擁を解いた。
「というかお前もう来たのか?もっとゆっくりで良かったのに」
エルフィードが嫌な顔で彼を見る。
「さっそく私の姫に手を出しやがって。油断も隙もない」
「薔薇姫の姉妹にお会いするのが楽しみで急いできたのにそれはないだろう?そうだ、妹姫様にもご挨拶をせねばな」
「その前にこの屋敷の主のとこへ行けよ。それに何度も言うが三番目の姫様は繊細で難しくて怖い騎士が張り付いているんだぞ?迂闊に手を出せばどんな目に遭うか分からないぞ?命の保証も出来ないからな?」
「騎士に斬りつけられるとでも言うのか?大丈夫だよ、私は強いから」
エリックは軽く笑って部屋を出て行った。
不安そうに二人は彼を見送る。
「……彼、大丈夫なの?聞いてたけどホントに軽いわ」
「うーん、まあ何とかなるかなあ。ならなかったら私の所にも被害が及びそうだ。ルウド隊長には既に不信感を持たれてしまったよ」
「……ルウドは、まあ不信感くらいいいかもね。ティアを守る護衛隊長だから」
「エリックの行動次第では私の命も危ういなあ」
「まあそれは仕方ないわね。全くフォロー出来ないわ」
「わ、冷たい。そんな君はどんな目的を持っているのかなあ?」
「教えてあげない」
エルフィードは微笑み、アリシアの腰を引き寄せる。
「じゃ、とりあえず先程の続きを……」
「何言っているの?パーティの準備が先よ?それに彼一人をティアに引き合わせるなんてこと出来るわけないでしょう?」
「……それはそうだね…」
エルフィードは残念そうにアリシアから手を離した。
パーティへ向かう準備ができた頃、迎えが来た。
アリシアとエルフィード、そしてエリックという彼の知人だ。
「今晩はよろしくね、ティア姫様」
彼はあくまでも友好的に微笑み、握手を求める。
「…‥よろしく…」
警戒心で一杯のティア姫は彼に触るのも嫌だったがここは周囲の目を気にして我慢した。
ルウドが心配そうにティアを見ている。
へらへらした雰囲気の金髪碧眼の彼はもろハリスタイプ。ティア姫がとある黒い虫の如く嫌うタイプである。
客人用の屋敷を出て隣のパーティ会場へ行く間もティアの横で歩く男は嬉しそうにずっと喋り続けている。
「あはは、今宵は楽しい夜になりそうだ。パーティにも様々な趣向があるというし楽しみだね。ティア様はダンスはお得意ですか?私はまあ趣味のようなものですから姫の好みでどんな曲でもいけますよ。後で存分にご披露しましょう」
「…まあそうですか」
微妙に顔を引き攣らせながら辛うじて会話に合鎚を打つ姫の様子にエリックは全く気付いていない。
先を進むエルフィードとアリシアは素知らぬ顔をしている。
「そう言えばパーティには二番目の姫様も参加されておられるとか?どのような御方なのでしょう?せっかくですからご挨拶だけでもさせていただきたい」
その声にアリシアは足を止め、続いてエルフィードも止まった。
「すっかり忘れていたけどあの子どうしているのかしら?ティア、知ってる?」
「知らないわよ、ずっと部屋にいたんだから」
「ルウドは……?」
「いいえ、全く存じ上げませんが?」
「…‥まあ好きで来たのだもの。勝手に参加して好きな所にいるのではないかしら?」
「そうよね、ミザリーお姉さまの事ですもの」
アリシアは再び歩き出し、エルフィードも続く。
エリックが不思議そうにティアに尋ねる。
「…いいのですかそれで?姫様に何か起こったら」
「護衛と侍従は付いているわ。あの人の事はまあ心配ないもの」
一行はパーティ会場に入った。会場にはダンスホールと食事スペースがある。
入ってすぐにそのダンスホールの方で奇怪な声が聞こえた。
「おほほほほほほ!駄目よ、全然ダメ!あなた体力なさすぎよ!この程度でばてるなんてまだまだね。ふふふふふふ!私はまだまだいけるわよ?さあ次の相手はだあれ?早く名乗りでなければこちらから指名するわよ?さあそこの貴方、前に出なさい!勝負なさい!」
金髪の踊り子のような可愛らしい娘が勝ち誇ったように高笑いし、さらに指名した男を引きずり出す。
「お、お願いです、勘弁して下さい……!」
「何情けないこと言ってんのよ!さあ曲を流しなさい、そして貴方は私と踊るのよ!」
そして彼女は男を掴み、テンポの速い曲を狂ったように踊り始めた。
そんな彼女の周りには既に犠牲となって床に転がっている男が約十名ほど。
未だに踊り続ける踊り狂い人形のような彼女を犠牲者含め周囲の観客達は物も言わず真っ青になって見守り続けている。
そして十一人目の犠牲者が出ても未だ彼女の横行を止める者が居なかった。
「………」
「……‥」
「……え、ええと、お兄様はどこかしら?まだ来られていないのかしらね」
「も、もうすぐ来られるでしょう?結構な人数集まってきたし…」
「そうね、あちらで何か食べながら待っていましょう…」
姉妹はダンスホールで見た物をなかったふりをして食事のテーブルに着いた。
エリックがダンスホールの踊り子に見とれている。
「うわっ、すごい!あんな動き素人じゃ出来ないぞ?達人技だ!何者だあの子?」
「……‥気に入ったのなら相手に名乗り出ていらしたら?私は構わなくてよ?」
「いやいや、私にはとてもお相手は務まりません。傍観者でいるしかありませんよ」
「そう…」
素知らぬ顔でいれて貰ったお茶を飲むティアのアリシアが心配そうな目を向ける。
「……ティア…」
「私は知らないわよ。ほんとだからね」
「……あの子、何なのかしら…‥?」
「…私に聞かれても、知らないわ…」
異常な浮かれ具合である。
城内ならまだしもレナン伯の家での異常行動はちょっとまずい。
「誰か早く止めてくれないかしら」
「……・」
ほどなくして狂った踊り子は強制退去させられた。
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