63 / 171
第十一話 姉の条件
2
しおりを挟むそして某日、王家の兄姉妹達は隣町のレナン伯の屋敷にやってきた。
国の皇子様やお姫様が来るという事で街の方でもお祭りのような騒ぎになっていて、屋敷へ向かう馬車の外からでもその様子が伺いしれた。
もちろん伯爵の敷地に平民が入れるわけがない。
王家の者達が来るという事で、敷地の警備はふだんの数倍、厳重な監視体制が出来ていた。
ただ隣町に出かけるだけだというのに派手な旅だ。
王族が乗るのだから仕方がないのだが姫一人につき馬車一台。姫と侍女、護衛を乗せてその馬車の周りに馬に乗った護衛が張り付く。それが四台あるのだから目立つことこの上ない。
その派手な一行は早朝城を出て昼前にはレナン伯の屋敷に着いた。
四兄姉妹は一部屋づつ特上の部屋を宛がわれ、レナン伯への挨拶と昼食の席へ着いた。
「まあ皆様お揃いで、久しぶりね、お会いできて嬉しいわ」
レナン伯の奥方グレイスが四兄姉妹を迎える。
「皆で押し掛けてしまって申し訳ない。大所帯で大変な騒ぎになってしまいました」
「まあ、パラレウス皇子。いいのよそんな事は。街の人達も含め、皆喜んで歓迎しているのだから」
「そうですとも。一日と言わずずっとお好きなだけ滞在していて下さっていいのですよ。自分の家だと思ってごゆっくりしていらして下さい。夜会にも楽しい趣向を幾つか用意してあるのです。存分に楽しんでいらして下さいね」
レナン伯が嬉しそうに言う。
「ふふふ、お姫様方にも、ここでの出会いをきっかけに幸せへの道へとたどり着くことが出来るならば私どもも喜ばしい限りですので」
「……そうですね、ご縁があれば……」
パラレウスは夫婦に期待の眼差しを向けられ頬を引き攣らせる。
王族好きの世話焼き老夫婦の目下の夢はこれなのだ。
毎年園遊会などを開き、王族、おもに皇子などを誘う。
「今年は皆様で来て下さってとてもうれしいですわ。ティア様も、良いお相手が見つかるといいですね」
「……私は姉の付き添いです。アリシアお姉さまがどうしてもって言うから」
「ふふふっ、私の婚約者の友人と引き合わせる約束なのです」
「あらまあ、良い御縁になるといいですわね」
「ええもう、ほんとに。この子ったら好き嫌いが激しくて難しいから」
「でもティア様ならすぐに見つかりますよ。可愛らしい姫様に好かれてお断り出来るような殿方はそうそう居りませんから」
「……そうですわね…」
アリシア姫は困ったように部屋の隅にいる護衛の一人に目を向ける。
「そう言えばミザリー様も今回は…・?」
「……え……?」
グレイス婦人が目を向けるとミザリーは動きを止める。
「……ええと、夜会、楽しみですわ。どんな余興があるのかしら?」
「……少しは殿方にも目を向けてくださいね?」
パーティに参加してもひたすら食べてばかりの姫には婦人も最近諦めが入っている。
お姫様なのに何故食事にしか興味がないのだ?本当にそうなのか?
それはミザリー当人にしか分からない。
「ああ疲れた。パーティまで部屋で休むわ。外に出たらどうせ誰かに声かけられるし面倒だから」
ティアは部屋のソファーに寛いで部屋の隅にいる護衛に言う。
「姫様、情報収集はどうされます?」
「そんなの誰かがやってるでしょ。兄がわざわざ護衛にまで礼装させてパーティに参加させるのだから。お兄様もやっているだろうし」
「姫様、私はパーティーのお手伝いに行って参りますね?時間が来たらお衣装を用意して参りますので」
「分かったわ」
侍女のマリーは部屋を出て行った。よその家に来てまで働きものである。
「やる事ないわね、本でも読んでようかしら。貴方も下がっていいわよ、暇なら外で情報収集してて」
「はい…」
護衛が部屋を出てティアは一人になって息を吐く。
しばらくぼんやりしていると外からノック音がしてドアが開く。
「ティア、お邪魔するわよ?」
「アリシアお姉さま…‥」
アリシアはティアの向かいのソファー椅子に座る。
「気が乗らなさそうね。エルフィーはまだ来ていないようだから、到着したら知人という人と挨拶に来るそうよ」
「……お姉さま、知人の相手ってパーティのお相手だけですよね?まさかずっと何て事は……」
「さあ、どうだったかしら?」
「……‥お姉さま…」
「まあ大丈夫よ?ちゃんとルウドが護衛で張り付く予定でしょう?心配ないわ」
「護衛としては問題ないでしょうけど……」
「ティアの仕事の邪魔はしないでしょうね。どれだけティアが困ってても」
「あまり気分のいいものじゃないわ」
「ならルウドを護衛からはずしたら?」
「そんな不安な事出来ないわ」
「なら仕方ないわね。彼の前で他の殿方の相手なんて嫌でしょうけど。でもルウドの気持ちも推し量れるかもよ?」
「推し量りたくもないわ。ルウドの気持ちなんか知ってるもの」
ルウドはティアの気持ちには答えない。ティアに相手が出来れば喜んで応援するに違いない。
「本当にそうかしら?」
アリシアは席を立ち、ドアに向かう。
「お姉さま……?」
「まあそれはあなた自身が確かめることね」
「…‥?」
「じゃ、くれぐれも逃げないでね?」
「……‥」
アリシアは出て行った。わざわざ念を押しに来たらしい。
ティアは何だか余計気疲れした。
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
悪役令嬢の役割は終えました(別視点)
月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。
本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。
母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。
そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。
これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
おばあちゃんの秘密
波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。
小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
修道院パラダイス
羊
恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。
『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』
でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。
◇・◇・◇・・・・・・・・・・
優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。
なろうでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる