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第十二話 噓と真実の饗宴
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しおりを挟む「レナン伯、お招きに預かり参上いたしました」
「やあ、よく来てくれたね。クロード公。大したもてなしも出来ないが楽しんで行ってくれ。しかし失礼ながら貴方が来られるとはお珍しい。いつもは代理か欠席であるのに」
「ふふっ、実は別方面からのお誘いがありましてね。少々遅れても出来れば参加させていただきたいと思いまして。まあ相手が現れるかどうかは別として」
「現れなければ来られた意味がないのでは?」
「まあそれはそれ、今晩だけしか滞在出来ませんが楽しませていただきますよ」
「ふふっ、ごゆっくりして行って下さいね。今は王家の方々もご逗留中ですのよ?」
「へえ、王族に会えるのか。それは楽しみだな」
全く危ないところだった。
「くっ、ティアめ。私を捕まえようなんて百年早いわ。今捕まる訳にはいかないのよ、この大切な時に」
なかなか出会えることのないこの時を逃すなんて絶対嫌だ。
邪魔をするなら今回ばかりは何としても立ち向かわねばならない。
「やあ、はじめまして。君が二番目のお姫様かい?昨日素晴らしい踊りを披露していたお嬢様。今夜も素敵な御衣裳で踊りを披露するのですか?」
「……」
「宜しければ不詳この私がお相手をさせていただきたい」
「まあ嬉しい、ぜひお願いするわ」
ミザリーはきらりと目を光らせ、本日の盾を決めた。
「私は怪しいものではございません、エルフィードの友人エリックと申します」
「まあそうですの、お会いできて嬉しいですわ。ぜひとも私を全力で守って下さいね?」
「え?はい、もちろんですとも……・?」
何とも間の悪いエリックはミザリーの言葉の意味を全く理解していなかった。
夜会にはもう人がたくさん集まっていた。
会場に入る前にミザリーを捕まえなくては簡単に捕まえられなくなる。
どれだけ捜し回ってもなかなかつかまらないミザリーに業を煮やしティアは入口で罠を張って待ち受けた。
ようやくミザリーを見つけティアは入口前に立ちはだかる。
「―――お姉さま!やっとみつけたわよ、さあいい加減捕まりなさい!」
「いやよ!私が何したってのよ?」
「お姉さまを野放しにしていたら王家の恥になるのよ!いいから大人しく部屋でじっとしてなさい!」
「何ですって!失礼ね!姉に向かって!あなたこそとっとと部屋に戻ってそこの騎士と仲良くして居たらいいでしょう?私の事はほっておきなさい」
「ほっておけないから捕えに来たのよ!お姉さまさえ片付いたら幾らでもルウドと仲良くするんだから大人しく捕まりなさい!」
「冗談じゃないわ!何故あなたの幸せの為に私が我慢しなきゃならないの!そこをおどきなさい!私の邪魔しないで!」
「また何を企んでいるのよ!最初から怪しいと思ってたのよ!大人しく白状なさい!」
「ほんとに失礼な子ね!何も企んでなんかいないわよ!」
「企んでないなら部屋に戻って静かにしてて」
「いやよ。貴女に指図される筋合いはないもの」
「本当に仕方ない人ね…‥」
「あなたに言われるいわれはないわ」
どっちもどっちだ、とティア姫の傍らにいたルウドは思った。
「とにかくお姉さまにはどうしてもお部屋に戻って頂きます。―――警備隊、いいから捕まえて!」
ずらりと警備の者達が会場内から出てきた。
「ティア!そこまでするの?信じられない!ルウド、酷いと思わないの?」
「…え、その、そうですね…‥」
「ハッキリしない人ね、もういいわ」
ミザリーは懐から何かを取り出し階段めがけて投げつけた。
投げつけたそれは突然白い煙を吐き、辺りを白く煙らせる。
「お姉さまっ、何時の間にそんなモノを!早くお姉さまを捕まえて!」
警備隊が突入し、白い煙で混乱した。
「捕まえた!静かになさってください!」
「うわああああっ、ちがううううっ、ああっ、やめて!人違いだあああっ!」
煙が消えて捕えた人物の姿が露になる。
「……エリック。まだいたのね。ホント邪魔ね」
「まさか本当にミザリー様に近づいていたとは…」
しかしミザリーの姿は消えていた。逃げられた。
「まさか煙を吹く丸薬を持っていたなんて…」
うかつだった。
「でもホント何なのかしら、あのお姉さまは?」
「……さあ、何かお考えがあるのでは」
「そうね、何か企んでいるのは分かったわ」
「…‥」
アルバ=クロード公爵は元々外へ出るタイプの人間ではなかった。
もちろんこのような派手なパーティなど好む人間でもない。
いつもは家で人が理解し得ない小難しい本を読み、外出と言えば美術館や骨董館、古本屋など、きわめて内向的趣味を持つ。
そんな彼がレナン家を訪れたのは無論招待を受けたからという理由もあったが、もう一つ理由があった。
「困ったな、これじゃ見つかりそうもない。うーん、まあ仕方ないか」
夜会には沢山の人が居て見つけられない。だがそれならそれでいいかも、と彼は割り切っていた。
懐に入った手紙を取り出し、中を見る。
内容は熱烈なラブレター。地味なアルバにこんな物を寄こす娘に興味を持ったのは否めないが別にどうでも会いたいわけじゃない。
会えれば運命、会えなければそれだけのこと。
この会場の何処かに彼女が居るのかもしれない。だが慌てずに彼は成り行きを楽しむことにする。
ミザリー姫は人々の目をかい潜り、裏口から回りこんでようやく会場へ入った。
ティアや警備達の目を気にしながらこそこそと目的の人物を捜す。
「……なんで私がこんな苦労を。ティアのせいだわ…」
だからと言って数年に一度という奇跡を逃す事は出来ない。
ミザリーは周囲の白い目も気にせず腰を低くして捜し回る。そしてとうとう見つけた。
柱の陰からこっそり覗く姿は一見異様だったがミザリーは今更そんな事気にしない。
「―――ああ、素敵、三年ぶりのその御姿。拝見出来ただけでもう幸せ」
視線の先には上から下まで真っ黒な姿の彼。艶やかな黒髪も切れ長の漆黒の目もミザリーは大好きだ。
「ううっ、傍へ行って撫でまわしたい。ああっ、でも嫌われたらどうしよう?でもそれはそれで、あの目で睨まれたらたまらないわ。どうしよう?」
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