意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
75 / 171
第十二話 噓と真実の饗宴

6

しおりを挟む




 ―――ヤバかった。今度こそ本当に駄目かと思った。

 ルウドは屋敷を出て夜気に当たり、噴水の水で顔を洗って顔のほてりを取り、しばらく冷たい空気を吸って全身に高ぶった動揺を抑える。
 毎回毎回、ティアの行為がエスカレートしている。
 全身で愛情を示し始めた。

 ―――何であんな事……?

 そばにいて、大切にして、どれだけ愛しても、実際に愛することはできない。
 こんな男が傍にいる事がまずいのかもしれない。

「……………」









 気分が重い。深い霧に包まれて出口が見つからない。
 だが霧の向こうに影が見える。まるで陽炎のようなそれにひたすら追って追いすがろうとするがいまだに捕まえる事が出来ない。
 あの影の正体を突き止める事が出来ない。

「お兄様、どうなさったの?どこかお悪いのですか?」

「アリシア……」

 気がつくとアリシアが心配そうに顔を覗き込んでいた。彼女の後ろに彼女の婚約者エルフィードも見える。

「すまない、何でもないんだ。チョットぼんやりしてしまってね。疲れていたのかもしれないね」

「本当にそれだけ?グレイス婦人もとても心配していたわ」

「そうか、あとでお詫びに行かなければ。いろいろ良くして下さったのに申し訳ないな。私もろくにご令嬢達のお相手も出来なかったし」

「そんな事に気を使い過ぎるから疲れてしまうのよ?ご挨拶は私が行くからお兄様は休んでいて?」

「そうか、済まないな。エルフィード君も済まない」

「いいえ」

 心配そうなアリシアとエルフィードを何でもないという様に見送って、一人になるとやはりぼんやりしてしまう。
 何故こんな事になったのか。こんな事になってしまったのか?
 たぶんそれは一瞬の事、すぐに目を逸らして忘れてしまった。





 


 王家の四兄妹は夜、街を出る。
 夜は危険だが警備も万端、馬車を一台ずつ出して安全な道を通りすぐに城に付く。
 夜中に帰り着いたが王も王妃も皆待っていてくれた。

「お帰りなさい、みんな無事で何よりだわ」

 王と王妃も入口で出迎えてくれた。

「レナン夫妻はお元気だった?」

「ええとても、本当に良くしてくださって。とても楽しい二日間でしたわ」

 笑顔でアリシアが答える。婚約者に出会えたアリシアには至福の時間ではあった。が…

「アリシアお姉さまはそうよね。私はもう二度とごめんだからね」

「…ティア、ルウドに優しくしてもらえてよかったじゃない?」

「冗談じゃないわよ、もう」

 ティアは機嫌が悪かった。王と王妃に挨拶だけ済ませてさっさと部屋へ戻って行った。

「うふふふっ、私もとても楽しかったわ。うふふふふっ」

「ミ、ミザリー?そんなにいい事があったの?」

「えへへへへ、そう、大収穫よ」

 不気味な笑い声を発しながらミザリー姫は去って行った。

「……‥それで皇子は?どうかしたの?」

「あ、すみません、本当に何でもないのですよ、そうですね、少し疲れたのかもしれません。報告は明日にして本日はもう休ませていただきますね」

 皇子は何でもないという風に微笑み、立ち去って行った。

「どうしたのかしら?何かあったのかしら?アリシア…?」

「それが良く分からなくて。しばらくしたら元のお兄様に戻るかも知れないからそっと様子を見た方がいいかもしれません」

「そうなの?」

 不安そうに皇子を見送る王妃にアリシアはにが笑うしかない。

「レナン夫妻はとても良くして下さったのよ。とてもいい旅行でしたわ」

「そう、それならいいのだけど…」

 皇子に何が起こったのか、それはまだ当人にすら分かっていない。
 なのでそっと見守るしかない。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。 本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。 母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。 そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。 これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

おばあちゃんの秘密

波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。 小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

修道院パラダイス

恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。 『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』 でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。 ◇・◇・◇・・・・・・・・・・ 優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。 なろうでも連載しています。

処理中です...