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第十二話 噓と真実の饗宴
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しおりを挟む―――ヤバかった。今度こそ本当に駄目かと思った。
ルウドは屋敷を出て夜気に当たり、噴水の水で顔を洗って顔のほてりを取り、しばらく冷たい空気を吸って全身に高ぶった動揺を抑える。
毎回毎回、ティアの行為がエスカレートしている。
全身で愛情を示し始めた。
―――何であんな事……?
そばにいて、大切にして、どれだけ愛しても、実際に愛することはできない。
こんな男が傍にいる事がまずいのかもしれない。
「……………」
気分が重い。深い霧に包まれて出口が見つからない。
だが霧の向こうに影が見える。まるで陽炎のようなそれにひたすら追って追いすがろうとするがいまだに捕まえる事が出来ない。
あの影の正体を突き止める事が出来ない。
「お兄様、どうなさったの?どこかお悪いのですか?」
「アリシア……」
気がつくとアリシアが心配そうに顔を覗き込んでいた。彼女の後ろに彼女の婚約者エルフィードも見える。
「すまない、何でもないんだ。チョットぼんやりしてしまってね。疲れていたのかもしれないね」
「本当にそれだけ?グレイス婦人もとても心配していたわ」
「そうか、あとでお詫びに行かなければ。いろいろ良くして下さったのに申し訳ないな。私もろくにご令嬢達のお相手も出来なかったし」
「そんな事に気を使い過ぎるから疲れてしまうのよ?ご挨拶は私が行くからお兄様は休んでいて?」
「そうか、済まないな。エルフィード君も済まない」
「いいえ」
心配そうなアリシアとエルフィードを何でもないという様に見送って、一人になるとやはりぼんやりしてしまう。
何故こんな事になったのか。こんな事になってしまったのか?
たぶんそれは一瞬の事、すぐに目を逸らして忘れてしまった。
王家の四兄妹は夜、街を出る。
夜は危険だが警備も万端、馬車を一台ずつ出して安全な道を通りすぐに城に付く。
夜中に帰り着いたが王も王妃も皆待っていてくれた。
「お帰りなさい、みんな無事で何よりだわ」
王と王妃も入口で出迎えてくれた。
「レナン夫妻はお元気だった?」
「ええとても、本当に良くしてくださって。とても楽しい二日間でしたわ」
笑顔でアリシアが答える。婚約者に出会えたアリシアには至福の時間ではあった。が…
「アリシアお姉さまはそうよね。私はもう二度とごめんだからね」
「…ティア、ルウドに優しくしてもらえてよかったじゃない?」
「冗談じゃないわよ、もう」
ティアは機嫌が悪かった。王と王妃に挨拶だけ済ませてさっさと部屋へ戻って行った。
「うふふふっ、私もとても楽しかったわ。うふふふふっ」
「ミ、ミザリー?そんなにいい事があったの?」
「えへへへへ、そう、大収穫よ」
不気味な笑い声を発しながらミザリー姫は去って行った。
「……‥それで皇子は?どうかしたの?」
「あ、すみません、本当に何でもないのですよ、そうですね、少し疲れたのかもしれません。報告は明日にして本日はもう休ませていただきますね」
皇子は何でもないという風に微笑み、立ち去って行った。
「どうしたのかしら?何かあったのかしら?アリシア…?」
「それが良く分からなくて。しばらくしたら元のお兄様に戻るかも知れないからそっと様子を見た方がいいかもしれません」
「そうなの?」
不安そうに皇子を見送る王妃にアリシアはにが笑うしかない。
「レナン夫妻はとても良くして下さったのよ。とてもいい旅行でしたわ」
「そう、それならいいのだけど…」
皇子に何が起こったのか、それはまだ当人にすら分かっていない。
なのでそっと見守るしかない。
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