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第十二話 噓と真実の饗宴
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しおりを挟む王家の四兄姉妹が帰ってきた。
この二日、火が消えたような静けさを保っていた城内に再び賑やかな日常が始まる。
普段静けさと平穏を求めている警備隊や使用人達も帰ってきた姫達や皇子を見て安堵する。
魔法使いの塔にやってきたティアをゾフィーは喜んで出迎えた。
「お帰りなさいティア様、いい旅でしたか?」
「最悪だわ。変な男に襲われるし、ミザリーお姉さまは暴れ出すし、お兄様は呆けるし。
ルウドは意地悪だし」
「ルウドさんは護衛では?」
「そうよ、護衛のくせにパーティでは女の人に囲まれて鼻の下伸ばして。私を助けるのが遅れたのはルウドの怠慢なのに責任取らないのよあの人。口先ばっかりで誤魔化して。恋人になってくれるって言ったのに嘘ばっかり、最低」
「……‥」
部屋の隅に控える護衛のハリスとお茶を出したゾフィーは互いに視線を交わす。
ルウド隊長の苦労が窺い知れる。
「私がどれだけ迫ってもいつも子供扱い。一体何が足らないのかしら?私の何がいけないのかしら?やっぱり胸かしら?どう思う、ハリス?」
「えっ、私ですか、その…。けしてその様な事は…。そんな胸なんて気になさらなくても十分魅力的ですよティア様は…」
「そう言うわよね優男は。詰まんない慰めならよしてよ。折角の大チャンスを不意にした虚しさなんかあなたに分からないわよ」
「………」
「アリシアお姉さまが羨ましい。婚約者と思う存分仲良く出来て」
「…ですがアリシア様は婚約者様と中々お会いできないのでしょう?いつも手が届く所に大切な人がいるティア様が羨ましいとアリシア様はいつも言っておられますよ?」
「近くに居過ぎるのが問題なのかしら?でも離れたらそのまま終わりそうで怖いわ」
「余りしつこいと逆に嫌がられてしまいますよ?男とはそういうものです」
「……私そんなにしつこいかしら?」
「ええと、少し距離をおくと見えないものも見えるというか、いろいろ考える時間が出来ていいと思いますよ」
「なによそれ、分かんないわよ。やっぱり私を子供扱いしているのね?結局の所やっぱり胸ね。私に大人の魅力が足らないからいけないんだわ」
「……いえそう言うことでは、全く…」
「ゾフィー、胸の大きくなる薬作ってよ?ルウドもイチコロになるやつ」
「それはちょっと…。前回の媚薬と似たようなものでしょう?あまり効果はないと思いますが?」
「じゃあルウドが私を愛してくれる薬」
「……」
いくら魔法使いでもそんな薬は作れない。
「あのですね、姫様……」
「なによもう、努力が足りないっていいたいのでしょう?分かってるわよ。でももう何をどうしたらいいのか分からないのだもの」
ゾフィーは困ってハリスを見る。ハリスはにが笑う。
「努力で手に入れられるものでもないですからねえ。私でよければ幾らでもご教授いたしますが」
「なにをよ?ルウドに愛される方法を?」
「そんなところです」
満面の笑みを浮かべるハリスをティア姫は胡散臭そうに眺めた。
「にやけ男にルウドが落せるなら誰だって落せるわよ。馬鹿馬鹿しい」
「で、ですが姫様、私は付き合いが長い分ルウドの好みをよく熟知しております」
「なによ、私の方が付き合いは長いのよ!私が三つくらいの時から一緒なんだから」
「ですが女性の好みまでは知らないでしょう?姫様にそんな事を言う筈もないですから」
「…知らないわ。やっぱり胸が大きい人?」
「胸で人を見たりしませんよルウドは。知ってるでしょう?」
「……じゃあ何なのよ?ルウドの好みって」
「そうですねえ、例えば優美でたおやかな感じの知性の見え隠れする静やかな女性というところでしょうか」
「それってまるっきり……」
アリシア姫だ。
ハリスは気付いたが時すでに遅く、ティア姫に睨まれた。
「私じゃどうしたってお姉さまみたいにはなれないわよ。それだからルウドに愛されないって言うの?でもお姉さまにはなれないもの、仕方ないでしょ!」
「あああああ、そんなつもりでは。ティア様にはティア様のいいところがあるのです。アリシア様のようになんてなる必要もないのですよ?」
「だったらどうすればいいのよ馬鹿ああああああっ!」
「ああああっ、ティア様っ、落ち着いて…‥」
睨まれた、更に怒られ泣かれて走り去られてしまった。
ハリスは気まずそうにゾフィーを見るとすぐに姫を追い掛けるため部屋を出て行った。
ホントにどうする事も出来ない。誰かどうにかしてほしい。
お手上げ状態のティア姫の恋より、あの二人に振り回される周囲の悲しい現状を。
静かになった部屋でゾフィーは一人、深いため息をつく。
騒がしい日常というのは嬉しいのか悲しいのかよく分からない。
「うふふふふふふ、ほほほほほほ」
薔薇園で誰かが笑っている。
誰か、である。けして薔薇が笑っているのではない。
薔薇の世話をしていたルウドはその正体を確かめるべく声の方へ向かう。
そして――――
「あははははは、ほほほほほほ」
「……‥ミ、ミザリー姫様」
「うふふふふ、あらルウド、ごきげんよう」
ミザリー姫が薔薇に水をやりながら笑っている。
「ご機嫌ですね?どうかなされたので?」
「ルウド、それがねえ、お手紙を出したのよ!」
「へ、どなたにです?」
「クロちゃんによ!」
「クロちゃん?く、クロード公爵で?」
「そう、帰る前にお手紙のやり取りをしようって連絡先教えて貰ったのよ!ふふふふふ!あ、一応ルウドとティアには感謝するわね」
「それは良かったですね……」
「そうよ、笑いが止まらないわ、おほほほおほほ」
「……」
ルウドは静かにその場を引き下がった。
何か含みがありそうな怖い笑いだが、とりあえず手紙の交換位なら大事はないと思う。
ルウドは遠くから聞こえる笑い声を聞かないふりをして薔薇の世話に集中した。
パーティの音楽が聞こえる。
大会場のシャンデリアの下、楽士達の軽やかな音楽に合わせて人々が踊っている。
それを眺める沢山のお客達、沢山の話声や笑い声。
舞踏会場の隣の食事と交流場の席でも様々な催しが行われている。
皇子の前で何処かの貴族の娘達が先を争って特技などを披露している。
これは皇子の為の席、分かっていたからグレイス婦人と共に催しを見ていた。
「ふふふっ、未来の王妃様は楽しい特技の持ち主かしら?それはそれで楽しいわね」
どこからか全く人事な言葉が聞こえた。
どこかの口さがない娘の言葉だろうが皇子はついその声の方を見る。
赤毛が人ごみの中に消えた。
催しの合間の休憩で、皇子は一人外の空気を吸いに庭へ出る。
中の熱気に当てられ続けていた顔を外気に当てると冷ややかで気持いい。
「あら皇子様、未来の王妃様は決まって?」
一人ぼんやりしていると後ろから声がかかって驚いた。
この明るい声は先程聞いた。すぐに後ろを見ると娘が身じろいだ。
赤い髪の小さい娘だ。つり上がった目が印象的な。
「な、何かしら?」
「……いや、君は?」
「おほほほ、通りがかりの者ですわ。どうぞお気になさらず。レナン婦人も相当力を入れていらっしゃるから何としてもそれなりの成果がなくては帰して貰えませんわよ?」
「そんな……」
彼女は楽しそうだ。何しろ他人事だから。
「皇子様がどんなお相手を選ぶのかとても楽しみに見ていますわ。頑張って下さいね。ふふふふふふっ」
そして彼女は楽しげに去って行った。
――――――酷い…‥。
彼女は徹底的に傍観者だ。他人事だ。どうでもよさげだ。
当然だ、彼女は名前も知らない赤の他人なのだから。
「――――――――っ…」
皇子は起き上がって深い息を吐く。
なぜ?ただの何の事もない出来事を忘れられない?夢に見る程に何を悩む?
違う。悩むべきところが違う。
忘れられないのが苦しいのではなく何も知らない事が苦しいのだ。
―――――これは……?
目をつぶれば思い出す姿。
赤い髪、大きな瞳、ころころと変わる表情、可愛らしい笑顔、華奢な肩に小柄な体。
鈴が鳴るような声に振り向いて、猫のような瞳に釘づけられた。
丸っきりの傍観者風情の彼女に酷い言葉を投げられて、楽しげに笑って去っていく彼女に心ごと持っていかれた。
それはただ一瞬の普通なら何でもない出来事だった。
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