「お前とは結婚できない」って言ったのはそっちでしょ?なのに今さら嫉妬しないで

ほーみ

文字の大きさ
1 / 6

1

王都ベルセリオ、冬の終わり。

辺境領主の娘であるリリアーナ・クロフォードは、煌びやかな社交界の片隅で、ひとり静かにグラスを傾けていた。

この社交界に参加するのは久しぶり。3年前に婚約破棄された時、彼女は王都から姿を消したのだ。今日こうして戻ってきたのは、王女の誕生祝賀パーティに招かれたからに過ぎない。

「リリアーナ……本当に、君なのか」

――来た。

その声を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく凍るようだった。

振り向けば、金髪碧眼の男――エリオット・レインハルト。かつての婚約者であり、王家の血を引く名家レインハルト公爵家の嫡男。

「……お久しぶりですね、エリオット様」

にこりと微笑むリリアーナ。だがその笑顔には、かつてのような優しさも、熱もなかった。

「君が、こんなところにいるなんて……僕はずっと、君のことを――」

「探していた? それとも、忘れようとしてたのかしら?」

エリオットが息を飲む。そう、彼はかつてリリアーナにこう言い放ったのだ。

『君とは結婚できない。愛しているのは他の女性だ』

あの時、王都中に広まった破談の噂。婚約破棄の理由は「リリアーナが公爵家にふさわしくないから」だと、彼は堂々と語った。

だが――

今、彼の瞳には焦りが滲んでいる。そう、リリアーナが“変わった”ことに気づいたのだ。

王都を去ってからの3年、彼女は商業都市エルナに拠点を移し、驚異的な手腕で貿易会社を立ち上げた。いまや王都でもその名を知らぬ者はいない。

「……君がここまでになるなんて、思ってもみなかった。あの時は、若かったんだ。感情的になって……本当に、すまなかった」

「謝罪を聞きに来たわけじゃありません。今さら、あなたの言葉には意味がないわ」

ぴしゃりと斬り捨てる。リリアーナは静かにグラスを置いた。

エリオットの顔が歪む。

「君は、まだ僕に怒っているのか? それとも……まだ僕を――」

「勘違いしないで」

声が冷たく落ちる。

「あなたが他の女を選び、私を捨てた日から、私の中であなたは“終わった”の」

その瞬間、背後から低く落ち着いた声が響く。

「リリアーナ、そろそろ行こうか」

振り返ると、漆黒の髪に鋭い銀の瞳を持つ男――ジーク・バルトネスが立っていた。

彼はリリアーナの現在のビジネスパートナーであり、噂では婚約者とも囁かれている男だ。

「……その男は誰だ」

エリオットが苛立ちを隠せずに言う。

「紹介するわ。ジーク・バルトネス様。私の……“現在の相手”よ」

わざと含みを持たせた言い方に、エリオットの眉がぴくりと動く。

ジークはエリオットを一瞥し、薄く笑った。

「彼女を手放したのは君か? 良い選択だった。おかげで、こんなに素晴らしい女性に出会えた」

その言葉に、エリオットの拳が震える。

リリアーナはそんな様子をちらりと見て、冷ややかに微笑んだ。

――今さら、嫉妬しないで。

かつて私を蔑んだあなたに、もう感情を向ける価値などない。

社交界のざわめきが遠ざかる。リリアーナはジークの腕に自然と絡ませ、静かにその場を後にした。

その背後で、エリオットは動けずに立ち尽くしていた。


「ふふっ、ちょっと意地悪だったかしら?」

馬車の中、リリアーナはジークの隣で小さく笑った。

「それくらい、して当然だ。あんな男のために、泣いた日々が報われるならな」

「……泣いてたなんて言ってないわ」

「言わなくてもわかる」

ジークの声は優しく、しかし真っ直ぐだった。

リリアーナの視線がふと窓の外に向く。

3年前は、確かにエリオットを愛していた。

でも今――

彼女の胸を占めるのは、別の感情だった。

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。

豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」 「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」 「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」

婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが・完結

まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10 私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。 エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。 エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら? それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。 エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。 そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。 なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。

雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」 妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。 今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。 私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます

Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?