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兄、グレゴリー・オルディスが去ったあと、私は改めて現状を整理した。
(王家が本格的に動き出すのは時間の問題ね。でも、まだ直接的な行動には出ていない……)
つまり、今は様子見の段階。
(今のうちに、こちらの基盤を固めておくべきね)
そう決意した私は、ディアス・ヴァレンタインとの交渉を進めることにした。
数日後、王都の高級レストランで私はディアスと再び顔を合わせた。
「さて、正式な契約の話をしようか」
ディアスは優雅にワインを傾けながら言った。
「ええ。まず、私の事業の主導権は私が持つことが条件です」
「当然だな。他には?」
「利益は折半。ただし、研究開発の費用はこちらが出す場合、その分の割合を調整する」
「うん、合理的だ」
「あと、商会が私の事業を利用して政治的な動きをすることは禁止」
「ほう?」
ディアスの赤い瞳が楽しそうに光る。
「商業は商業として純粋に発展させたいんです。王家との関係はあくまで私自身で決着をつけます」
「ははっ、面白い! 普通なら俺の力を頼りたがるものだが」
「私は誰かに守られるつもりはありません。自分の道は自分で切り開きます」
その言葉に、ディアスはしばらく私を見つめた後、満足げに微笑んだ。
「気に入った。お前とはいい商売ができそうだ」
こうして、正式にヴァレンタイン商会との提携が決まった。
契約が成立し、事業の拡大を進めていたある日、私は王都の市場を歩いていた。
(保存パンの流通は順調。化粧品も貴族の間で評判になり始めた……)
そんなことを考えていると、ふと背後に視線を感じた。
(……誰かが監視している?)
私が立ち止まると、影のような存在が一瞬で消えた。
(間違いない。王家が動いたわね)
私は冷静に市場を歩き続けたが、明らかに誰かがつけてきている。
(直接手を出すつもりかしら? それとも……)
その答えはすぐに出た。
「——エリザベート・オルディスだな?」
突然、路地裏から数人の男が現れた。
「ええ、そうですが?」
私は落ち着いたまま答える。男たちはフードを深くかぶり、顔を隠していたが、その動きからして訓練された兵士であることは明白だった。
「王家からの伝言だ。お前の事業をすぐに手放せ。さもなくば……」
「さもなくば?」
「命の保証はない」
(やっぱり、そう来るわよね)
私はため息をついた。
「残念ですが、お断りします」
「……ならば、力ずくで従わせるしかないな」
男たちが一斉に私に襲いかかってきた——。
「——甘い」
鋭い声が響いた瞬間、男たちは次々と吹き飛ばされた。
「なっ……!?」
気がつくと、私の前にはレオンが立っていた。
「貴様ら……エリザベートに手を出すつもりだったのか?」
彼の青い瞳が怒りに燃えている。
「くっ……撤退しろ!」
男たちは慌てて逃げ出した。
「ありがとう、レオン」
「お前が王都で目立ちすぎるからだ」
レオンは呆れたように言うが、その目には心配の色があった。
「……王家は本気だな」
「ええ。でも、これで決定的になりました」
私は微笑んだ。
「王家が本格的に私を排除しようとしているなら、逆に利用させてもらいます」
レオンは眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
「簡単です。私が『王家に圧力をかけられている』という事実を公にするんです」
「……なるほどな」
貴族社会では、力を持つ者が独占的に権力を握ろうとすると、必ず反発が生まれる。
(すでに私の事業に目をつけている貴族は多い。王家があからさまに介入すれば、彼らも黙ってはいない)
「さて、面白くなってきましたね」
私は微笑みながら、次の手を考え始めた。
翌日、私は貴族の社交界に情報を流した。
「王家がエリザベート・オルディスの事業を強制的に奪おうとしている」
すると、すぐに貴族たちの間で噂が広がり始めた。
「何ですって!? そんな横暴が許されるの?」
「エリザベート嬢の商売は、貴族社会にも利益をもたらしている。王家がそれを奪うのは危険では?」
「このままでは王家の独裁が進んでしまう!」
私の狙い通り、王家の強引な動きに不満を持つ貴族たちが声を上げ始めた。
(王家が私を潰そうとすればするほど、彼らは反発する……)
私は静かにほくそ笑んだ。
数日後、私は再び王宮へと呼び出された。
謁見の間に入ると、そこには王太子アルベルトと、さらに王その人が座っていた。
(王自ら……これは、かなり追い詰められた証拠ね)
「エリザベート・オルディス」
王が重々しく口を開いた。
「貴様の事業は、国の秩序を乱す可能性がある。このまま続けるならば、国を追放する」
周囲の空気が凍りついた。
(とうとう、ここまで来たか……)
しかし、私は動じなかった。
「それは残念です。ですが、王家の支配を逃れたい貴族は多い。私を追放すれば、彼らがどう動くか……お考えになっていますか?」
「貴様……!」
アルベルトが怒りをあらわにする。しかし、王は静かに目を閉じた。
「……では、取引をしよう」
(……王が交渉を持ちかける?)
私の目の前に、新たな選択肢が現れた。
(王家が本格的に動き出すのは時間の問題ね。でも、まだ直接的な行動には出ていない……)
つまり、今は様子見の段階。
(今のうちに、こちらの基盤を固めておくべきね)
そう決意した私は、ディアス・ヴァレンタインとの交渉を進めることにした。
数日後、王都の高級レストランで私はディアスと再び顔を合わせた。
「さて、正式な契約の話をしようか」
ディアスは優雅にワインを傾けながら言った。
「ええ。まず、私の事業の主導権は私が持つことが条件です」
「当然だな。他には?」
「利益は折半。ただし、研究開発の費用はこちらが出す場合、その分の割合を調整する」
「うん、合理的だ」
「あと、商会が私の事業を利用して政治的な動きをすることは禁止」
「ほう?」
ディアスの赤い瞳が楽しそうに光る。
「商業は商業として純粋に発展させたいんです。王家との関係はあくまで私自身で決着をつけます」
「ははっ、面白い! 普通なら俺の力を頼りたがるものだが」
「私は誰かに守られるつもりはありません。自分の道は自分で切り開きます」
その言葉に、ディアスはしばらく私を見つめた後、満足げに微笑んだ。
「気に入った。お前とはいい商売ができそうだ」
こうして、正式にヴァレンタイン商会との提携が決まった。
契約が成立し、事業の拡大を進めていたある日、私は王都の市場を歩いていた。
(保存パンの流通は順調。化粧品も貴族の間で評判になり始めた……)
そんなことを考えていると、ふと背後に視線を感じた。
(……誰かが監視している?)
私が立ち止まると、影のような存在が一瞬で消えた。
(間違いない。王家が動いたわね)
私は冷静に市場を歩き続けたが、明らかに誰かがつけてきている。
(直接手を出すつもりかしら? それとも……)
その答えはすぐに出た。
「——エリザベート・オルディスだな?」
突然、路地裏から数人の男が現れた。
「ええ、そうですが?」
私は落ち着いたまま答える。男たちはフードを深くかぶり、顔を隠していたが、その動きからして訓練された兵士であることは明白だった。
「王家からの伝言だ。お前の事業をすぐに手放せ。さもなくば……」
「さもなくば?」
「命の保証はない」
(やっぱり、そう来るわよね)
私はため息をついた。
「残念ですが、お断りします」
「……ならば、力ずくで従わせるしかないな」
男たちが一斉に私に襲いかかってきた——。
「——甘い」
鋭い声が響いた瞬間、男たちは次々と吹き飛ばされた。
「なっ……!?」
気がつくと、私の前にはレオンが立っていた。
「貴様ら……エリザベートに手を出すつもりだったのか?」
彼の青い瞳が怒りに燃えている。
「くっ……撤退しろ!」
男たちは慌てて逃げ出した。
「ありがとう、レオン」
「お前が王都で目立ちすぎるからだ」
レオンは呆れたように言うが、その目には心配の色があった。
「……王家は本気だな」
「ええ。でも、これで決定的になりました」
私は微笑んだ。
「王家が本格的に私を排除しようとしているなら、逆に利用させてもらいます」
レオンは眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
「簡単です。私が『王家に圧力をかけられている』という事実を公にするんです」
「……なるほどな」
貴族社会では、力を持つ者が独占的に権力を握ろうとすると、必ず反発が生まれる。
(すでに私の事業に目をつけている貴族は多い。王家があからさまに介入すれば、彼らも黙ってはいない)
「さて、面白くなってきましたね」
私は微笑みながら、次の手を考え始めた。
翌日、私は貴族の社交界に情報を流した。
「王家がエリザベート・オルディスの事業を強制的に奪おうとしている」
すると、すぐに貴族たちの間で噂が広がり始めた。
「何ですって!? そんな横暴が許されるの?」
「エリザベート嬢の商売は、貴族社会にも利益をもたらしている。王家がそれを奪うのは危険では?」
「このままでは王家の独裁が進んでしまう!」
私の狙い通り、王家の強引な動きに不満を持つ貴族たちが声を上げ始めた。
(王家が私を潰そうとすればするほど、彼らは反発する……)
私は静かにほくそ笑んだ。
数日後、私は再び王宮へと呼び出された。
謁見の間に入ると、そこには王太子アルベルトと、さらに王その人が座っていた。
(王自ら……これは、かなり追い詰められた証拠ね)
「エリザベート・オルディス」
王が重々しく口を開いた。
「貴様の事業は、国の秩序を乱す可能性がある。このまま続けるならば、国を追放する」
周囲の空気が凍りついた。
(とうとう、ここまで来たか……)
しかし、私は動じなかった。
「それは残念です。ですが、王家の支配を逃れたい貴族は多い。私を追放すれば、彼らがどう動くか……お考えになっていますか?」
「貴様……!」
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私の目の前に、新たな選択肢が現れた。
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