婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか第二王子に溺愛されています

ほーみ

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 夜会が終わり、私は馬車に揺られながら考え込んでいた。

 婚約破棄の場で第二王子レオナード殿下に求婚されるという展開は、誰も予想していなかっただろう。もちろん私自身も。

「……なぜ、あんなことを?」

 レオナード殿下は温和で賢明な方として知られているが、軽はずみに発言するような人物ではない。それなのに、なぜあの場で私を庇うように申し出たのだろうか。

(私に本当に興味があるのか、それとも別の意図が……?)

 考えても答えは出ないまま、馬車はリンドベルク公爵家の邸宅へと到着した。

 屋敷の扉を開けると、すでに父と母が私を待っていた。

「エレノア、大丈夫か?」

 父、ギルバート・フォン・リンドベルク公爵が心配そうに駆け寄ってくる。

「……問題ありません、父上。婚約破棄は正式な書面を通じて処理することで決着しました」

「そうか……しかし、アルベルト殿下め、礼儀も何もない……!」

 父は拳を握りしめ、怒りをあらわにした。母も悲しげにため息をつく。

「エレノア、あなたは本当に気丈ね……」

「気を落とす暇はありませんから」

 私は静かに答えた。

 事実、リンドベルク公爵家は王家を支える名門貴族であり、私が王太子妃候補から外されたことは決して軽い問題ではない。公爵家の立場に影響を与える可能性もある。

「それに……第二王子殿下のことも考えなければなりません」

 その言葉に、父と母は目を見開いた。

「レオナード殿下のこと? まさか、本当にお前を……?」

「……はい。夜会の場で、私に求婚されました」

「なっ……!?」

 二人とも驚愕し、言葉を失った。

 それも当然だろう。婚約破棄された娘が、すぐに王族から求婚されるなど異例中の異例だ。

「レオナード殿下は本気なのか……?」

「それが、まだ分かりません」

 私は正直に答えた。

「彼の真意を確かめる必要があります」

「……確かにな」

 父は腕を組み、沈思黙考する。

「しかし、エレノア。お前の気持ちはどうなのだ?」

「……私はまだ決めかねています」

 それが、私の本心だった。

 婚約破棄のショックがないわけではないし、レオナード殿下の言葉に心が揺れたのも事実。しかし、私は彼のことをほとんど知らない。

 このまま彼の言葉を鵜呑みにしてよいのだろうか――?




 翌日、宮殿から正式な使者がリンドベルク公爵家を訪れた。

「リンドベルク公爵令嬢エレノア様に、レオナード殿下からのお手紙をお持ちしました」

 差し出された封筒には王家の紋章が刻まれていた。

 私はそれを受け取り、封を切る。

『エレノア嬢へ。
 突然の申し出に驚かせてしまったことと思う。
 もしよければ、今後のことについて直接話をさせてもらえないだろうか?
 都合の良い日に宮殿へ来てほしい。君の意思を尊重したい。
                         レオナード・フォン・ライゼンベルク』

 端正な文字で書かれたその手紙に、私はしばらく視線を落とした。

「……どうする?」

 父が尋ねる。

 私は深く息をつき、ゆっくりと頷いた。

「――行こうと思います」





 数日後、私は宮殿を訪れた。

 案内されたのは、レオナード殿下の私室だった。

 豪奢だが落ち着いた内装の部屋で、彼は私を迎えた。

「来てくれて嬉しいよ、エレノア嬢」

「お招きありがとうございます、レオナード殿下」

 私は優雅に一礼する。

 彼は私をソファに促し、自らも向かいに座った。

「……突然のことだったから、驚かせてしまったね」

「ええ、正直に申し上げれば、まだ戸惑っています」

 私は正直な気持ちを伝えた。

「どうして私に求婚を?」

 レオナード殿下はしばし沈黙し、やがて穏やかに微笑んだ。

「君のことを、ずっと見ていたから」

「……え?」

「アルベルト兄上が君と婚約していた間、君は常に完璧な令嬢だった」

「……」

「でも、それと同時に……君はどこか無理をしているように見えたんだ」

 その言葉に、私は息を呑む。

「僕はね、エレノア嬢。君のことが、ずっと気になっていた」

 レオナード殿下の蒼い瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。

「もし君が望むなら、僕は君を全力で守るよ」

 その言葉は、あまりにも優しくて――

 胸の奥が、少しだけ熱くなった。

(私は……どうするべきなの?)

 アルベルト殿下に捨てられた私を、彼は本気で求めているのだろうか?

 それとも、彼には別の目的が……?

 私の新たな人生の選択は、今まさに始まろうとしていた。
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