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レオナード殿下の蒼い瞳が、私を真っ直ぐに見つめていた。
「もし君が望むなら、僕は君を全力で守るよ」
その言葉は、まるで温かな陽だまりのようだった。
アルベルト殿下に捨てられたばかりの私には、あまりにも優しすぎる言葉。でも、だからこそ簡単に信じるわけにはいかない。
「……レオナード殿下」
「うん?」
「私は今、混乱しています。アルベルト殿下に婚約を破棄されたばかりなのに、すぐに別の王子に求婚されるなんて、普通は考えられません」
私が慎重に言葉を選びながらそう告げると、レオナード殿下は少しだけ微笑んだ。
「君の言うとおりだね。唐突すぎると思われても仕方ない。でも、僕は君をずっと前から見ていたんだ」
「……ずっと?」
「うん。アルベルト兄上の婚約者だった君を直接手に入れようなんて考えたことはなかった。だけど――兄上が君を粗末に扱っているのを見て、ずっと悔しかったんだ」
「……」
「君は、アルベルト兄上のことをずっと支えてきた。それなのに、兄上は君の努力を見もしなかった。だからこそ、彼が君を手放したとき、僕は絶対に逃がしたくないと思ったんだ」
彼の言葉は真剣だった。
私は、ふっと小さく息をつく。
「……そうだとしても、私には慎重になる権利があります」
「もちろんだよ」
レオナード殿下は柔らかく微笑んだ。
「だからこそ、僕は無理に答えを求めない。ただ、君に考えてほしいんだ。僕と過ごす未来について」
「……未来、ですか」
今まで考えたこともなかった。私は王太子妃になるために育てられ、それが当然の未来だと信じていた。でも、その未来は崩れ去った。
新たな未来を選べるとしたら……?
(私が第二王子妃に……?)
想像が追いつかない。でも、レオナード殿下は私に選択の余地を与えてくれている。
「分かりました。少し考える時間をください」
「うん、いいよ。君がどんな決断をしても、僕は君を尊重する」
彼の優しさが、かえって私の胸を締めつけた。
(もしこの人となら、私は――)
そんな考えを振り払うように、私は席を立った。
「本日はありがとうございました、レオナード殿下」
「うん、また話せると嬉しいな」
彼の微笑みを背に、私は宮殿を後にした。
それから数日後、私は公爵家の庭園で考え事をしていた。
レオナード殿下の言葉を思い返しながら、これからのことをどうするべきか、自分なりに答えを探していた。
(第二王子妃になる未来……)
そんなとき、不意に声がかかった。
「久しぶりだな、エレノア」
驚いて顔を上げると、そこに立っていたのはアルベルト殿下だった。
「……アルベルト殿下」
「殿下はもう必要ないだろう?」
彼の顔はどこか険しく、苛立っているようにも見えた。
「君の婚約破棄は終わったはずなのに、なぜレオナードと会っている?」
「それは……」
「まさか、本当にあいつの申し出を受ける気なのか?」
私は冷静に彼を見つめ返した。
「……それは私が決めることです」
「君は王太子妃になるべきだったんだ。リリアを選んだのは仕方のないことだが……第二王子妃なんて、格が違いすぎる」
「格……ですか」
「そうだ。君は第一王子妃としてふさわしい教育を受けてきた。その君がレオナードの妃になるなんて、王家のバランスが崩れる」
彼は私の意志ではなく、王家の事情ばかり気にしている。
それが分かった瞬間、私は冷めた気持ちになった。
「アルベルト殿下、あなたは私を失ったことを後悔しているのですか?」
「……それは……」
一瞬、彼の表情が揺らいだ。しかしすぐに硬い顔つきに戻り、強い口調で言った。
「違う。ただ、君があいつのところへ行くのが気に入らないだけだ」
「……そうですか」
私の中で、アルベルト殿下への未練が完全に消え去るのを感じた。
「でしたら、私がどうしようと殿下には関係ありません」
「君……!」
彼が苛立ちを見せたその瞬間――
「そこまでにしてもらおうか、兄上」
背後から、優雅な声が響いた。
振り向くと、そこにはレオナード殿下がいた。
「レオナード……!」
「兄上、エレノア嬢にまだ未練があるのかい?」
「違う!」
「そうか。なら、彼女の選択に口を挟む権利はないね」
「……っ」
アルベルト殿下は拳を握りしめ、苛立った様子で睨みつけた。
そして、最後に私をじっと見つめると、何も言わずに踵を返し、去っていった。
静寂が戻る。
「……驚かせてしまったかな?」
レオナード殿下が優しく微笑む。
「いいえ……助かりました」
「君に選ぶ権利がある。兄上に邪魔させるつもりはないよ」
彼の言葉が、また心に優しく響いた。
アルベルト殿下が去り、私はようやく新しい未来に向き合えるようになった気がする。
でも――まだ決められない。
「もう少し、考えさせてください」
「もちろん。君の気持ちが決まるまで、僕は待つよ」
彼の言葉に、私はほんの少しだけ微笑んだ。
(もしかしたら、この人の隣にいる未来も悪くないのかもしれない――)
そんな考えが、ふっと心に浮かんだのだった。
「もし君が望むなら、僕は君を全力で守るよ」
その言葉は、まるで温かな陽だまりのようだった。
アルベルト殿下に捨てられたばかりの私には、あまりにも優しすぎる言葉。でも、だからこそ簡単に信じるわけにはいかない。
「……レオナード殿下」
「うん?」
「私は今、混乱しています。アルベルト殿下に婚約を破棄されたばかりなのに、すぐに別の王子に求婚されるなんて、普通は考えられません」
私が慎重に言葉を選びながらそう告げると、レオナード殿下は少しだけ微笑んだ。
「君の言うとおりだね。唐突すぎると思われても仕方ない。でも、僕は君をずっと前から見ていたんだ」
「……ずっと?」
「うん。アルベルト兄上の婚約者だった君を直接手に入れようなんて考えたことはなかった。だけど――兄上が君を粗末に扱っているのを見て、ずっと悔しかったんだ」
「……」
「君は、アルベルト兄上のことをずっと支えてきた。それなのに、兄上は君の努力を見もしなかった。だからこそ、彼が君を手放したとき、僕は絶対に逃がしたくないと思ったんだ」
彼の言葉は真剣だった。
私は、ふっと小さく息をつく。
「……そうだとしても、私には慎重になる権利があります」
「もちろんだよ」
レオナード殿下は柔らかく微笑んだ。
「だからこそ、僕は無理に答えを求めない。ただ、君に考えてほしいんだ。僕と過ごす未来について」
「……未来、ですか」
今まで考えたこともなかった。私は王太子妃になるために育てられ、それが当然の未来だと信じていた。でも、その未来は崩れ去った。
新たな未来を選べるとしたら……?
(私が第二王子妃に……?)
想像が追いつかない。でも、レオナード殿下は私に選択の余地を与えてくれている。
「分かりました。少し考える時間をください」
「うん、いいよ。君がどんな決断をしても、僕は君を尊重する」
彼の優しさが、かえって私の胸を締めつけた。
(もしこの人となら、私は――)
そんな考えを振り払うように、私は席を立った。
「本日はありがとうございました、レオナード殿下」
「うん、また話せると嬉しいな」
彼の微笑みを背に、私は宮殿を後にした。
それから数日後、私は公爵家の庭園で考え事をしていた。
レオナード殿下の言葉を思い返しながら、これからのことをどうするべきか、自分なりに答えを探していた。
(第二王子妃になる未来……)
そんなとき、不意に声がかかった。
「久しぶりだな、エレノア」
驚いて顔を上げると、そこに立っていたのはアルベルト殿下だった。
「……アルベルト殿下」
「殿下はもう必要ないだろう?」
彼の顔はどこか険しく、苛立っているようにも見えた。
「君の婚約破棄は終わったはずなのに、なぜレオナードと会っている?」
「それは……」
「まさか、本当にあいつの申し出を受ける気なのか?」
私は冷静に彼を見つめ返した。
「……それは私が決めることです」
「君は王太子妃になるべきだったんだ。リリアを選んだのは仕方のないことだが……第二王子妃なんて、格が違いすぎる」
「格……ですか」
「そうだ。君は第一王子妃としてふさわしい教育を受けてきた。その君がレオナードの妃になるなんて、王家のバランスが崩れる」
彼は私の意志ではなく、王家の事情ばかり気にしている。
それが分かった瞬間、私は冷めた気持ちになった。
「アルベルト殿下、あなたは私を失ったことを後悔しているのですか?」
「……それは……」
一瞬、彼の表情が揺らいだ。しかしすぐに硬い顔つきに戻り、強い口調で言った。
「違う。ただ、君があいつのところへ行くのが気に入らないだけだ」
「……そうですか」
私の中で、アルベルト殿下への未練が完全に消え去るのを感じた。
「でしたら、私がどうしようと殿下には関係ありません」
「君……!」
彼が苛立ちを見せたその瞬間――
「そこまでにしてもらおうか、兄上」
背後から、優雅な声が響いた。
振り向くと、そこにはレオナード殿下がいた。
「レオナード……!」
「兄上、エレノア嬢にまだ未練があるのかい?」
「違う!」
「そうか。なら、彼女の選択に口を挟む権利はないね」
「……っ」
アルベルト殿下は拳を握りしめ、苛立った様子で睨みつけた。
そして、最後に私をじっと見つめると、何も言わずに踵を返し、去っていった。
静寂が戻る。
「……驚かせてしまったかな?」
レオナード殿下が優しく微笑む。
「いいえ……助かりました」
「君に選ぶ権利がある。兄上に邪魔させるつもりはないよ」
彼の言葉が、また心に優しく響いた。
アルベルト殿下が去り、私はようやく新しい未来に向き合えるようになった気がする。
でも――まだ決められない。
「もう少し、考えさせてください」
「もちろん。君の気持ちが決まるまで、僕は待つよ」
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(もしかしたら、この人の隣にいる未来も悪くないのかもしれない――)
そんな考えが、ふっと心に浮かんだのだった。
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