婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか第二王子に溺愛されています

ほーみ

文字の大きさ
4 / 7

4

しおりを挟む
 アルベルト殿下が去った後、私は庭園のベンチに腰を下ろした。

 レオナード殿下も私の隣に座り、静かに私の横顔を見つめている。

「……疲れた顔をしているね」

「……当然です。まさか、今になってアルベルト殿下が私に干渉してくるなんて」

 私はため息をつき、夜風に髪をなびかせた。

 アルベルト殿下の態度には、未練よりも「自分のものだったはずの存在を取られる」という独占欲のようなものが感じられた。

(彼にとって私は、『手元に置いておくべき駒』にすぎなかったのかもしれない)

 そう思うと、もはや彼に対する感情は怒りや悲しみすらも消えていた。ただの「過去のこと」として割り切れるような気がした。

「僕が邪魔しなければ、君はどうしていたと思う?」

 ふと、レオナード殿下が優しく問いかけてきた。

「……分かりません。ただ、彼の言葉に揺らぐことはなかったでしょう」

「うん、君ならそうだろうね」

 レオナード殿下は微笑みながらも、その瞳は真剣だった。

「エレノア嬢。君は、これからどうする?」

「どうする……?」

「アルベルト兄上は君を手放し、それでもなお君を縛ろうとしている。でも、君の未来は君のものだ。僕は……君がどんな決断をしても尊重する」

 その優しい言葉に、私は少しだけ胸が締めつけられた。

(この人は、私を束縛しようとしない……)

 アルベルト殿下と違い、レオナード殿下は私に選択の自由を与えてくれている。

 ――それが、心地よかった。

「……まだ、答えは出せません」

 私は静かに答えた。

「でも、殿下のお言葉はありがたく受け止めます」

「うん。それでいい」

 レオナード殿下は穏やかに微笑んだ。

 そして、彼はゆっくりと立ち上がる。

「今日はもう遅いね。君を屋敷まで送ろうか?」

「……いえ、自分で戻れます」

「そう? じゃあ、気をつけて帰ってね」

 彼は私の手を取り、優雅に手の甲へ口づけた。

「また会えるのを楽しみにしているよ、エレノア嬢」

 彼の温かな唇の感触が、一瞬だけ私の肌に残る。

 私は、そんな彼の振る舞いに戸惑いながらも、心の奥底で小さなときめきを感じていることを否定できなかった。




 それから数日間、私は何事もなかったかのように過ごしていた。

 アルベルト殿下が再び接触してくることはなく、宮廷内ではむしろ「アルベルト殿下とリリア嬢の関係」に注目が集まり始めていた。

「リリア嬢、アルベルト殿下に大切にされているのかしら?」

「最近、殿下が彼女に冷たいという話も聞くけれど……?」

 そんな噂を耳にするたび、私は何とも言えない気持ちになった。

(あれほど私を捨ててまで選んだ相手なのに、もう関係が揺らぎ始めているなんて……)

 しかし、それは私には関係のないことだ。

 今の私にとって大事なのは「これからどうするか」。

 そして、そんな私の前に、またしてもレオナード殿下が現れた。

「エレノア嬢、少し時間をもらえるかな?」

「……はい、構いません」

 彼に誘われ、私は再び宮殿を訪れることになった。




 レオナード殿下の私室に通されると、彼はすでに紅茶を用意して待っていた。

「今日は君に見せたいものがあるんだ」

「……見せたいもの?」

 彼は優雅に微笑み、手元の書類を差し出した。

 そこに書かれていたのは――

「王宮改革案」

「……これは?」

「僕がずっと考えていた計画だよ。王宮の制度を見直し、より公平な体制を作るための提案」

「……こんなものを、なぜ私に?」

「君の意見を聞きたいんだ」

 彼は私を見つめ、真剣に言った。

「君はずっと王宮の仕組みを学んできた。貴族としての礼儀作法だけでなく、政治や外交についてもね。だからこそ、君の視点でこの案がどう見えるか、意見を聞きたい」

 私は驚き、そして少しだけ胸が高鳴るのを感じた。

 アルベルト殿下は私を「王太子妃として当然の存在」としか見ていなかった。

 けれど、レオナード殿下は私の知識や能力を「個人として必要としている」。

(この人は……私を対等な存在として見ているのかもしれない)

 私は書類を受け取り、慎重にページをめくる。

「……分かりました。読ませていただきます」

「ありがとう。エレノア嬢の意見が聞けるのを楽しみにしているよ」

 彼は嬉しそうに微笑んだ。

 私はふと、彼の瞳をじっと見つめる。

 レオナード殿下は、なぜ私をここまで大切にしてくれるのだろう?

 彼の言葉をそのまま受け取るべきか、それとも何か別の理由があるのか……?

 答えはまだ分からない。

 けれど、彼の言葉や行動が、私の中の何かを少しずつ変えていっていることだけは確かだった。

(私は……この人と共に未来を考えるべきなのかもしれない)

 そんな考えが、心の片隅に芽生え始めていた。





 しかし、その静かな決意を揺るがすような出来事が起こる。

 数日後――

 宮廷に、とある衝撃的な噂が流れ始めた。

「アルベルト殿下が、リリア嬢との婚約を再考しているらしい……」

「えっ、まさか!?」

「しかも、彼はエレノア嬢に対して『婚約をやり直すべきではないか』と話していたとか……」

 その噂を聞いた瞬間、私は呆然とした。

(……何を考えているの、アルベルト殿下)

 彼は、私を捨てておきながら、今になって「やり直すべき」だなんて……?

 そんな彼の勝手な言葉に、私は静かに拳を握った。

 そして、私は決意する。

(もう、私はあなたのものじゃない。私は……私自身の未来を選ぶ)

 その未来に、レオナード殿下は関わるのか――それは、もう少しだけ考えてみよう。

 けれど、私はもう過去には戻らない。

 新たな未来に向かって進むのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です

唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に 「王国の半分」を要求したら、 ゴミみたいな土地を押し付けられた。 ならば――関所を作りまくって 王子を経済的に詰ませることにした。 支配目当ての女王による、 愛なき(?)完全勝利の記録。

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

婚約破棄されて追放寸前だったのに、なぜか冷徹なはずの氷の公爵様から世界で一番甘く愛されています。

黒崎隼人
ファンタジー
「リゼット・フォン・ヴァインベルク! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」 卒業パーティーの夜、公爵令嬢リゼットは婚約者の王太子から冤罪を突きつけられ、全てを失った。 絶望の淵に沈む彼女に手を差し伸べたのは、『氷の公爵』と噂される冷徹な美青年、キリアン・アシュフォード。 「ならば、俺が君を娶ろう」 彼の屋敷で始まったのは、戸惑うほどに甘い溺愛の日々。 不器用な優しさに触れるうち、凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 一方、リゼットを陥れた偽りの聖女は王宮で増長し、国に災いを招き寄せていた。 やがて真実が暴かれる時、元婚約者は後悔の涙を流すけれど――もう、遅い。 これは、不遇の令嬢が本当の愛を見つけ、世界で一番幸せになるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるような溺愛があなたを待っています。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...