婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか第二王子に溺愛されています

ほーみ

文字の大きさ
5 / 7

5

しおりを挟む
「……もう、いい加減にしてほしいですね」

 アルベルト殿下が「婚約をやり直すべきではないか」と口にした――そんな噂が宮廷を駆け巡っていた。

 私は、またしても勝手な言葉を放つ彼に対して、呆れと苛立ちを隠せなかった。

 「今さら何を言っているのですか?」

 私の独り言は、誰に届くこともなく宙に消えた。

 だが、答えは決まっている。

 私はもう、アルベルト殿下の婚約者ではない。彼に振り回されるつもりもない。

 ――なのに、なぜか彼は私に未練がましい態度を見せ始めた。

 その理由を確かめるためにも、私は彼と対峙することを決めた。





 翌日。

 私は宮廷の庭園でアルベルト殿下と向かい合っていた。

 彼は相変わらず堂々とした立ち振る舞いだったが、その表情にはどこか焦りが滲んでいる。

「エレノア、お前は本当にレオナードと結婚するつもりなのか?」

「……いいえ。そのような話はまだしていません」

「なら、まだ間に合うな」

「……何がです?」

 私は冷ややかな視線を向けた。

 彼は少しだけ眉をひそめると、言いにくそうに口を開いた。

「リリアとの関係が、少し……問題になっている」

 私は目を細めた。

(やはり……そういうことですか)

 彼は確かにリリア嬢を選び、私を婚約破棄した。だが、思ったようにことが進んでいないのだろう。

 「リリア嬢との関係が問題になっているから、私のもとに戻ってきた?」

 そんな馬鹿な話があるものか。

「アルベルト殿下。まさかとは思いますが……私と婚約をやり直すつもりですか?」

 彼の顔が少しだけ強張る。

「……そういうわけではない。ただ、君には王太子妃としての素質がある」

「……」

「今ならまだ、君を正式に王太子妃として迎えることもできる。リリアとのことは、いずれ解決する」

 私は、彼の言葉に深いため息をついた。

「つまり、私はあなたにとって『予備』ということですか?」

「ちがう!」

「では何です? 私を手放したのはあなたです。その決断をしたのはあなたなのに、今さら『戻ってこい』とでも?」

「……」

「もう遅いのです、アルベルト殿下。私は、あなたのものではありません」

 私の強い言葉に、彼は沈黙するしかなかった。

 ――そして、その沈黙を破ったのは、聞き慣れた優雅な声だった。

「君の話はそれで終わりかい、兄上?」

 アルベルト殿下と私が同時に振り返ると、そこにはレオナード殿下が立っていた。

 彼は微笑んでいたが、その瞳の奥には明らかな怒りが宿っていた。

「……レオナード」

「兄上は、自分の都合でエレノア嬢を振り回すつもりかい?」

「違う。ただ、彼女には王太子妃としての――」

「君は本当に傲慢だね、兄上」

 レオナード殿下は、静かに言い放った。

「エレノア嬢はもう、君の婚約者ではない。彼女がどう生きるかは、彼女自身が決めることだ」

「だが――」

「いい加減にしたらどう?」

 私の言葉が、鋭く彼を切り裂いた。

「アルベルト殿下。私はもうあなたに振り回されるつもりはありません」

 私は、彼に背を向けた。

「あなたは私を捨てた。ならば、私があなたを選ぶ理由も、もうないのです」

「……エレノア」

 彼の呼ぶ声は、もはや私の心には届かなかった。

 そして、私はレオナード殿下の方へと歩み寄った。

「エレノア嬢、行こうか」

「……はい」

 私の手をそっと取ったレオナード殿下の手は、驚くほど暖かかった。





 それから数日後。

 アルベルト殿下の評判は悪化していた。

 リリア嬢との婚約は問題を抱えており、宮廷内でも彼の態度への不信感が広がっていた。

 一方で、私はというと――

「エレノア嬢、そろそろ答えを聞いてもいいかな?」

 レオナード殿下が、私の前に座りながら優しく微笑んでいた。

「……答え、ですか?」

「うん。僕は君を妃に迎えたいと本気で思っている。その気持ちは変わらないよ」

 彼の真剣な眼差しに、私は一瞬息を呑んだ。

 この人となら、きっと――

 そう思う自分がいた。

 だけど……。

「少しだけ、待っていただけますか?」

「もちろん」

 彼は優しく頷いた。

「君の気持ちが決まるまで、僕は待つよ」

 私は、そっと微笑んだ。

 レオナード殿下のもとへ行くことが、私にとって最良の選択なのか――

 もう少しだけ考えてみよう。

(だけど……心はすでに決まりつつあるのかもしれない)

 私は、そんな自分の気持ちを噛み締めながら、もう一度彼の優しい瞳を見つめたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です

唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に 「王国の半分」を要求したら、 ゴミみたいな土地を押し付けられた。 ならば――関所を作りまくって 王子を経済的に詰ませることにした。 支配目当ての女王による、 愛なき(?)完全勝利の記録。

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

婚約破棄されて追放寸前だったのに、なぜか冷徹なはずの氷の公爵様から世界で一番甘く愛されています。

黒崎隼人
ファンタジー
「リゼット・フォン・ヴァインベルク! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」 卒業パーティーの夜、公爵令嬢リゼットは婚約者の王太子から冤罪を突きつけられ、全てを失った。 絶望の淵に沈む彼女に手を差し伸べたのは、『氷の公爵』と噂される冷徹な美青年、キリアン・アシュフォード。 「ならば、俺が君を娶ろう」 彼の屋敷で始まったのは、戸惑うほどに甘い溺愛の日々。 不器用な優しさに触れるうち、凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 一方、リゼットを陥れた偽りの聖女は王宮で増長し、国に災いを招き寄せていた。 やがて真実が暴かれる時、元婚約者は後悔の涙を流すけれど――もう、遅い。 これは、不遇の令嬢が本当の愛を見つけ、世界で一番幸せになるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるような溺愛があなたを待っています。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...