婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか第二王子に溺愛されています

ほーみ

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 ――あれから数日が経った。

 アルベルト殿下とリリア嬢の婚約問題はますます大きな波紋を呼び、宮廷の貴族たちの間では彼の信用が揺らぎ始めていた。

「リリア嬢は最近、宮廷の社交界に顔を出していないらしいわ」
「殿下とも距離を取っているそうよ」
「そもそも、どうしてエレノア嬢との婚約を破棄してまで、あの娘を選んだのかしら?」

 そんな噂が宮廷のあちこちで飛び交っているのを、私はどこか他人事のように聞いていた。

 ――私はもう、アルベルト殿下に関わるつもりはない。

 けれど、それと同時に、彼がこれからどうなるのかを見届けたいという気持ちがほんの少しだけ残っていた。

 彼は、これからどうするつもりなのだろうか?

 ――そんなことを考えていたある日のこと。

「エレノア嬢」

 私は、廊下でレオナード殿下に呼び止められた。

「殿下。どうなさいましたか?」

「少し話がある。ここでは何だから、僕の執務室へ来てもらえるかな?」

「……はい」

 レオナード殿下の表情はいつもと変わらず穏やかだったが、どこか含みのある雰囲気を感じた。

 私は彼の後について歩きながら、ほんの少しだけ緊張する。

(何の話だろう……)

 やがて、執務室へと通され、私はソファに腰を下ろした。

「エレノア嬢、君に伝えておきたいことがあるんだ」

 彼は私の前に座り、真剣な眼差しを向けた。

「兄上――アルベルト殿下が、正式にリリア嬢との婚約解消を考えているらしい」

「……え?」

 思わず、聞き返してしまった。

「本当なのですか?」

「噂ではなく、確かな情報だよ。兄上の側近から直接聞いた」

 私は唇をかみしめた。

(……やはり、そうなるのですね)

 アルベルト殿下の態度を見ていれば、いずれそうなるだろうと予想はしていた。

 けれど、それが現実になろうとしていると知ると、複雑な気持ちになる。

「……私には関係のないことです」

 私は静かに言った。

 アルベルト殿下が何をしようと、もう私には関係ない。

 なのに――

 レオナード殿下の表情は、どこか険しかった。

「エレノア嬢。兄上は、君ともう一度話をしたいと言っている」

「……何を話すつもりなのでしょう?」

「『やり直せないか』と聞きたいんだろうね」

「……」

 やはり。

 私は静かに目を閉じ、ため息をついた。

「エレノア嬢」

「はい」

「僕は、君がどんな決断をしても尊重する。だけど……」

 彼の声が、わずかに低くなる。

「僕としては、君が再び兄上に振り回されるのは見たくない」

 私は目を見開いた。

 レオナード殿下の表情は、いつもの穏やかさを保っていたが、瞳の奥には強い感情が宿っていた。

「エレノア嬢。君はもう、過去に縛られる必要はないんだ」

「……」

「兄上がどう言おうと、君の人生は君のものだ。君が何を選ぼうと、それは君の自由だ。でも、もし君が困ったときは――」

 彼はそっと私の手を取った。

「僕がそばにいる」

「……っ」

 レオナード殿下の手の温もりが、私の指先からゆっくりと伝わってくる。

 彼の言葉は、私の心の奥底まで響いた。

(私は、何を望んでいるのだろう……)

 アルベルト殿下の言葉を聞くべきか。
 それとも、すべてを断ち切るべきか。

 ――答えは、まだ出ない。

 けれど、ひとつだけ確かなことがある。

 私は、もう過去には戻らない。

 レオナード殿下の手をそっと握り返しながら、私は静かに微笑んだ。

「ありがとうございます、殿下」

 彼も、優しく微笑み返してくれた。

(私は……もう、自分の未来を決めなくてはならない)

 その答えを出す日は、もうすぐそこまで来ていた。
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