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秘書官ルシア
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「秘書官殿。こちら、報告書です。」
魔王の執務室に入るのが怖いからなのか、ルシアが歩いているとどこからともなくやや緊張気味の高級官僚が声をかけてくる。
「ありがとう。」
ルシアは渡された書類を笑顔で受け取った。目の前の官僚の制服は黄色。財務官僚なのか。
アズランが魔王に就任してから、魔王城の使用人は一律に制服を着用する事になった。
所属が制服の色で、位が腕の線で一目瞭然にわかるから便利だ。
ちなみにルシアの制服は黒。アズランの制服と同じ色で魔王直属の証なのだそうだ。黒色の制服を着ているのははアズランとルシアだけだ。
ただ同じ形でもスラリと背の高いアズランの制服姿はかっこいいのに、ルシアの制服はすこしダサい気がする。
それに相手の所属と名前、プロフィールまで一目瞭然の超便利機能搭載の眼鏡をかけているので、それがルシアのダサさに拍車をかけている気がする。
でも、ルシアはアズランとおそろいの制服を着られることに満足していた。
同じ色の制服はアズランについていこうと毎日努力してきた証のように思えて愛おしい。
それに黒はアズランの髪と瞳の色でもあるのだ。魔王アズランに秘かに想いを寄せるルシアにとってはこの制服に袖を通すのが幸せでたまらない。
ルシアは官僚達から次々に渡される書類の束を抱えながら、執務室に戻ろうとした。
その時、不意に目の前の官僚から、緊張した面持ちで声をかけられた。
「あの、魔王様が結婚されると聞いたんですが……。」
官僚は真剣な面持ちでルシアに話しかけた。とても適当な事を言っているようには見えない。
「えっ。」
だが、アズランが結婚。寝耳に水だった。
その官僚に詳しい情報を聞こうとしたが、用事があるのか。別の官僚達がその官僚を連れ出していってしまっていた。
遠ざかる彼らを見ながら、ルシアは呆然とした。
アズランが結婚。そんな話知らない。誰といつ、どこで知り合ったのか。
生まれた時からずっと一緒でアズランと一日のほぼ全てを一緒に過ごす、自分の知らないアズランがいるなんて。
ショックだった。
アズランの全てを知っているつもりでいたのに、結婚するなんて大切なことを全く知らされていないなんて。
しかも、相手が誰なのか想像すらつかなかった。
いつだ。いつの間にそんな相手が出来たのか。朝から晩まで眠るときすら一緒にいるのに気付かないなんて。
あのアズランが結婚するくらいだ。きっとハイスペックな魔界貴族令嬢なのだろう。俺とは大違いの……。
ルシアは足元からガラガラと崩れて行くような絶望を感じた。
ルシアとアズランは物心ついた時からずっと一緒だった。
自分より少しだけ大きなアズランがルシアの憧れだった。どんな時でもルシアを助けてくれた優しいアズラン。
その憧れがほのかな恋心に変わるのは時間の問題だった。
ルシアは淫魔とはいえ男性体だし、高位魔族であるアズランが底辺淫魔を相手にすることは考えられなかった。
だから。
ルシアはアズランと共にあゆむために、座学を学んだ。体力では劣る自分がこの先出世していくであろうアズランについていくにはそれしかなかった。
友人だ。友人としてアズランについていく。だから、男らしく魅せたくて、僕から俺に変えた。
筋肉がつかなくて貧弱な身体を誤魔化すように少し大きめの服で歩く。
淫魔であることも魅せたくなかった。普通の魔族の友人としてアズランと共に過ごしたかったから。
だから、アズランに身をまかせたくなる衝動に堪えながら、友人として何食わぬ顔をして過ごしていたのに……。
握りしめた掌から一筋の血が滲んだ。
魔王の執務室に入るのが怖いからなのか、ルシアが歩いているとどこからともなくやや緊張気味の高級官僚が声をかけてくる。
「ありがとう。」
ルシアは渡された書類を笑顔で受け取った。目の前の官僚の制服は黄色。財務官僚なのか。
アズランが魔王に就任してから、魔王城の使用人は一律に制服を着用する事になった。
所属が制服の色で、位が腕の線で一目瞭然にわかるから便利だ。
ちなみにルシアの制服は黒。アズランの制服と同じ色で魔王直属の証なのだそうだ。黒色の制服を着ているのははアズランとルシアだけだ。
ただ同じ形でもスラリと背の高いアズランの制服姿はかっこいいのに、ルシアの制服はすこしダサい気がする。
それに相手の所属と名前、プロフィールまで一目瞭然の超便利機能搭載の眼鏡をかけているので、それがルシアのダサさに拍車をかけている気がする。
でも、ルシアはアズランとおそろいの制服を着られることに満足していた。
同じ色の制服はアズランについていこうと毎日努力してきた証のように思えて愛おしい。
それに黒はアズランの髪と瞳の色でもあるのだ。魔王アズランに秘かに想いを寄せるルシアにとってはこの制服に袖を通すのが幸せでたまらない。
ルシアは官僚達から次々に渡される書類の束を抱えながら、執務室に戻ろうとした。
その時、不意に目の前の官僚から、緊張した面持ちで声をかけられた。
「あの、魔王様が結婚されると聞いたんですが……。」
官僚は真剣な面持ちでルシアに話しかけた。とても適当な事を言っているようには見えない。
「えっ。」
だが、アズランが結婚。寝耳に水だった。
その官僚に詳しい情報を聞こうとしたが、用事があるのか。別の官僚達がその官僚を連れ出していってしまっていた。
遠ざかる彼らを見ながら、ルシアは呆然とした。
アズランが結婚。そんな話知らない。誰といつ、どこで知り合ったのか。
生まれた時からずっと一緒でアズランと一日のほぼ全てを一緒に過ごす、自分の知らないアズランがいるなんて。
ショックだった。
アズランの全てを知っているつもりでいたのに、結婚するなんて大切なことを全く知らされていないなんて。
しかも、相手が誰なのか想像すらつかなかった。
いつだ。いつの間にそんな相手が出来たのか。朝から晩まで眠るときすら一緒にいるのに気付かないなんて。
あのアズランが結婚するくらいだ。きっとハイスペックな魔界貴族令嬢なのだろう。俺とは大違いの……。
ルシアは足元からガラガラと崩れて行くような絶望を感じた。
ルシアとアズランは物心ついた時からずっと一緒だった。
自分より少しだけ大きなアズランがルシアの憧れだった。どんな時でもルシアを助けてくれた優しいアズラン。
その憧れがほのかな恋心に変わるのは時間の問題だった。
ルシアは淫魔とはいえ男性体だし、高位魔族であるアズランが底辺淫魔を相手にすることは考えられなかった。
だから。
ルシアはアズランと共にあゆむために、座学を学んだ。体力では劣る自分がこの先出世していくであろうアズランについていくにはそれしかなかった。
友人だ。友人としてアズランについていく。だから、男らしく魅せたくて、僕から俺に変えた。
筋肉がつかなくて貧弱な身体を誤魔化すように少し大きめの服で歩く。
淫魔であることも魅せたくなかった。普通の魔族の友人としてアズランと共に過ごしたかったから。
だから、アズランに身をまかせたくなる衝動に堪えながら、友人として何食わぬ顔をして過ごしていたのに……。
握りしめた掌から一筋の血が滲んだ。
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