【9話完結】魔王の幼馴染

降魔 鬼灯

文字の大きさ
2 / 9

秘書官ルシア

しおりを挟む
「秘書官殿。こちら、報告書です。」

 魔王の執務室に入るのが怖いからなのか、ルシアが歩いているとどこからともなくやや緊張気味の高級官僚が声をかけてくる。

「ありがとう。」
 
 ルシアは渡された書類を笑顔で受け取った。目の前の官僚の制服は黄色。財務官僚なのか。

 アズランが魔王に就任してから、魔王城の使用人は一律に制服を着用する事になった。
 所属が制服の色で、位が腕の線で一目瞭然にわかるから便利だ。


 ちなみにルシアの制服は黒。アズランの制服と同じ色で魔王直属の証なのだそうだ。黒色の制服を着ているのははアズランとルシアだけだ。

 ただ同じ形でもスラリと背の高いアズランの制服姿はかっこいいのに、ルシアの制服はすこしダサい気がする。
 それに相手の所属と名前、プロフィールまで一目瞭然の超便利機能搭載の眼鏡をかけているので、それがルシアのダサさに拍車をかけている気がする。
 

 でも、ルシアはアズランとおそろいの制服を着られることに満足していた。

 同じ色の制服はアズランについていこうと毎日努力してきた証のように思えて愛おしい。

 それに黒はアズランの髪と瞳の色でもあるのだ。魔王アズランに秘かに想いを寄せるルシアにとってはこの制服に袖を通すのが幸せでたまらない。

 ルシアは官僚達から次々に渡される書類の束を抱えながら、執務室に戻ろうとした。



 その時、不意に目の前の官僚から、緊張した面持ちで声をかけられた。

「あの、魔王様が結婚されると聞いたんですが……。」

 官僚は真剣な面持ちでルシアに話しかけた。とても適当な事を言っているようには見えない。

「えっ。」

 だが、アズランが結婚。寝耳に水だった。

 その官僚に詳しい情報を聞こうとしたが、用事があるのか。別の官僚達がその官僚を連れ出していってしまっていた。
 
 遠ざかる彼らを見ながら、ルシアは呆然とした。

 アズランが結婚。そんな話知らない。誰といつ、どこで知り合ったのか。

 生まれた時からずっと一緒でアズランと一日のほぼ全てを一緒に過ごす、自分の知らないアズランがいるなんて。
 ショックだった。

 アズランの全てを知っているつもりでいたのに、結婚するなんて大切なことを全く知らされていないなんて。
 しかも、相手が誰なのか想像すらつかなかった。

 いつだ。いつの間にそんな相手が出来たのか。朝から晩まで眠るときすら一緒にいるのに気付かないなんて。

 あのアズランが結婚するくらいだ。きっとハイスペックな魔界貴族令嬢なのだろう。俺とは大違いの……。

 ルシアは足元からガラガラと崩れて行くような絶望を感じた。


 ルシアとアズランは物心ついた時からずっと一緒だった。
 自分より少しだけ大きなアズランがルシアの憧れだった。どんな時でもルシアを助けてくれた優しいアズラン。

 その憧れがほのかな恋心に変わるのは時間の問題だった。
 ルシアは淫魔とはいえ男性体だし、高位魔族であるアズランが底辺淫魔を相手にすることは考えられなかった。

 だから。

 ルシアはアズランと共にあゆむために、座学を学んだ。体力では劣る自分がこの先出世していくであろうアズランについていくにはそれしかなかった。

 友人だ。友人としてアズランについていく。だから、男らしく魅せたくて、僕から俺に変えた。

 筋肉がつかなくて貧弱な身体を誤魔化すように少し大きめの服で歩く。

 淫魔であることも魅せたくなかった。普通の魔族の友人としてアズランと共に過ごしたかったから。

 だから、アズランに身をまかせたくなる衝動に堪えながら、友人として何食わぬ顔をして過ごしていたのに……。

 握りしめた掌から一筋の血が滲んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

恋と脅しは使いよう

makase
BL
恋に破れ、やけ酒の末酔いつぶれた賢一。気が付けば酔っぱらいの戯言を弱みとして握られてしまう……

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

処理中です...