【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯

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 ピアノに触れる時以上に優しい指遣いに悠理はあやうく愛されてるのではないかと勘違いしてしまいそうになる。

 初めて触れられるのに、全てを既に知られているかのような不思議な心地よさに酔っていた。

 オメガにとって格上のアルファに愛されて番になることが幸せって聞いたことがあるけど、蕩けてしまいそうな快楽と例えようのないくらい心地よさに幸せを感じて、悠理はふにゃりと笑ってしまった。

 ずっとずっとこのまま愛されていたい。そんな夢見心地の悠理に司が優しく囁く。

「ずっと好きだった。コンクールに優勝出来たら結婚してくれるって約束覚えている?結婚しようね。」

 そんな約束していない、司は誰と間違えてるんだ?悠理は冷水を浴びせられたかのような衝撃に現実に引き戻された。

 オメガのヒートに巻き込まれてラットをおこしたアルファの中には相手のオメガを番のオメガと誤認して事に及んでしまうケースもあると聞く。

 司は悠理を先程の美少女と誤認しているんじゃないか。だって、コンクールに司が優勝したら結婚するなんて、優勝に人生を賭けていた悠理が約束する訳が無い。
 ふわふわと真綿にくるまれるような多幸感に浸っていた悠理に水を浴びせられたような現実が襲いかかる。

 悠理の幸せはいつだって手に入りそうな瞬間に霧散する。悠理の脳裏に現実が襲いかかってきた。このあと我に返った司にどんな顔されるんだろう。
 薔薇の花びらが敷き詰められたベット。これを見る限り悠理は司のプロポーズを邪魔したので間違いない。

 いや、悠理は最期にちゃんとピアノと司に別れを告げ、ここから去ろうとした。それを引き止めたのは司自身だ。

 どうせ、がっかりされるなら、トコトン共に堕ちてやろうではないか。悠理は冷静になった頭で策を練る。オメガの初めてなんて慰謝料が貰えるほどの価値はないだろう。
 どうやったら、慰謝料を搾り取れるだろう。
 
 ベットの上、脱ぎ散らかされた服のポケットからボールペンを探り出した悠理は録音ボタンを押した。

 良い演奏を聞いたら録音するためにいつも携帯しているボールペンをこんな姑息な事に使うなんて堕ちたものだなと悠理は自嘲した。
 先程、司の言っていた嫌われて憎まれる方が良いというセリフが身にしみた。

 司は自分をまだ想い人と誤認しているのだろう。沈黙を貫く悠理を不安げに見つめている。微笑みかけてやると、途端に嬉しそうに破顔した。
 司の幸せそうな表情にもやもやしながら、その顔を包み込む。

「司、一生幸せにしてくれる?」

 誤認している司が嬉しそうに頷く。

「ああ、一生幸せにすると誓う。」

 誤認していようが、この音声データは一生使える。次々に畳み掛けるように司に確認していく。

「他の人に触れられないように、一生司だけのものにしてくれる?」

 娼館に行きたくない。こんな心と身体の奥深くまで触れ合うような行為、司以外としたくない。なんとしても、この言質は取っておきたかった。

「もちろんだ。決して他の誰にも触れさせないと誓うよ。」

 即答か。司の先程までの美少女への愛が強すぎてモヤモヤする。いや、こうなったらもっと条件をつけてやろう。彼女を優先してこちらをないがしろにするのは目に見えている。

「発情期には必ず初めから終わるまで付き合ってくれる?」

 悠理は発情期を迎えるのは初めてだが、アルファがいなければオメガの発情期はきついらしい。後で無視できないよう条件に組み込む。

「経済的に困らないようにしてくれる?」

 もう、貧乏は嫌だ。

「普段もいつも側にいて欲しい。」
 
 一人ぼっちも嫌なんだ。側にいて欲しい。

「また一緒にピアノを弾きたい。」

 楽しかったんだ。また、一緒に弾きたい。

 気がつくと悠理は心の奥底に眠っていた今までの想いを思い付くままに口に出していた。
 意識の混濁から戻った司が叶えてくれるわけないだろうとわかっている。
 しかし、音声データは残る。思い付く限りの条件を呑ませた悠理は、司にうなじを差し出した。

「司、噛みたい?さっきまでのお願い叶えてくれるなら番にしても良いよ。」

 そう、番にしても良い。悠理は番にしてとは言ってない。選ぶのは司自身だ。

 ゴクリとツバを飲み込んだ司はためらうことなく悠理の白いうなじを噛んだ。

 痛いだろうなと覚悟していたそれは、甘美で背筋をぞくぞくと突き抜ける快感に悠理は我を忘れて溺れていく。
 音声データと一生消えない番契約。これで我に返った司は悠理と別れるために莫大な慰謝料を払わねばならない。
 番契約は婚姻よりはるかに重いのだ。

 そう簡単に別れてなどやるものか。一生付きまとってやる。

 司を嵌めた事で悠理の心の奥底に昏い悦びを溢れさせていた。
 

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