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11.再襲来と別れ
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「そう言えば、コールちゃんは? 彼女も、ファーメリーを連れていないようだけど」
ジーンがふと気付いて、尋ねる。
視線を向けると、コールは目を閉じて、こっくりこっくりしていた。僕たちが話に夢中になっている間に、座り込んで眠ってしまったようだ。隣ではギルバートも、赤い顔をして眠りこけている。
「えーと、コールは……」
僕は彼女と出会った経緯を、掻い摘んで話した。といっても、僕にも分からないことだらけだから、詳しくは説明できないが。
「記憶喪失とは、気の毒に」
ジーンは、コールに同情の目を向ける。僕も途方に暮れて、コールを見下ろした。
「僕はさ、この子はダイア村で行方不明になっている女の子じゃないかなーと思うんだ」
僕の名前の書かれたプレートを持っていた件は、確かに気になる。コールがなぜ、僕を捜していたのかも。
でもそれは、コールの記憶が戻れば、あるいはコールを知っている人に出会えれば、分かることじゃないかと思う。
だから、あまり深く考えなかった。
「ファーメリーと喧嘩して、家出をしたという子だね」
「うん。覚えていないだろうから、聞けないんだけど、どうしてファーメリーと喧嘩なんてしたんだろうね」
僕はコールを、じっと見つめた。
「僕、自分のファーメリーと会ったこともないから、分からないんだよ。何で、大事な相棒なのに、世界で一人だけの大切な存在なのに、酷い扱いをするんだろうって」
ジーンは眉を顰める。少し、悲痛な表情だった。
「人には、人それぞれの事情がある。君は、ファーメリーと共にいられない日々に寂しさを感じているのだろう。でも逆に、彼女はファーメリーと共にいることに、煩しさを感じてしまったのかもしれない」
「そういうものかな。……ジーンも、ファーメリーと一緒にいた時に、そんな風に思ったことがある?」
「そうだね。ないといえば、嘘になる」
ジーンは哀愁を漂わせ、目を伏せた。否定をしないところから察するに、きっとあるんだろう。
「僕だったら、絶対に喧嘩なんてしないのに。もっとファーメリーを大事にして、幸せにしてあげるのに」
「……そうだね、君のようなパートナーがいれば、ファーメリーも幸せになれただろうね」
ジーンは寂しそうに笑った。
どうしてそんなに、寂しそうなのか。
聞きたかったけれど、聞けなかった。
ひょっとしたら、ジーンも自分のファーメリーを失った日のことを、思い出していたのかもしれない。
「でもね、ディース。彼女がどんな素性や過去を抱えているにしても、今はそれを失ってしまっている。そんな時に出会った、助けてくれた、君だけが全てなんじゃないだろうか。きっと彼女は、君の存在を必要としている。だから、彼女がいくら、君には理解できない考えを持っていたとしても、それを責めずに、守ってあげなくちゃ駄目だよ」
僕はジーンとコールを交互に見た。
確かに、その通りだ。
ジーンに言われると、とても説得力がある。
今のコールには、僕しか頼れる人間がいないのだから。
きっと、ボーっとしていても、心細いに決まっている。
こんな風に、コールの考えを否定して、悪く言っちゃいけないな。
「ありがとう、ジーン。僕、自分のことばっかり考えてたみたいだ」
僕のことを必要してくれる子がいる。
だったら、その子のために精一杯頑張ればいいじゃないか。
僕が気持ちを切り替えたのを見て、ジーンは笑った。
そして、意を決したように唐突に言った。
「ディース。その、もしよかったら、この仕事を終えた後、僕と一緒に来ないか?」
「え……」
僕は驚いて、ジーンを見た。
茶色い宝石みたいな瞳は、真剣そのものだった。
「でも、僕なんか……、足手まといだよ、きっと」
「そんなことはない! 僕は君に命を救われた。……本音を言えば、一人旅は少し心細かったんだ。こんな生活をしていると、さっきのようにジョーカーに目を付けられるかもしれないから、人目を避けての移動も多いし。君と一緒なら、少しは旅も楽しくなるんじゃないかと……」
ジーンは、一気にまくし立てた。言葉数が少なく、大人びている印象のあったジーンが、こんなにも饒舌に話すなんて、少し驚きだった。
だが、途中でハッと我に返り、ジーンは俯いた。
「すまない、いきなり言われても、迷惑だったね。忘れてくれ、今の話は」
「ジーン、僕……」
僕が自分の気持ちを伝えようとした、その時。
「見つけたぞ、ジィィィィーン!!」
激しい怒声が辺りを包む。コールが驚いて飛び起きた。
「なっ!?」
「ちっ、見つかったか!」
ジーンは舌打ちし、両手にナイフを構えた。
直後、頭上から影が落ちてくる!
ギィィィィン!
刃物と刃物が強烈にぶつかり合う音。
空から落ちてきたのは、赤い衣装に身を包んだ、夜叉のような女。
ジョーカーだ。
「僕がくい止める、君たちは早く逃げろ!」
ジョーカーの鋭い一刀を、クロスさせた二本のナイフで受け止めたジーン。
しかし、その衝撃で地面に膝を突き、身体を震わせる。
「で、でも、ジーン!」
一人じゃ無理だ。やられてしまう。
しかし、さっきのように僕が助けに入る隙は、もうなかった。
「君はコールちゃんを守らないといけない。早く行け!」
僕はその怒号とともに、コールの手を引いて駆けだしていた。
僕にはそうすることしかできないのだ。
ジーンの善意に答えるためにも、コールを安全な場所へ連れていくためにも。
後ろを振り返ることなく、ただまっすぐに。
ジーンがふと気付いて、尋ねる。
視線を向けると、コールは目を閉じて、こっくりこっくりしていた。僕たちが話に夢中になっている間に、座り込んで眠ってしまったようだ。隣ではギルバートも、赤い顔をして眠りこけている。
「えーと、コールは……」
僕は彼女と出会った経緯を、掻い摘んで話した。といっても、僕にも分からないことだらけだから、詳しくは説明できないが。
「記憶喪失とは、気の毒に」
ジーンは、コールに同情の目を向ける。僕も途方に暮れて、コールを見下ろした。
「僕はさ、この子はダイア村で行方不明になっている女の子じゃないかなーと思うんだ」
僕の名前の書かれたプレートを持っていた件は、確かに気になる。コールがなぜ、僕を捜していたのかも。
でもそれは、コールの記憶が戻れば、あるいはコールを知っている人に出会えれば、分かることじゃないかと思う。
だから、あまり深く考えなかった。
「ファーメリーと喧嘩して、家出をしたという子だね」
「うん。覚えていないだろうから、聞けないんだけど、どうしてファーメリーと喧嘩なんてしたんだろうね」
僕はコールを、じっと見つめた。
「僕、自分のファーメリーと会ったこともないから、分からないんだよ。何で、大事な相棒なのに、世界で一人だけの大切な存在なのに、酷い扱いをするんだろうって」
ジーンは眉を顰める。少し、悲痛な表情だった。
「人には、人それぞれの事情がある。君は、ファーメリーと共にいられない日々に寂しさを感じているのだろう。でも逆に、彼女はファーメリーと共にいることに、煩しさを感じてしまったのかもしれない」
「そういうものかな。……ジーンも、ファーメリーと一緒にいた時に、そんな風に思ったことがある?」
「そうだね。ないといえば、嘘になる」
ジーンは哀愁を漂わせ、目を伏せた。否定をしないところから察するに、きっとあるんだろう。
「僕だったら、絶対に喧嘩なんてしないのに。もっとファーメリーを大事にして、幸せにしてあげるのに」
「……そうだね、君のようなパートナーがいれば、ファーメリーも幸せになれただろうね」
ジーンは寂しそうに笑った。
どうしてそんなに、寂しそうなのか。
聞きたかったけれど、聞けなかった。
ひょっとしたら、ジーンも自分のファーメリーを失った日のことを、思い出していたのかもしれない。
「でもね、ディース。彼女がどんな素性や過去を抱えているにしても、今はそれを失ってしまっている。そんな時に出会った、助けてくれた、君だけが全てなんじゃないだろうか。きっと彼女は、君の存在を必要としている。だから、彼女がいくら、君には理解できない考えを持っていたとしても、それを責めずに、守ってあげなくちゃ駄目だよ」
僕はジーンとコールを交互に見た。
確かに、その通りだ。
ジーンに言われると、とても説得力がある。
今のコールには、僕しか頼れる人間がいないのだから。
きっと、ボーっとしていても、心細いに決まっている。
こんな風に、コールの考えを否定して、悪く言っちゃいけないな。
「ありがとう、ジーン。僕、自分のことばっかり考えてたみたいだ」
僕のことを必要してくれる子がいる。
だったら、その子のために精一杯頑張ればいいじゃないか。
僕が気持ちを切り替えたのを見て、ジーンは笑った。
そして、意を決したように唐突に言った。
「ディース。その、もしよかったら、この仕事を終えた後、僕と一緒に来ないか?」
「え……」
僕は驚いて、ジーンを見た。
茶色い宝石みたいな瞳は、真剣そのものだった。
「でも、僕なんか……、足手まといだよ、きっと」
「そんなことはない! 僕は君に命を救われた。……本音を言えば、一人旅は少し心細かったんだ。こんな生活をしていると、さっきのようにジョーカーに目を付けられるかもしれないから、人目を避けての移動も多いし。君と一緒なら、少しは旅も楽しくなるんじゃないかと……」
ジーンは、一気にまくし立てた。言葉数が少なく、大人びている印象のあったジーンが、こんなにも饒舌に話すなんて、少し驚きだった。
だが、途中でハッと我に返り、ジーンは俯いた。
「すまない、いきなり言われても、迷惑だったね。忘れてくれ、今の話は」
「ジーン、僕……」
僕が自分の気持ちを伝えようとした、その時。
「見つけたぞ、ジィィィィーン!!」
激しい怒声が辺りを包む。コールが驚いて飛び起きた。
「なっ!?」
「ちっ、見つかったか!」
ジーンは舌打ちし、両手にナイフを構えた。
直後、頭上から影が落ちてくる!
ギィィィィン!
刃物と刃物が強烈にぶつかり合う音。
空から落ちてきたのは、赤い衣装に身を包んだ、夜叉のような女。
ジョーカーだ。
「僕がくい止める、君たちは早く逃げろ!」
ジョーカーの鋭い一刀を、クロスさせた二本のナイフで受け止めたジーン。
しかし、その衝撃で地面に膝を突き、身体を震わせる。
「で、でも、ジーン!」
一人じゃ無理だ。やられてしまう。
しかし、さっきのように僕が助けに入る隙は、もうなかった。
「君はコールちゃんを守らないといけない。早く行け!」
僕はその怒号とともに、コールの手を引いて駆けだしていた。
僕にはそうすることしかできないのだ。
ジーンの善意に答えるためにも、コールを安全な場所へ連れていくためにも。
後ろを振り返ることなく、ただまっすぐに。
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