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月に住む君
しおりを挟むこれは、僕が体験した不思議な出来事の話。
長い夢でも見ていたんだろう、なんて一蹴できてしまうような突拍子もない話。
でも、それはきっと夢じゃなかったんだ。
「ゆうたくーん?そろそろ出かけたいんだけれどもー?」
一階から僕を呼ぶ声がする。
「あぁごめん!すぐ行くよー!」
きっと夢じゃなかった。
僕はそう、信じている。
大学のサークルの打ち上げで、飲めもしない酒を浴びるように飲んで
吐いて吐いて、帰途に就いた。
酔っているからだろう、地面がふわふわしていて視界がぐにゃっぐにゃしていて
とても気持ちが悪い。
また吐くかもしれない。
そう思って僕は道の端によって蛍光灯の下に座り込んだ。
地べたに座り込んだだけだが、ずいぶんと楽になったように感じた。
やはり酒はほどほどにしておくべきだった。
そう思いながら、空を見上げた。
雲一つない、満天の星空。
そこにずどんと浮かぶ大きな月。
まん丸い満月だ。
手を伸ばせば、届きそうな、そんな気がした。
”届くよ”
「え、、?」
声が聞こえたような気がした。
女性の、形容しがたい美しい声。
”手を伸ばしてみて?届くよ”
まただ。
美しい、透き通るような声。
「誰、なんだ、、?」
”ほら、ほらほら、いいから手を伸ばして?”
誰だかわからない、きっと酔いすぎて聞こえた幻聴なのだろうけども。
僕は、月に向かって手を伸ばした。
「え?」
「ほら、届いたでしょ!」
気づいたら僕は、月に触れていた。
というか、月の上にいた。
「え!?え、え!?えー!?」
理解が追い付かない。
何が起こっているのかわからない。
(月!?え!?宇宙!?空気ないじゃん、は!?息できてる?息止めなきゃ!!)
「落ち着いて、大丈夫だよ」
その声の主は、いつの間にか隣に立っていた。
蛍光灯の下に座り込んでいた時に聞こえた、あの声。
「ほら、息吸えるから、深呼吸して落ち着いて?」
そこにいたのは、透き通るような白い肌をした、美しい女性だった。
腰まである長い金髪、水色の瞳、純白のワンピース。
「き、きみは、?」
「んふふ、落ち着いた?」
聖母のように微笑んで、この世のすべての人間を虜にするような優し気な瞳で見つめてくる。
「大丈夫、もうしばらくすれば戻れるからさ。それまで私とおしゃべりしようよ」
「ここは一体、僕は道端に座ってたはずなんだけど」
「ふふ、知ってるよ。ゲロ吐きそうになりながら座り込んでたね」
ふふふ、と笑う。
「ここは月だよ。君が手を伸ばしたから、届いたんだ。君が届きそうだと感じたから、届いた」
「…届くわけないだろ、月になんか」
「でも君は届くと思った。そう信じた。そう願った。だから届いたんだ」
余りにも突拍子もない話に、僕は冷静さを取り戻しつつあった。
そうだ、きっと寝てしまったのだろう。
夢の中だ、これは。
「ふふ、夢でも現実でもいいじゃない。それよりほら、見てごらん」
彼女はそういうと、真上を指差した。
僕はつられて上を向く。
「うわぁ…すげぇ…」
そこには、彼女が指差す先には、青く輝く地球があった。
今まで見てきたどんな写真よりも綺麗で、鮮明で、大きくて。
言葉を失うほどに美しい、地球。
「夢でも現実でも、どっちでもいいって思えちゃうくらい素敵でしょ?」
「あぁ…、素敵ではある…」
どちらでもいいと思えちゃったら僕の精神衛生上よくないのでそう口に出したが。
言葉にできないほどそれは美しかった。
一生見ていられる、そんな風に思ってしまうほど見惚れた。
「そろそろ時間だね」
「、え?なんの?」
彼女は少し寂しそうに微笑んだ。
「君が帰る時間。またおいでよ、君が手を伸ばせば、きっとまた届くから」
「待って---」
次の瞬間、辺り一面が真っ白に輝き。
目を開けると、またあの蛍光灯の下にいた。
現実的に考えて、ありえない。
翌朝僕は二日酔いで捩じ切れそうな頭を抱えて大学に向かった。
「はぁ?夢に決まってんだろそんなの!」
決まってみな、そう言った。
わかっている、頭ではわかっているのだが。
「綺麗だったなぁ…」
月も、地球も、彼女も。
「疲れてんのかなぁ」
酔ってたしなぁ。
もやもやとした気持ちを抱え、午前の講義を受けた。
「あるんじゃねーの~、そんなこともさ」
「え、本気で言ってるんですか?」
バイト先の先輩は、至極本気の顔で続けた。
「世の中ってそーゆーもんじゃんか。理屈の通らないことなんていくらでもあるさ」
「い、いやでも、そんな次元の話じゃなくてですね、」
「要は、信じるか信じないか、って話じゃねーの?その子もそう言ってたんだろ?」
「先輩は、信じるんですか?」
「んー、自分の身に起きたら信じるだろうな。ほら、あとやっといてやっから、帰りな。もしかしたらまた、月に届くかもしんねえぞ?」
そう言うと先輩は僕のやっていた仕事を強引に奪ってやり始めた。
有無を言わせぬ形相とは?という問いに対するアンサーのような表情だ。
お礼だけ告げ、先輩の好意に甘えて僕はバイト先を後にした。
今日の夜空は少し曇っている。
もしかしたら明日、明後日あたりに雨が降るかもしれない、そんな空だ。
今日を逃したらしばらく月に触れる機会を失うかもしれない。
「って、いやいや、おかしいだろ。先輩はああ言ってくれたけど…」
それでもやはり、夢としか思えない。
昨日のことではあるが、もうまるで遠い過去のことかのような記憶の不安さがある。
嘘だ夢だと思い込みすぎてぼやけてしまったのかもしれない。
「はぁ…、君が手を伸ばせば、か…」
あの世界から戻ってくる際、彼女が言っていた。
きっとまた届く、と。
今日も月はそこにあって、昨日のことがあってなおのこと届きそうな、そんな雰囲気がある。
また、届くのだろうか。
今日は酔っていない。
気が付けば昨日の、あの蛍光灯のところに来ていた。
手を伸ばせば、また、届くのだろうか。
一度下を向いて自分の右手を見つめた。
信じて、そう言われたから。
右手に期待を載せて。
そして上を向く。
昨日よりは少し強めに、手を月に押し当てるように、背伸びをする要領で。
スッと、手を伸ばした。
「あっ」
一呼吸の隙もなく、また僕は月にいた。
あの場所、蛍光灯の下から手を伸ばして、あ、と言う間もなく降り立っていた。
言い終わるころには降り立っていた。
「やあ、また来たんだね」
彼女の声だ。
嬉しそうに微笑んで、後ろに手を組み、こちらを覗くように可愛らし気に体を傾けて。
昨日のワンピースに、昨日の金髪に、昨日の瞳。
やはり、夢じゃなかったんだ。
「そろそろ君が来てくれるんじゃないかなと、そう思っていたところだよ」
「わかる、ものなのか?」
僕が恐る恐るといった様子でそう言うと、「くふっ」と吹き出し顔を俯けた。
「わかるわけないじゃないか、ふふ、ははは、冗談、私にそんな超能力はないよ、はははは!」
いや、こんな超常的な場所にいてよくそんなことが言える。
全知全能の神ですと言われても疑うことはないだろう。
「いったい、ここは何なんだ?あなたは何者なんだ」
「そんなつまらないことを聞きに、わざわざ月にまでお越しくださったの?」
「お越しくださったわけじゃないよ。手を伸ばしたら、また来ていたんだ」
「じゃあ、わざわざ手を伸ばしてくださったのね」
皮肉交じりに、それでもそこに悪意はなくそう言うと、彼女は”地球を見上げるように地を仰いだ”。
「ここは月だよ。嘘じゃない、月の上。普通なら、当然だけど人が来れるような場所じゃない。私も君以外の人間に初めて会ったんだ、あれこれと聞かれてもなんでも答えられるわけじゃない。申し訳ないけれどね」
それを口にする横顔は寂し気で、儚げだ。
「たぶん、そろそろ時間だ。また来てよ、一人で、寂しいんだ」
あまりにもその立ち姿が弱々しくて、あぁきっと、本当なんだなと思った。
「また来るよ。信じるよ。なにせ、」
「手を伸ばすだ、け…」
世界が真っ白に輝いて数瞬、またあの蛍光灯の下にいた。
「話してる、途中だったんだけどな…」
僕は月を見上げるように空を仰いだ。
試しにまた月に手を伸ばしてみるが、今度は届かない。
ただ、きっと次の日になれば届く、と根拠もなく思った。
雨が降った。
前日から降りそうだなぁとは思っていたが、案の定、月明かりなんて期待できない雨雲が空に鎮座している。
「これじゃあ、月に触れない…」
今日は大学の講義もなく、バイトも休み、降雨のためサークルも休みと、ほとほと予定がなかった。
二度寝、三度寝と惰眠を貪り、流石に目がさえて起きてきた。
時刻は14時を少し回ったあたりか。
インスタントラーメンで適当に腹を満たし、することもなくまた布団に戻ってきた。
暇な時間を持て余すと、ついついいろいろと考えてしまう。
つまらないことを。
「まあ、彼女がつまらないと感じていただけで、僕はそう思わないけど」
そもそも、あの空間はいったい何なのか。
信じるといった手前、月であることは信じるけれども…。
滞在時間についても謎だ。
彼女はどのくらい居れるのか分かっている風だったが、前兆といえば直前の真っ白い世界だけ。
何分、とか、決まっているのだろうか。
…、疑問は増えるばかりで、決して解決はしなかった。
窓の外を眺めると、いつもよりモノトーンな町が広がっているばかり。
雨雲の向こうには、彼女がまたいるのだろうか。
また悲しげな顔で僕を待っていたりするのだろうか。
雨雲に手を伸ばしてみても、空を切るばかりであった。
翌日も昨日の雨雲が未練たらしく僕の町の空にしがみつくもので、ようやく太陽を拝むことができたのは翌々日のことだ。
彼女に会いに行きたい衝動をこらえ、講義とバイトを済ませ、いつもの蛍光灯の所へ来ていた。
別に場所に指定があるわけではないと思うが、何となくこの場所から会いに行かなければならないような気がしてしまう。
今日は満天の星空。
雨が降って空気が澄んでいるからか、月が余計に綺麗に見える。
なんだか少しずつ遠くなっているような気がしなくもないが、些細なことだ。
僕はまた、手を伸ばした。
「また、来てくれたんだね。君はもしかして暇なのかな」
ニヤニヤとしながら、それでも下品ではなく、悪意もない表情。
そこに彼女はいた。
2日前と変わらない姿で。
「あなたが寂しいというから来たんじゃないか」
「ふふ、寂しいといえばいつでも駆けつけてきてくれるなんて、王子様のようだね、ふふふ」
真っ白いワンピースを翻し微笑む姿は、お姫様のようだ。
「釣り合わないよ、柄でもキャラでもない。僕は召使がいいところだよ」
「君はスーパームーンって、知っているかい?」
「と、唐突だな…。わからない、けどそれがなに?」
スーパーマン的な奴か、?
「いや、知らないならいい、面白い話でもないし。そろそろ時間かな~」
「なぁ、その時間っていうのはどうやったらわかるんだ?どのくらい居られるんだ?僕は」
聞くと彼女は「うーん、」と唸って呟いた。
「また今度来た時に教えてあげるね、バイバイ」
「待って!」
彼女がにこりと笑うと、世界は白く輝いて…。
それから一週間と数日、毎日彼女に会いに行った。
いられるのはほんの数分、まともに話もできないくらいの時間ではあったが、
行くたびに彼女が「また来てくれたんだね」とほほ笑んでくれる。
その姿が僕を月に通わせた。
あの笑顔が見れるなら、夜の数分なんて惜しくもなんともない。
彼女が喜ぶような面白い話も大して持っていないけれど、せめて寂しさだけでも埋めてあげられたら、そんな風に思っていた。
そんな日々が、このまま続いてくれると、そう思っていた。
今日も、いつもと同じように蛍光灯の下に来ていた。
初めて月に触れたときは、大きな満月だったが、今はもう4分の1ほどに欠けてしまっている。
それはそれで美しくはあるが、なんとも儚げで、なんだか切なかった。
いつものように、スッと手を伸ばした。
「今日も、来てくれたんだね…」
月に降り立つと、いつものように彼女が迎えてくれた。
ただ、いつもと雰囲気が違う。
重たい、何か重大な何かがあるような、そんな雰囲気。
「なにか、あったの?」
彼女は目に見えて表情を曇らせた。
「…」
「よそよそしいなぁ、僕にできることなんてないだろけど、話くらいは聞かせておくれよ」
流石に連日通いすぎてウザがられたのだろうか。
それにしたって、昨日まであんなに元気だったのに…。
彼女はしばらく悩んで、曇った表情を俯かせ、雨でも降るんじゃないかという雰囲気で口を開いた。
「…もう、ここには来ないほうがいい…」
それを口にした彼女の表情は、とても苦しそうで。
いやなものを無理やりに飲み込んだような、そんな顔をしていた。
「え、いや、そんな急に言われても、寂しいじゃないか…。毎日来るのがうざかったのなら、減らすからさ…」
「ふふ、君は寂しがり屋だものね」
ふふふ、と笑うが、それは僕が知っているいつもの笑顔じゃなかった。
胸が張り裂けるような別れの切なさをはらんだ、寂し気な笑顔。
そしてこう続けた。
「消えてしまうんだ、もうすぐ」
「え?」
そこで、世界は明転、白く輝いて。
蛍光灯の下。
「消えてしまう…?消えてしまうってなんだ…?」
月から帰ってきた後、僕は別れ際の彼女の言葉がこびりついてその場から動けなかった。
彼女が消えてしまう、ということか?
それともあの空間自体が?
どういうことなのだろうか。
あの見ているだけで胸が張り裂けそうになる悲しい表情は、その胸の内は、いったい何を考えているのだろうか。
それを推し量るには、あまりに時間がなかった。
今日はいつもより月にいた時間も短かったように感じる。
消えて、しまうのだろうか。
なぜ…?
しばらくその場で考えていたが、結局答えが出るはずもなく、僕はのこのこと家に帰った。
あの後、家に帰ってもなかなか寝付けず、翌朝もそわそわとして落ち着かず。
彼女のあの発言のことが気になって、何も手につかなかった。
大学の講義も適当に切り上げて、まだ夕日も残る、夜というには早い時間だがあの場所に来ていた。
家にいても大学にいても落ち着かないし、余計なことばかり考えてしまう。
とにかく、彼女に真意を聞きたかった。
蛍光灯の下に座って、月が出るのを待った。
”もう、来ないほうがいいよ…”
彼女の声だ。
初めて月に触れたときに聞こえた、あの声。
夕日が沈み、辺りは薄暗くなってきていた。
月は、うっすらと姿を現している。
「消えちゃうってどういうことなの?君が消えちゃうってこと?」
”うん…。私は、バグみたいなものだから…”
表情は見えないが、声だけで切なさが伝わってくる。
消えてしまう…。
会えなくなってしまうのか…?
「なんで…」
”ごめんね…だからもう、帰りな…?”
僕は立ち上がった。
「そんなの急に言われても、はいそうですかなんて納得できないよ…!」
右手を月に伸ばす。
精一杯背伸びして、月に触った。
「来ないほうがいいよって、言ったのに。ふふふ、本当に君は暇なんだねぇ…」
今にも泣きだしそうな、そんな笑顔だ。
「消えてしまうって、どういうことなの?」
彼女は少し考えるように黙った。
「私は、バグなの。この空間もバグ。2週間くらい前にポンって生まれた、異物」
「ずっとここにいたわけじゃないの…?」
「うん、私は生まれたばかり。ここもそう。それで、私にもよくわからないけど、新月になったら消えちゃう…」
「そんな…!なんで?あなたはなんでそのことを知ってるの?」
「わからない。でも、知ってる。新月には消えてしまう、そういう定めだって、わかってしまう…」
「なんだよそれっ…!」
この空間はバグ…?
彼女が消えるのが定め…?
そんなの…!
「ここから逃げよう!一緒に行こう!!」
僕は彼女の手を掴んだ。
ただ、彼女は力なく、抵抗もせず下を向く。
「無理だよ、これはもう、そういう次元の話じゃないの。決まってるの。太陽が昇ったそれを朝と呼ぶように、そう決められてしまっているものなの…」
「だからなんだ!そう決められている?無理?次元!?そんなもの、そんな言葉!ここに一番似つかわしくない!!」
僕はより一層彼女の手を強く握った。
痛いくらいに。
「あらゆる事象が、理が通用しないこんなところで、唯一君が消えることだけが不変だなんて!僕は絶対に許さない!!」
「…手、痛いよ…」
ポロポロと、下を向いた彼女の瞳から涙がこぼれる。
痛いだろう。
僕だって痛いんだ。
手も、胸も…!
「…ごめんね、ありがとう。でも、もういいの…」
ついにはその場に座り込んでしまった。
「よくない!!何一つよくない!!!勝手に諦めるな勝手に終わらせるな!!!僕を信じろ!!!!」
そう、あの時君が言ったんじゃないか。
”君は届くと思った。そう信じた。そう願った。だから届いたんだ”
初めに、君が言ったんじゃないか。
「僕を!信じろ!!」
わずかに彼女の手に力がこもる。
「…わたし、…」
世界が輝き始める。
無情にも、真っ白に。
手が、強く握り返される。
「…!、わたしも、生きたい…!!君と生きたい!!」
また、あの蛍光灯の下。
絶対に離さないように、手の骨を握り砕く勢いで繋いでいたのに。
そこに彼女の姿はなかった。
「…うぅ…ぁ…」
滲む視界、焼けるように熱い目。
膝に力が入らなくて、その場に座り込んだ。
強く握りすぎて赤くなった手のひらしか、彼女を証明できるものがない。
両手を顔に当てて、うずくまる様に、泣いた。
「…あ、」
どうやらそのまま寝てしまっていたみたいだ。
朝日がさしている。
変な姿勢で寝ていたせいで体中バキバキだ。
「やっと起きたみたいだね」
「え?」
聞き覚えのある、透き通るような美しい声。
「ふふふ、変な顔」
ふふふふ、と楽し気に微笑む姿は、この世のすべての人間を魅了するほどに魅力的だ。
彼女が、そこにいた。
「届いたね、またしても。私ももう、ほんとびっくりしてる」
話を聞くところによると、彼女も同じタイミングでこちらに来ていたそうだ。
ただ、なぜかはわからないが、この場所ではない少し離れたところに飛ばされていたらしい。
神のいたずらか、遊び心か。
意地の悪いことをするものだ、と思った。
「探すの大変だったんだよ、名前もわからないし、道もわからないし」
ウロウロとしていたところ、道端にうずくまる僕を発見し目が覚めるまで隣にいてくれた、ということらしい。
「…起こしてくれればよかったのに。僕がどれだけ…」
「ふふふ、そんなことはどうでもいいじゃない。またこうして会えたのだから」
言いたいことはいくらかある、が。
それもそうか、と思った。
今はただ再開を喜ぶべきだ。
「僕は、ゆうた。優しいに、太いでゆうた」
「ふふ、普通太郎の太とか言うんじゃないかな、ゆうたくん」
「どっちでもいいじゃんか。君の名前は?」
「うーん、えっと、、、」
考え込むように頭を抱える。
数秒して、控えめに口を開いた。
「…ツキノワ、そう呼んで」
一歩、朝日に向かって進むツキノワ。
座り込んでいる僕と太陽の間に割り込むような位置だ。
白いワンピースが光を受けて、長い金髪がなびく度にキラキラする。
振り返って、
「苗字は、君のを、ゆうたくんのを、もらおうかな」
そう言うと、にこりと笑った。
10
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