伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 37. フレイの覚悟、ナンシーの覚悟

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「やれ!めでてぇなぁ!」
その夜は村人全員が集まって、ツィアたちのために宴会が開かれた。
「ナンシーを連れ戻してくれた上に、魔物ももう来ないっていうんだ!これ以上めでてぇこたぁない!」
浮かれている村人。
「・・・」
ただ、ナンシーは一人、浮かない顔で座っていた。
「どうしたの?」
ツィアが話しかけると、ナンシーは答えた。
「...フレイのあの様子...なんか気になって...」
ナンシーはずっとそのことを考えていたようだった。
「そうね!フレイさんにはフレイさんの考えがあるようね!...で、あなたはどうしたいの?」
ツィアがナンシーに聞く。すると、
「私は...フレイとずっと一緒にいたい!!」
ナンシーが頬を染めながらも力強く宣言する。
「そう!なら話は簡単よ!」
「簡単?」
一つ、首を振ったツィアの言葉に、ナンシーが首を傾げると、
「その気持ちを貫いて!そしたらきっとフレイさんにも届くわ!」
ツィアは笑ってアドバイスした。
「でも私たちは...」
ナンシーは何か気になることがあるようだったが、
「そんなあなたにいいものをあげる!...私には必要ないものだから...」
そう言ってツィアはナンシーにそっとある物を手渡した。
「これは?」
ナンシーの問いに、
「これはね...」
宴会の騒ぎの中、ツィアが説明を始めた。

☆彡彡彡

翌日、
「う~~~~~~ん!まだ頭が痛いです!」
街道をツィアと共に歩いているハルが、辛そうにしている。
「ふふふ!...ハルにはお酒はまだ早いようね!...昨日も...」
ツィアの頭に昨夜のハルの様子が思い出された。

〇・〇・〇

「ツィアさん、大好き~~~~!!」
酔って、真っ赤な顔をしながらツィアにハルが抱きついてくる。
「こらこら!もう寝るわよ!」
ツィアがそんなハルを寝かしつけようとすると、
「は~~~~い!」
元気よく答えたハルは、ワンピースを脱ごうとする。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!!何してるの!!服は着たままでいいのよ!!」
ツィアが慌てて止めるが、
「それじゃ、ツィアさんといいことができません!」
ハルは不満げに言う。
「い、いいことって...」
ツィアが真っ赤になって尋ねると、
「私を...貰ってください...」
ハルが頬を染めながら訴えてくる。
「そ、そ、そ、そんなこと言っちゃダメ!本当にしちゃうわよ!」
ツィアはなんとか、やめさせようとするが、
「覚悟は...できてます...ツィアさんは...私じゃ...イヤですか?」
ハルは潤んだ目でそう聞いてきた。
「も、もう!酔うとこうなっちゃうのかしら...まさか誰にでも?!」
困った顔をしていたツィアだったが、大変な事実に気づく。
「いけないわ!!これからハルにはお酒は厳禁ね!!」
真っ青な顔で心に決めるツィア。
そんなツィアに甘えた声がかけられる。
「ツィアさ~~~~ん!!」
「分かったから、大人しく寝なさい!」
「は~~~~い!」
「だから服は脱がなくていいんだってば!」
ハルを寝かすのに一苦労したツィアだった。

〇・〇・〇

「私、何かしましたか?」
ハルは何も覚えていないようだった。
(良かった...覚えてたら気まずくなるところだったわ!)
そんなことを考えながら、ツィアはにっこり笑って、答える。
「何もしてないから安心して!」
しかし、
「...それと...話は変わるけど、私、昨日、お風呂入ってないから...」
そう付け加えたツィアの顔が赤くなる。
「そうすると、どうなるんですか?」
ハルはツィアの言いたいことが分からないようだった。
「その...汗のにおいとかすると思うから...あんまり...近くには...」
ツィアが真っ赤になりながら説明していると、
<クンクン!>
いつの間にか、ハルはツィアに近づくと、首元に鼻を当て、そのにおいを嗅いでいた。
「キャッ!」
ツィアが急いで距離をとるが、
「いつも通りのいいにおいですよ!...ツィアさ~~~ん!」
そう言うと、例のごとく抱きついてきた。
「きょ、今日はダメ~~~~~!!」
そんなハルを引き離すのに難儀するツィアだった。

☆彡彡彡

一方、その3日後、火山の麓の森で、ナンシーとフレイが会っていた。
「なに?フレイ」
ナンシーが聞くと、
「...もう会うのは今日で最後にしよう...」
ナンシーから目を逸らすとフレイはそう言う。
「なんで?!私が嫌いになったの?!」
ナンシーが詰め寄ると、
「俺ではお前を幸せにできない...お前が怪我をした時、それを思い知った...」
フレイは無念そうな顔をする。
「そんなことない!!...私、フレイのおかげで...」
ナンシーはそう言うが、
「俺は...お前が好きだ!!...でも...その顔に触れることもできない...その髪を撫でてあげることさえできない...」
フレイは口惜しそうに言う。
「フレイ...」
ナンシーのつぶやきを無視してフレイは続ける。
「これ以上、お前を好きになったら何をしてしまうか分からない!!その前に!!」
フレイがそう口にした時、
「フレイ!!」
ナンシーがフレイに抱きついた。
「な、何を!!」
フレイが慌てて引き離すがナンシーにやけどの痕はない。
「なぜ!!」
驚くフレイにナンシーは服の中から首飾りを取り出した。
「これのおかげよ!」
「それは...『氷の首飾り』!!なぜお前が!!」
フレイは目も飛び出さんばかりに驚いている。
「ツィアさんに貰ったの!これを装備すると、熱によるダメージを無効化するって!」
ナンシーが説明すると、
「そ、そんな貴重なものをか!!それは金で買えるものではないぞ!!」
フレイが更に驚く。
「そんなにすごいものなの?...ツィアさんは『必要ない』って言ってたけど...」
ナンシーがその様子に、じっと首飾りを見つめながら呆気にとられていると、
「...そうか...あの人間はもしかして...」
フレイは何かつぶやいている。
「どうしたの?」
首を傾げるナンシーに、
「いや...今度会ったら相応の礼をしなければと思ってな!...その首飾り以上の礼などできようもないがな!」
フレイはそう言って笑った。
「変なフレイ!」
ナンシーの言葉に、
「まあ、いい...そうか...お前がこれを...それでは、私の願いは変わった!」
フレイはナンシ―の肩に手を置き、その目をじっと見つめると言った。
「ナンシー!...俺の...花嫁になってくれ!!」
「...はい...」
頬を染めながら目を潤ませて、そう答えるナンシー。
「好きだ!!」
「私もよ!!」
二人は固く抱き合うのだった。

☆彡彡彡

その頃、旅の途中のツィアとハルは、
「今頃、ナンシーさんたち、どうしてるかしら...」
ツィアが二人のことを思い出しているようだった。
「...素敵なカップルでしたね!」
ハルの言葉に、
「ええ!あの首飾り、役に立ってくれてるといいけど...」
ツィアがそう口にする。
「えっ?!もしかして氷の首飾りですか?!」
ハルが大きな口を開けて驚いていた。
「そうよ!ナンシーさんがフレイさんに触れられるように...」
ツィアが説明すると、
「それはそうですが、あんな貴重なものを!!...もう二度と手に入らないかもしれないんですよ?!」
ハルが大声を出すが、
「いいじゃない!私たちなら魔法でなんとかできるわ!...それよりあの二人に好きな人と触れ合う喜びを知って欲しかったの!」
にっこりと笑いながらツィアが言った。
「ツィアさん...」
ハルの顔が尊敬の色に染まる。
「もう!そんな顔しないで!恥ずかしいじゃない!」
ツィアは頬を染め、ハルから目を逸らすが、
「ツィアさんなら...できるかもしれませんね!...魔物と人間が共に手を取り合う世界を作ることが...」
「もう!ハルったら!...大袈裟なんだから!」
ハルの言葉に更に顔を赤くするツィアだった。
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