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Maid 48. エカティにて
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「結局、魔物に遭わなかったね!」
エカティの門を目の前にして、ガーネットがアリーに話しかける。
「そうだね!」
(あいつら、意外に頑張ったみたいね!)
アリーが笑顔をつくろって答えると、
「『辺境は魔物が出て大変』ってウソだったのかなぁ?」
ガーネットが首を傾げている。
「ま、まあ、運が良かったんじゃない?」
苦笑いするアリー。
「ふ~~~~ん...」
納得していない様子のガーネットだったが、
「それより、もう遅いね!着いたら宿を探そ!」
ごまかすようにアリーが言うと、
「そうだね!」
ガーネットはそれ以上、考えるのをやめたようだ。
(ホント、素直な子...この素直さが悪い方向に出なければいいけど...)
アリーの心にちょっとした悪い予感が。しかし、
(気にしすぎよね!)
そう考え直すと、街の人の目につかないように、ガーネットのポーチに入り込むのだった。
☆彡彡彡
その日の深夜。
「じゃあ、今日調べたことを教えて!」
ここはアメジストたちが泊まっている宿。
そこには椅子に座った姫様と、その肩にはアリーの姿が。
その前では、アメジストたちが正座をして、かしこまっていた。
一足、早く着いたアメジストたちは、姫様の命令で『氷結の迷宮』の情報を集めていたのだ。
「はい。まず、『氷結の迷宮』は北にある山脈のふもとにあります!」
「国境の山脈ね!」
アメジストの言葉にうなずく姫様。
エカティの北には大きな山脈があり、隣国との国境をなしていた。
二つの王国は戦争をしていたこともあるが、今は小康状態を保っている。
両国の間に大きな懸案事項がないことが最も大きな理由だが、険しいこの山脈を越えなければ進軍できないのもまた、一つの要因だった。
「はい。そして、その中は吹雪が吹き荒れ、スノーウルフなど、寒さを好む魔物が生息しているようです!」
アメジストが説明を続ける。
「あの迷宮の中だけ、異常に寒くて、雪が降るんだよね!何か魔法的な力だと言われてるけど...」
アリーもその迷宮については、多少、知っているようで、補足をしてくれた。
年間を通して温暖なこの国では、雪が降るのは、国境の山脈の頂上付近を除けば、この迷宮だけだ。
姫様ですら、見たことがない。
「それと、『灼熱の迷宮』同様、入れるのは星持ちの銀級か、金級の冒険者だけです!」
アメジストが更に続けると、
「それは大丈夫ね!カリナンで取ったから!」
姫様は大きくうなずいた。
「今日、仕入れた情報は以上ですが...なぜ、この迷宮を探索する必要があるのですか?」
アメジストが姫様に聞いてくる。
「ああ!言ってなかったわね!私たちは『七色の奇跡の雫』を集めているのよ!『氷結の迷宮』には『青の奇跡』が咲いていて、雫が取れるわ!」
姫様の答えに、
「なるほど...」
そう口にしたアメジストが微妙な顔をする。
「??...明日はまた、先に出て迷宮の魔物を倒しておいてほしいんだけど...そして最下層で落ち合いましょう!」
不思議に思いながらも姫様が指示すると、
「それは構わないのですが...」
アメジストが口を濁す。
「どうかしたの?」
姫様が問いかけると、
「実は過去に、この地を治めるトパーズ様から依頼を受けて、『紫の奇跡の雫』を採取しに行ったことがあるのです!」
パールからそんな情報が上がる。
「そういえば、ここはトパーズ伯の領地だったわね...」
姫様は、小柄で太った傲慢な男を思い出し、顔をしかめる。
王城で何度も会っているが、野心家で自分の利益だけを主張するため、姫様とは話が合わなかった。
「そして、手に入れた私たちはトパーズ様に渡しに行ったのですが、直前に盗まれてしまいました...」
ヒスイが悔しそうな顔をすると、
「そ、そう...」
ちょっと気まずそうな顔をした姫様だったが、
「それで居心地が悪いわけね!...でも、トパーズ伯は王都にいるから問題ないんじゃ...」
顔をつくろうと、そう口にする。すると、
「それが...失敗がバレて叱責されないように、逃げてきてしまったのです!」
アメジストが困ったように訴えてきた。
「...なるほど...それで下手をしたら、捕まるのではないかと心配しているのね!」
姫様が納得の表情を見せていると、
「はい。今日も見つかるのではないかとヒヤヒヤして...」
アメジストが泣きそうな顔に変わる。
「なら、いざとなったら私の名前を出しなさい!さすがに簡単には手は出せないはずよ!」
少し、可哀そうに思った姫様は、そう言うと、胸からブローチを外して渡した。
「こ、これは!!」
驚くアメジスト。
「これが証拠になるわ!ここに王家の紋章が入ってるでしょ!」
姫様がブローチの紋章を指差して、にっこり微笑むと、
「ありがとうございます!!」
「これで捕まらずに済む...」
「姫様は神様です!」
手を取り合って喜んでいるアメジストたち。
「もう!大げさね!」
呆れた様子の姫様だったが、ハッとした顔をすると、
「...分かってると思うけど、貸しただけですからね!!」
確認するように睨む。
「も、も、もちろんです!!必ずお返しします!!」
その視線に、アメジストが慌てて、約束する。
王家を敵に回すほどバカではないようだった。
「じゃあ、明日はよろしくね!」
姫様が席を立つと、
「はっ!」
「かしこまりました!」
「お言葉のままに!」
返事だけは立派な、ろくでなし3人組。
アリーとともに窓から消えていく姫様を見送ったのだった。
エカティの門を目の前にして、ガーネットがアリーに話しかける。
「そうだね!」
(あいつら、意外に頑張ったみたいね!)
アリーが笑顔をつくろって答えると、
「『辺境は魔物が出て大変』ってウソだったのかなぁ?」
ガーネットが首を傾げている。
「ま、まあ、運が良かったんじゃない?」
苦笑いするアリー。
「ふ~~~~ん...」
納得していない様子のガーネットだったが、
「それより、もう遅いね!着いたら宿を探そ!」
ごまかすようにアリーが言うと、
「そうだね!」
ガーネットはそれ以上、考えるのをやめたようだ。
(ホント、素直な子...この素直さが悪い方向に出なければいいけど...)
アリーの心にちょっとした悪い予感が。しかし、
(気にしすぎよね!)
そう考え直すと、街の人の目につかないように、ガーネットのポーチに入り込むのだった。
☆彡彡彡
その日の深夜。
「じゃあ、今日調べたことを教えて!」
ここはアメジストたちが泊まっている宿。
そこには椅子に座った姫様と、その肩にはアリーの姿が。
その前では、アメジストたちが正座をして、かしこまっていた。
一足、早く着いたアメジストたちは、姫様の命令で『氷結の迷宮』の情報を集めていたのだ。
「はい。まず、『氷結の迷宮』は北にある山脈のふもとにあります!」
「国境の山脈ね!」
アメジストの言葉にうなずく姫様。
エカティの北には大きな山脈があり、隣国との国境をなしていた。
二つの王国は戦争をしていたこともあるが、今は小康状態を保っている。
両国の間に大きな懸案事項がないことが最も大きな理由だが、険しいこの山脈を越えなければ進軍できないのもまた、一つの要因だった。
「はい。そして、その中は吹雪が吹き荒れ、スノーウルフなど、寒さを好む魔物が生息しているようです!」
アメジストが説明を続ける。
「あの迷宮の中だけ、異常に寒くて、雪が降るんだよね!何か魔法的な力だと言われてるけど...」
アリーもその迷宮については、多少、知っているようで、補足をしてくれた。
年間を通して温暖なこの国では、雪が降るのは、国境の山脈の頂上付近を除けば、この迷宮だけだ。
姫様ですら、見たことがない。
「それと、『灼熱の迷宮』同様、入れるのは星持ちの銀級か、金級の冒険者だけです!」
アメジストが更に続けると、
「それは大丈夫ね!カリナンで取ったから!」
姫様は大きくうなずいた。
「今日、仕入れた情報は以上ですが...なぜ、この迷宮を探索する必要があるのですか?」
アメジストが姫様に聞いてくる。
「ああ!言ってなかったわね!私たちは『七色の奇跡の雫』を集めているのよ!『氷結の迷宮』には『青の奇跡』が咲いていて、雫が取れるわ!」
姫様の答えに、
「なるほど...」
そう口にしたアメジストが微妙な顔をする。
「??...明日はまた、先に出て迷宮の魔物を倒しておいてほしいんだけど...そして最下層で落ち合いましょう!」
不思議に思いながらも姫様が指示すると、
「それは構わないのですが...」
アメジストが口を濁す。
「どうかしたの?」
姫様が問いかけると、
「実は過去に、この地を治めるトパーズ様から依頼を受けて、『紫の奇跡の雫』を採取しに行ったことがあるのです!」
パールからそんな情報が上がる。
「そういえば、ここはトパーズ伯の領地だったわね...」
姫様は、小柄で太った傲慢な男を思い出し、顔をしかめる。
王城で何度も会っているが、野心家で自分の利益だけを主張するため、姫様とは話が合わなかった。
「そして、手に入れた私たちはトパーズ様に渡しに行ったのですが、直前に盗まれてしまいました...」
ヒスイが悔しそうな顔をすると、
「そ、そう...」
ちょっと気まずそうな顔をした姫様だったが、
「それで居心地が悪いわけね!...でも、トパーズ伯は王都にいるから問題ないんじゃ...」
顔をつくろうと、そう口にする。すると、
「それが...失敗がバレて叱責されないように、逃げてきてしまったのです!」
アメジストが困ったように訴えてきた。
「...なるほど...それで下手をしたら、捕まるのではないかと心配しているのね!」
姫様が納得の表情を見せていると、
「はい。今日も見つかるのではないかとヒヤヒヤして...」
アメジストが泣きそうな顔に変わる。
「なら、いざとなったら私の名前を出しなさい!さすがに簡単には手は出せないはずよ!」
少し、可哀そうに思った姫様は、そう言うと、胸からブローチを外して渡した。
「こ、これは!!」
驚くアメジスト。
「これが証拠になるわ!ここに王家の紋章が入ってるでしょ!」
姫様がブローチの紋章を指差して、にっこり微笑むと、
「ありがとうございます!!」
「これで捕まらずに済む...」
「姫様は神様です!」
手を取り合って喜んでいるアメジストたち。
「もう!大げさね!」
呆れた様子の姫様だったが、ハッとした顔をすると、
「...分かってると思うけど、貸しただけですからね!!」
確認するように睨む。
「も、も、もちろんです!!必ずお返しします!!」
その視線に、アメジストが慌てて、約束する。
王家を敵に回すほどバカではないようだった。
「じゃあ、明日はよろしくね!」
姫様が席を立つと、
「はっ!」
「かしこまりました!」
「お言葉のままに!」
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