ガーネットのキセキ

世々良木夜風

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Maid 62. シトリンの館に潜入せよ

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<カチャッ!>
大きな屋敷の3階の窓の鍵が静かに開く。
入ってきたのは、4人の女性と1人の妖精。

「ここがシトリンの館ね!なかなか豪勢じゃない!」
部屋の中を確認する姫様。
そこには絨毯が敷かれ、高価そうな調度品が置かれていた。
「少し、いただいても...」
アメジストが部屋の棚にある、ネックレスに手を伸ばすが、
「ダメよ!私たちは泥棒しに来たんじゃないんだから!」
姫様に注意されてしまう。
「これだから、アメジストは...」
「困ったもんだ!」
そう言いながらも、パールとヒスイは手に持った装飾品を、こっそり元の位置に戻していた。
「...先が心配だね!あたしたちだけで来た方が良かったんじゃ...」
アリーは少し、後悔している様子だったが、
「でも、シトリンの寝室に案内してもらわなきゃ!...知ってるのはアメジストだけでしょ?」
姫様が『仕方ない』とばかりに、アメジストの方に目をやる。
「おそらくですが...ヤツの執務室の奥に扉がありました!そこが私室と考えるのが妥当かと...」
アメジストはそんな二人の心の中を知ってか知らずか、真面目な顔で答えた。
「まあ、行ってみれば分かるわね!違ってたとしても、執務室の近くであることに変わりはないでしょう!」
姫様はそう言うと、ゆっくりとドアを開けて、廊下を見る。
人の気配はなかった。

「いくわよ!」
「「「はっ!」」」
廊下に飛び出した5人。
人がいたら魔法を使うつもりだったが、誰もいないようだった。

「執務室はどこ?」
姫様の問いに、
「2階の奥です!」
アメジストの返答。

それなら2階から入れば良さそうだが、外から観察したところ、3階のこの部屋が警備の死角になっていたので、ここを選んだのだ。
この時代はたいまつなどで明かりをとっていたので、どうしても上方が見づらくなる。
飛行が可能な姫様からすれば、無難な侵入方法だった。

「階段はあそこです!」
アメジストは一回しか来ていないにもかかわらず、館の構造を覚えているらしかった。
薄暗がりの中でも、案内してくれる。
「さすがね!連れてきて良かったわ!」
「ま、まあ、それほどでも...」
姫様に褒められ、満更でもない様子のアメジスト。
しかし、良く考えれば、泥棒をし慣れているとも考えられ、微妙な能力だった。

しばらく進むと、
「ちょっと待て!」
ヒスイがいきなり、皆を止める。
「「・・・」」
息をひそめていると、向こうから足音が聞こえてきた。
「2人だ!おそらく、警備の兵隊だろう!」
耳をそばだてていたヒスイが推測する。
「すごいわね!」
感心する姫様。
それだけで状況を理解してしまうヒスイは、今はとても頼りになった。

「眠りの粉!」
アリーが羽を震わせると同時に、鱗粉のようなものが宙に舞った。
それを、羽ばたいて先方へと飛ばすアリー。すると、
「ん...眠い...」
「おい!警備中だぞ!...って俺も...」
二人の膝が崩れると、
「よっと!」
いつの間にか、そばに近づいていたパールが二人の体を支える。
そして、その場に寝かせた。
「ス~~~...ス~~~...」
深い眠りに陥っている警備兵たち。

「実は最強メンバーなんじゃない?」
姫様は頼りになる仲間たちに思わず、笑顔になるのだった。

☆彡彡彡

「ここね!」
姫様たちは危なげなく、シトリンの執務室の前に着いていた。
「さて!ここからが本番よ!」
姫様は気合を入れると、そっと執務室の扉を開ける。
中は無人だった。
皆が入ったことを確認した姫様は、扉を閉めると、辺りを見回す。
「あそこね!」
アメジストの言った通り、奥に別の扉がある。

「・・・」
ヒスイが扉にしばらく耳を当てていたが、
「大丈夫そうです!」
そう言うと、ゆっくりと扉を開ける。
「ス~~~...ス~~~...」
5人が中に入ると、ベッドの上から寝息が聞こえていた。近づくと、
「これで...私も...貴族に...」
夢を見ているらしいシトリン。
「全く!何が貴族よ!詐欺まがいのことなんかして!!...スリープ!」
口を尖らせた姫様が、魔法をかける。
強い魔力を込めたその眠りの魔法によって、シトリンは地震が来ても起きることはないだろう。

「さて、捜しましょうか?」
姫様の言葉に、皆はベッドの周りでそれらしきものを捜し始める。

しばらくして、
「これなんか、怪しくないスか?」
パールが鉄の箱を持ち上げた。その途端、
「あっ!」
<ジャララ~~~~!!>
口が開き、中にあった、大量の宝石が散らばった。
「何してるの!!」
怒るアリー。
「面目ないっス!」
謝るパールだったが、

「なんだ!!今の音は!!」
「シトリン様の部屋の方からです!!」
「なに?!急げ!!」
外から警備兵の声が聞こえた。

「ヤバい!!一旦、退きましょう!」
アメジストの提案に、
「そうね!」
一度は同意した姫様だったが、
「ちょっと待って!!」
アリーの声がする。
「なに?アリー。急がないと...」
しかし、アリーの姿が見えない。
姫様が不思議に思っていると、
「ここ!ベッドの下に、秘密の扉があるよ!」
ベッドの下からアリーが顔を出した。
「よく見つけたわね!」
姫様が感心していると、
「散らばった宝石を集めてたら、偶然...暗くて、周りの床と同化してたから、潜らなければ見つからなかったかも!!」
アリーが興奮気味に話す。
「しかし警備の者が...」
そんな二人に、ヒスイが警告する。
警備兵の足音が姫様にも分かるくらい、近づいていた。だが、

「ちょっとだけ時間を稼いで!!」
姫様がアメジストたちに指示する。
「無理です!!私たちだけでは...」
アメジストは反対のようだったが、
「お願い!!このチャンスを逃したら、次はどこに隠すか分からない!!それに警備ももっと厳しくなるわ!!」
姫様に手を合わせて、懇願されると、

「・・・」
しばしの沈黙の後、

「仕様がない!そこまで言われちゃ!」
アメジストが覚悟を決めた。
「本気っスか?!」
パールは信じられないようだったが、
「あたしたち、あのお嬢ちゃんにどれだけもらった?ちょっとくらい返してやるのが女ってもんだろ!!」
アメジストは笑う。
「はっ!はっ!は!そりゃそうだ!...まあ、やるだけやってやるか!」
ヒスイもその言葉を聞いて、その気になったようだ。
「もう!!知らないっスよ!」

そう言いながらも、今だけはろくでなしではない3人は、入口に向かうのだった。
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