ガーネットのキセキ

世々良木夜風

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Maid 64. 執務室前の決闘

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(解せん!!)
先ほどから睨み合ったまま動かない、ヒスイとセンセイ。
センセイはヒスイに戸惑っているようだ。

(隙だらけの構え...これでは『斬ってくれ』と言わんばかりではないか...)
凄腕の剣士、センセイからすると、ヒスイの剣はまるでなっていなかった。

(いや、だまされてはならぬ!!これは誘っているのであろう!!下手に動けば首が飛ぶ!!)
ヒスイを強敵だと勘違いしているセンセイは、そう結論付けた。

一方、ヒスイは、
(なんだ?さっきからかかってこないな...いっそのこと、こっちから斬りつけてみるか...)
ふと、体を動かそうとすると、
(!!)
本能的に体が動きを止める。
(ダメだ!動いたらその瞬間、死ぬ!!...しかし、あいつの剣は止められない...どちらにしろ...)
ヒスイはその時が来ないことを祈るのみだった。

「・・・」
「・・・」
二人が睨み合ってどれくらいが経っただろうか?

<ヒラリ...>
ふと、二人の間に木の葉が舞い落ちてきた。
警備兵の体についていたものが、風で飛ばされ、ここまで迷い込んできたのであろう。
するとセンセイは、

(あの木の葉が地面に落ちた時、全ては決まる!!精神を集中せよ!!)
勝手にそう決めつけていた。

ヒスイはというと、
(あいつ、なんで葉っぱなんか見てるんだ?)
と思いつつも、自身も木の葉を見つめる。

「「「・・・」」」
その場が今までにない緊張感に包まれる。
『何かが起こる』...その空気に場が支配されていた。物音ひとつしない。
<ゴクリ...>
誰かののどが鳴る音がやけに大きく聞こえた。

(後、少し...)
センセイが木の葉に全神経を集中したその時だった。

「隙あり!!ファイアボール!」
アメジストが魔法を唱えた。

「「「えっ?!」」」
その場にいた全員が呆気にとられる。
ヒスイとセンセイも同じだった。すると、

<ドカ~~~~ン!>
ファイアボールがセンセイに命中した。

「やった!」
喜んでいるアメジスト。そんなアメジストに、

「一対一の勝負に割り込むとは卑怯千万!!」
怒髪天を衝く勢いのセンセイ。
しかし、その顔はススで真っ黒になり、髪の毛は燃えて縮れていた。

「そんなこと、誰も承知してないもんね~~~~!」
あっけらかんと答えるアメジストに、センセイの怒りは爆発した。

「もう許せぬ!!全員、死ね~~~~!!」
「「「助けて~~~~!!」」」
剣を振りかぶって走ってくるセンセイに、アメジストたちは執務室に逃げ込む。
ちょうどその時だった。


「あっ!アメジスト!ちょうど良かった!...もういいよ!お疲れさん!」
奥の部屋から、アリーが顔を出す。
「アリー!!たす...お助け!!」
目に飛び込んできたのは、必死な顔のアメジストたちと、その後ろから、剣を上段に構えて追いかけてくるセンセイの姿。
「ふう...」
一つ、ため息をついたアリーは、後ろを向き、声をかけた。
「お姫様!助けてあげて!」
すると、
「ウィンド!」
奥から声が聞こえた。
その瞬間、逃げているアメジストたちの後ろから、突風が吹きだす。

「このようなもの、拙者には効かぬ!!...風切り!」
センセイがまた、剣を振り下ろすが...

「うぉぉ~~~~~!!」
姫様の魔法に敵うはずもなく、
<ド~~~~~ン!>
ドアを通り越して、壁にぶつかり、
「まだ...修行が足らぬか...」
その言葉を最後に、気を失ってしまった。

「せ、先生!!」
大慌ての警備兵たち。
現場は大混乱だ。
そんな警備兵たちを置いて、

「これはもらっていくわ!シトリンによろしくね!」
姫様たちは、寝室の窓から、去っていったのだった。

☆彡彡彡

「シトリン様!...シトリン様!...」
(ん?なんだ?)
翌日の昼近く、ようやく目を覚ましたシトリン。
気付くと、そこはいつもの自分の私室。
周りには部下たちがいて、心配そうに自分を見つめていた。

「おお!お目覚めになった...」
部下たちが一安心といった顔に変わる。

「なんだ!お前たちは!!...私の私室には許可なく入るなと!!」
怒るシトリンだったが、
「実は...」
部下が昨夜のことを報告し始めた。

「まさか!!」
思わず、ベッドの下をのぞくシトリン。
「シトリン様?」
部下たちが不思議そうな顔をしていると、
「お前たちは一旦、外へ出ろ!!」
「はあ...」
部下たちを部屋の外に追い出したシトリンは、ベッドをどかすと、秘密の扉の鍵を開け、隠された部屋へと下りていく。

「やはり!!なんということだ!!」
シトリンの予想通り、最も大事な宝箱だけがなくなっていた。


「すぐに、ラピスラズリ...それとガーネットとアメジストを連れてこい!!」
部屋の外に出るなり、部下に命令するシトリン。
「はっ!」
部下は大急ぎで出ていくが、連れてきたのはラピスラズリだけだった。

「なんですか?私はあくまでトパーズ様の依頼を受けただけで、あなた様とは...」
サンゴの看病を邪魔され、不機嫌なラピスラズリ。
(ふむ...やはりこいつではないな!正体も隠さずにこの屋敷に忍び込むはずがない!)
その様子に、そう確信したシトリンは、
「ガーネットとアメジストはどうした!!」
苛立たしげに部下に尋ねる。
「それが...すでに発った後でして...」
申し訳なさそうな部下の声。
「まあ、いい...」
「よろしいので?」
シトリンの意外な返事に拍子抜けしている部下たち。

「それより、私はしばらく、ここを留守にする!!出立の用意を!!」
そんな部下にシトリンは命令した。
「は、はあ...」
『わけが分からない』といった顔をしている部下たちを尻目に、シトリンは考えていた。

(この屋敷に易々と忍び込み、用心棒を倒し、秘密の宝箱を盗み出した...そんなことができるのは...間違いない!!)
シトリンは断定する。
(姫様だ!!やはり、この街にお越しになっておられた!!真の目的はあの宝箱!!...ガーネットが大人しく、雫を渡したのは、私がそれをどこにしまうかを確かめるため!!...だまされたのは私だったということか...)
シトリンは歯噛みをする。
(もうトパーズ様に未来はない...私にできるのは...逃げることだけ...)
うなだれるシトリン。

シトリンは家族と、少数の護衛。それに宝石の詰まった箱だけを手に、馬車で街を離れるのだった。
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