ガーネットのキセキ

世々良木夜風

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Maid 69. 『奇跡』の雫の意味

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「行っちゃったね!」
アリーの言葉に、
「あの子が『奇跡』の子というわけか...」
サンストーンが意味深に答えると、
「そうだね!」
アリーが笑った。

「『奇跡の雫』の『奇跡』は雫の効果を表すものではないんだろう?」
サンストーンがおもむろに話しだした。
「うん!『あらゆる怪我や病気を治す』だけなら『パーフェクト・ヒール』があるし、『奇跡』というほどじゃない...」
アリーはその問いを肯定する。
「君は、『七色の奇跡の花は心を持っている』と言ったね!」
「そうだよ!そして、彼女たちは人間の『汚れた心』を嫌い、人の決して寄り付かない、秘境や自然環境の厳しい場所に咲く!」
サンストーンは『花』に『心』があると言い、アリーはその花を『彼女』と呼んだ。

「彼女たちは決して、心の汚い者を受け入れない。逆に心の清らかな者を愛する」
「それは『雫』も同じ。採取された雫は心の汚い者のもとからは、いずれ去っていく...それは定め!」
2人は誰にともなく口にする。まるで、今、起こった奇跡を確認するように。

「つまり、『七色の奇跡の雫』を持ち続けることができるのは、心の清らかな者だけ!」
「加えて、雫は『心の清らかさを行動で示した者』のもとへと、自然と集まってくる」
「要するに、なんの代償も求めずに、他人に大切なものを与えたり...」
「他人を助けるために、命を危険にさらすなどの行為をした者のもとへは、雫はいずれ、やってくる」
「ただし、その心に一点の曇りもあってはいけないんだけどね!」
「そうそう!人間はどうしても欲を持ってしまうもの...見返りを求めたり、ちょっとでも『惜しい』という心があれば...」
「雫は決して、現れない...」

アリーは行動をともにしてからのガーネットの行為を思い返す。
(あの子は集めなければならない大切な『黄の奇跡の雫』を、なんのためらいもなく、アメジストに渡した...その結果が...)
そう。山の神にもらった『藍の奇跡の雫』だ。
『黄の奇跡の雫』も心の汚れたアメジストを離れ、ガーネットのもとに戻ってきた。
(まあ、予想できてたけどね!)
アリーは笑う。マリンに『倍になって返ってくる』と言ったのはそういう意味だった。

(それから、『灼熱の迷宮』では、アメジストを助けるため、自らの命を危険にさらした...それを見ていた『赤の奇跡』は、花を咲かせて、雫を与えてくれた...)
もちろん、清らかな心を持っていなければ、せっかく採取した雫も、失われていただろう。

(そして、『氷結の迷宮』では...)
言うまでもない。『青の奇跡』のために、ファイアボールを自分の身に受けたのだ。なんの迷いもなく...

(シトリンが雫を求めてきた時も、素直に全ての雫を差し出した...)
姫様をかたっていたとはいえ、人を信じて、最も大切なものを預けるその行為が、彼の持っていた『橙の奇跡の雫』の心をとらえたのだろう。

(『緑の奇跡の雫』も命がけで崖を登ったらしいし、『紫の奇跡の雫』、『黄の奇跡の雫』も直前に、アメジストに本来、自分が得るべきだったお金や財宝を、進んで全て差し出した...)
ここら辺は、旅の途中で、姫様から聞いた話だ。
それを聞いて、ガーネットが3つも雫を集められた理由が得心できた覚えがある。

(だとしたら、意外とアメジストの存在が鍵になってるかも!)
不思議な感じがするアリーだったが、
(まあ、汚いものがあるから、綺麗なものがより輝くんだよね!)
そう考えると納得できた気がした。

「そして、最後の『奇跡の雫』の合成!!」
アリーが突然、大声を出す。
「そう!信じられないことに、あの子は、『自分の最も愛する者との結婚の権利を放棄してまで、その者の幸せを望む』と宣言したんだ!!それもこれっぽっちの迷いもなく!!」
サンストーンも興奮さめやらぬ様子で、高く声を上げた。
「雫同士が混ざり合うためには、彼女たちの前で、心の清らかさを証明しなければならない!そして、彼女たち、全員が納得した時、初めて『奇跡の雫』ができる!」
その行為の難しさを噛みしめるように、アリーが口に出した。
「僕も300年前の事例をなんとか見つけた!それをもとに、あの子に最も受け入れがたい答えを求めたんだけど...まさか、あの問いに一切の逡巡なく即答するとは!!」
サンストーンがその時の驚きを、思い出したように目を見開く。
「300年前はどうだったの?」
アリーが聞くと、
「文献によると、何度も質問を変えて、その者の心の清らかさが最も発揮できる問いを見つけなければならなかった...僕も、最初は何かの手がかりが欲しくて、試してみたんだけど、まさか成功するとは!!」
サンストーンは今でも信じられないようだ。

「・・・」
「・・・」

しばらく余韻に浸っていた二人だったが、
「僕は理解したよ!なぜ、あの雫が『奇跡の雫』と呼ばれているのか...」
サンストーンがつぶやく。
「そうだね!奇跡なのは雫ではなく...」
「それを手に入れた人間の方なんだ!!」
アリーの言葉を引き継いだサンストーンは、興奮しながら叫んだ。

「・・・」
「・・・」

また、しばしの余韻。
その後、アリーが言った。

「でも、このこと教えなくて良かったの?『奇跡の雫』を手に入れた今では、教えてあげても良かったんじゃない?」

確かに、集めている最中は内緒にした方が良かっただろう。
『清らかな心を持とう』と意識すると、逆にできなくなるものだ。

すると、サンストーンは、
「う~~~ん...そうしても良かったんだけど...あの子には今のままでいてほしくてね!」
にっこり笑うとそう答えた。
「そうだね!余計なことは言わない方がいいよね!!」
アリーの言葉に、
「そうそう!それにとても急いでいたしね!まるで王城まで走っていきそうな勢いで...」
サンストーンが冗談を言うと、
「ふふふ!サンストーンったら!!...お城までどれだけあると思ってるの!それに、外はもう真っ暗だよ!そんなことする人間がいるわけ...」
アリーはそこまで口にして、顔色が変わる。

「「いる!!」」
アリーとサンストーンが同時に叫んだ。
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