ローズマリーの冒険

世々良木夜風

文字の大きさ
上 下
15 / 59

Episode 15. ドラゴン退治の報酬

しおりを挟む
「今回はご苦労だったね。ドラゴンを倒してくれたおかげで助かったよ!」
席に着くと、マスターがお礼の言葉を述べた。
「いえ、あたしから言い出したことですし...それに正直、あれほど強いとは思いませんでした。マリーの機転がなかったらどうなってたか...」
ローズがそう言って苦笑いをする。
「わ、私はちょっとサポートしただけで、ドラゴンはローズちゃんが一人で倒したんです。それに最後に気を失って、ローズちゃんに心配をかけて...」
マリーは照れくさいのか、謙遜して言うが、
「いや、魔物との戦いはパーティ全体の手柄だ。サポートも含めて全員が協力しなければ強い魔物には勝てない。謙遜することはないよ!」
マスターがマリーに笑いかける。
「そうよ!あたしは今回はマリーの手柄の方が大きいと思ってるわ!!だからもっと胸を張って!!」
「あ、ありがとう...」
ローズにも褒められ、マリーは恥ずかしそうにお礼を言う。
「正直、私も本当に討伐できるとは思っていなかった。見事なものだ!他の冒険者も二人を見直すだろう!」
マスターは楽しそうにそう言う。
「そ、そうかな?」
とマリーは自分たちの業績をあまり実感できていないようだったが、
「それはそうだ。ドラゴンは存在するだけで脅威だし、他の魔物が山から下りてきて街も危険な状態にあった。アリサ君たちを待たずにその脅威を取り除けたのは大きい!」
マスターはそう言って、感心したように頷いた。
「アリサさんたちなら倒せるんですね。そんなに力の差があったなんて...でもかなり縮まったはずです!あたし、この戦いで強くなりました!!」
アリサの名前を聞いたローズは一瞬、微妙な顔をしたが、思い直したのかそう言って、胸を張る。
「そうだね。ローズ君の成長なしに、ドラゴンは倒せなかっただろう。それに話を聞くとマリー君も大事な働きをしたみたいじゃないか!二人はいいパーティになりそうだな!」
マスターは上機嫌だ。
「・・・」
「へへへ」
マスターの言葉に見つめ合って、微笑むローズと照れ笑いをするマリー。
「それにドラゴンの素材は高く売れるんだ!その分も含めて報酬はかなりの額になるよ!」
「ホントに?!」
マスターの発言に食いつくマリー。しかし、
「あの...報酬が目当てでは...」
自分の態度ががめついと感じたのか、マリーは恥ずかしそうに俯いてしまった。
「ははは。報酬を求めるのは冒険者として当然だよ!気にすることはない!」
マスターにそう言われて、
「で、いくらになるんですか?それにポイントも!!」
ローズが目を輝かせる。
「ローズちゃん!!」
マリーが食いつくローズをたしなめるが、
「ははは。それでこそ冒険者だ!私も若い頃は...と、これはどうでもいい話だったね!報酬は...」
<<ゴクッ!!>>
二人の喉が鳴る。
「10万ポイントと金貨100枚だ!!」
「「え~~~~~~~~~!!!」」
報酬の大きさにマリーたちは思わず大声で叫んでしまった。
「そ、そ、そ、そんなに...」
マリーは驚いて言葉が続かない。
「それだけあれば、欲しかった武器も防具も買える!!それにそれだけポイントがあれば依頼も...」
ローズは早速、今後のことを考えていた。
「ああ、このギルドの依頼なら受けられないものはないし、それだけ実力があるということだから、大きな街のギルドに行って、でかい仕事を請け負ってもいいだろう!!」
マスターの言葉を聞いたローズは、
「でっかい仕事...最強の冒険者になるあたしの夢に近づく第一歩だわ!!」
そう言って目を輝かせていた。
「...他の街か...」
しかし、マリーの顔は暗かった。
「マリーは乗り気じゃないの?!...まあ、マリーは肉親も友達もいるものね...でも、たまに帰ってくれば...」
ローズが言うが、
「う、うん...ローズちゃんがそうしたいんなら私ももちろん、ついていくよ!でもあの家、もったいないなぁ...」
マリーはむしろ、今、住んでいる家が気に入っているようだった。
「そうね!あれだけ居心地のいい家は他にないわね...でも冒険者に安住の地はないのよ!」
ローズの言葉に、
「分かってる...でも何週間も体を洗わないとか...恥ずかしくてローズちゃんに見せれない!!」
マリーがそう言って、顔を両手で覆うが、
「なっ!マリー!!なに言って!!」
ローズが慌て出す。その顔は真っ赤だった。
「あっ!!」
マリーも自分の言った意味に気づいて同じく真っ赤になる。
すると、その様子を見たマスターが、
「何の話だい?」
と不思議そうに問いかけてきた。
「「な、なんでもありません!!」」
二人は揃って返答を拒否したのだった。

マスターは二人の様子に首を傾げていたが、
「あっ!それと言っておかなければならないことがあった」
思い出したようにそう言った。
「なんですか?」
ローズが聞くと、
「まず、ローズ君に貸した剣だが...」
とマスターの言葉に、
「はい!おかげでドラゴンを倒すことができました!!約束通りお返しします!!」
ローズはそう言って、マスターから借りた剣を机の上に置いた。
「いや、そうじゃない!その剣はローズ君にあげよう。良ければ使ってやってくれ!!」
とマスターが言う。
「えっ!!でもこんなにいい剣を...」
ローズが戸惑うが、
「いい剣だと分かるか!なら尚更使って欲しい!!私は既に最高峰の剣を手にしている。だから、手元にあっても使う機会がない。それをもったいなく思っていたんだ!!」
マスターはその理由を教えてくれる。
「でも...」
ローズが尚も遠慮していると、
「いいかい!本当のいい剣とは買うものでない。職人が丹精込めて打ったものを使い手が育てていくんだ!!」
マスターが『剣』というものについて持論を話し出す。
「私は若い頃、初めての大仕事で得た金でその剣を作ってもらい、ずっと大切に使ってきた。その結果、買った時よりもいい剣になったと信じている!!」
「あたしもそう思います!!使い手の努力...経験...そんなものが詰まっているというか...この剣を振るたびにあたし、『剣』というものを教えてもらっている気になるんです!!」
マスターの言葉にローズも同意する。
「だからこそだ!!私にはもうその剣は必要ない...しかし、それでその剣の成長を止めてしまうのはもったいない!!ローズ君ならその剣を成長させられる!!今回の件でそれを確信した!!だからローズ君に使ってもらいたいんだ!!」
マスターはそう熱弁した。
「マスター...」
ローズの目が潤む。
「頼む!!私の剣を引き継いでくれ!!そして、その剣が必要なくなった時に、次の使い手にまた引き継ぐ!それがローズ君の仕事だ!!」
マスターはそう言って、ローズを見つめた。すると、
「...はい。分かりました!!あたし、きっとこの剣と一緒に成長します!!そして十分、強くなった時に、新しい適任者に譲る!それをこの場で約束します!!」
ローズはそう言ってマスターを見つめ返した。
「頼んだよ。ローズ君...この剣ともさよならだね。今までありがとう...」
マスターは机の上の剣に頭を下げたのだった。

そして、しばらくの後、頭を上げたマスターは、一組の銀色に輝く石を取り出した。
「それと君たちにはこれをあげよう!さっきの『家を手放したくない』という望みを叶えてくれると思うよ!」
そう言ってウインクするマスターに、
「「どういうことですか?!」」
二人の声が揃った。
しおりを挟む

処理中です...