ローズマリーの冒険

世々良木夜風

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Episode 21. シェナリーのギルドに行こう!

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「あっ!見えてきたわ!!あれがシェナリーの街よ!!」
ローズが前方を指差し、声を上げる。

サクラノの街を出発してから一週間。
朝、食事を取ってから転移石で移動場所まで転移し、歩き出す。
昼過ぎに休憩を取り、しばらく休む。
その後、夕方まで歩いたら、どこか人目につかない場所を見つけ、転移石を土に埋める。
これは、人や動物が持っていかないようにする為だ。
そしてそこからサクラノの家まで転移し、お風呂に入り、夕食を取る。
その繰り返しだった。
魔物に気をつけながら野営しなければならない、普通の冒険者とは違い、とても快適に旅をする事ができた。
途中で遭遇する魔物も、ドラゴンを倒したローズにとっては、倒すのは朝飯前だ。
天気にも恵まれ、二人はあっけなくシェナリーまで辿り着いた。

「あの門、懐かしいな~~~!」
門が見えてくるとローズが感慨深げに話し出す。
「ローズちゃんが育った街だもんね!!」
マリーが笑顔で答えると、
「孤児院で退屈な毎日を送ってただけだけどね!特に楽しい思い出もないわ!」
ローズはぶっきらぼうにそう言った。
「ローズちゃん...」
マリーが悲しそうな顔をすると、
「ゴメン...変な話したわね!でもそれは昔の話!!あたしたちはこれから、この街ででっかい仕事をやり遂げるのよ!!新たな伝説のスタートね!!」
ローズはそう言って、ふてぶてしく笑った。
「うん...」
静かに微笑むマリー。
やがて二人は門をくぐり、街の中に入った。


「うわぁ~~~~!!」
街の中に入ると思わずマリーが声を上げる。
門を通り抜けると、目の前には大きな通りが3本、放射線状に伸びており、荷馬車がひっきりなしに走っていた。
通りに沿って大きな建物が並び、どこまでも続いているようにみえる。
はるか遠くに見える丘は木々に囲まれ、そこに大きな邸宅が建っていた。おそらく領主のものだろう。
こんな大きな街を見るのはマリーにとって初めての経験だった。
「すごい!!これ、全部、シェナリーの街なんだよね?!どれだけの人が住んでるの?」
マリーはその規模に圧倒されてしまう。
「ふふふ。この辺りで一番の大都市だもの!!これ以上の街と言えば、王都と他に数か所くらいしかないわね!!」
そんなマリーにローズが説明してあげた。
「王都ってこれ以上なの?!...どんななんだろう...想像もできないや!!」
マリーがポカンと口を開けている。
「そういうあたしも見た事ないんだけどね!!あたしも王都を見たら今のマリーみたいになるかも!!」
ローズはそう言って笑った。
「私、そんな変な顔してた?!」
マリーが恥ずかしそうにしているが、
「ふふふ。呆気に取られてるマリーも可愛かったわよ!」
「もう...冗談ばっかり...」
ローズの言葉にマリーはそう言いながらも、ほころぶ顔を取り繕うことが出来なかったのだった。


しばらく大通りを歩いていくと、急に人通りが多くなる。
商人や道行く人の賑やかな声が聞こえてきた。
「なに?!」
マリーはビックリするが、
「ああ、あそこはこの街の市場なのよ!!いろんな店がたくさんあって、人も多いわ!!はぐれないように気をつけて!!」
そう言ってローズは市場の中へと歩いていく。
「待って!!」
マリーが慌ててついていくが、喧騒とあまりの人の多さに唖然とするばかりだった。
「マリー!!こっちよ!!市場を抜けたら、冒険者ギルドはもうすぐだから!!」
ローズが声をかけるが、
「あっ!!ごめんなさい...あっ、待って~~~!!ローズちゃ~~~ん!!」
マリーは人ごみに慣れないのか、通行人にぶつかったり、行く手を塞がれたりして、なかなかローズについていけない。
「もう!!仕方ないわね!!」
「あっ!!」
そう言ってマリーの手を取ったローズ。
そのまま手を引いて歩いていく。
「・・・」
マリーは真っ赤になって、じっと繋いだ手を見ながらローズについていくのだった。


「・・・」
二人はそのまま手を繋いだ状態で、冒険者ギルドまでやってくる。
シェナリーの冒険者ギルドはサクラノの10倍はありそうな大きな建物だった。
しかし、マリーの意識は繋いだ手に集中している。驚くことも忘れてギルドに入ろうとした時、
「あっ!!手を繋いだままだったわね!!ゴメン!!気がつかなくて!!」
ローズが慌てて手を離した。
「あっ!繋いだままで...ううん...そうだね!私も気づかなかった!!」
マリーは名残惜しそうに何か言おうとしたが、慌てて打ち消すとにっこり笑ってそう言った。
しかし、その笑顔はどこか寂しそうだった。
「マリー?...ううん、なんでもない」
ローズは一瞬、何か感じ取ったようだったが、すぐになんでもないと思ったのか、そのまま受付へと歩いていく。
「・・・」
マリーも無言で後に続くのだった。

「結構、すいてるね!」
マリーが周りの様子を見ながら言う。
「そうね!ちょうど昼過ぎで一番、人が少ない時だからかしらね!朝とか夕方だったら大混乱だと思うわ!!」
そうローズに言われたマリーだったが、冒険者ギルドは朝と夕方が賑わうのはサクラノも同じだった。
朝は依頼の受注。夕方は依頼の完了報告が多い。
ある意味、当たり前の会話だったのだが、
(でもこんなに大きい建物が大混乱ってどれだけ人がいるんだろう...)
マリーはちょっと怖くなるのだった。

「お願いします!!」
ローズが空いているカウンターの受付嬢に話しかける。
サクラノと違って何人もの受付嬢が並んで処理をしていた。
「はい!なんでしょう!!」
明るく答える受付嬢にローズが言った。
「あたしたち、サクラノの冒険者ギルドから来たんですけど、手続きをお願いします!!これが経歴証明書です!」
そして、サクラノで受け取った経歴証明書を渡す。すると、
「少々、お待ちください」
受付嬢はそう言うと、カウンターの奥に歩いていった。
「マスター!!経歴証明書の確認をお願いします!!」
そう言って、奥の40代くらいの大柄な男性に声をかけている。

その男性は赤髪を短く無造作にカットしている。
筋骨隆々で身長も高い。とても威圧感を感じさせる風貌だった。

「あれがシェナリーのマスターなんだね!!」
マリーがその様子を見ながら言う。
「そうね!あの体つきだと、昔は冒険者を目指していたのかしら?」
ローズの言葉に、
「でも、ジュークさんより随分、若いね!!」
マリーが答えると、
「『冒険者を目指したけど、むしろ管理の方が向いてた』って感じかしら?ジュークさんは現役を引退してからマスターになったから年を取っているのよ!!」
ローズがシェナリーのマスターの経歴を予想する。
すると、シェナリーのマスターと目が合う。
マスターはニコッと人懐っこそうに笑うと二人のもとへやってきた。

「おう!!お前らすげぇな!!冒険者を始めて間もねぇのにドラゴンを倒しただぁ??ポイントも随分溜まってんじゃねぇか!」
大きな体に見合った大きな声でそう言う。

すると周りがざわめき始めた。
「まぁ!あの女の子たち、ドラゴンを倒したらしいわよ!!」
「へぇ~~!そんな強そうに見えないけどな!まぐれじゃ...」
「じゃあ、お前、まぐれでドラゴン倒せるのかよ!!」
「それは...」
冒険者たちがその事実を知って、憧れと、少しの懐疑の目で二人を見る。

「ちょっとおじさん、声が大きい!!変に目立っちゃうじゃない!!」
ローズがマスターを睨む。
見ると、恥ずかしそうにしているマリーをローズが庇っていた。
「わりぃ、わりぃ!!この通り正直な性格なもんでな!!...しかもジークさんのお気に入りみてぇじゃねぇか!!文面から分かるぜ!!」
シェナリーのマスターはそう言った。
「『ジーク』??ジュークの間違いじゃ...それにジークっていったら...」
ローズが何かに気づいたようだ。
「ああ!『ジューク』はジークさんが冒険者をやめてギルドに入った時につけた名だ!!...確か現役時代に19匹の古代竜を倒したことにちなんだんだったかな!」
マスターは何気なくそう言った。
「やっぱり!!あの有名な『ドラゴンスレイヤー・ジーク』!!まさかうちのギルドマスターが...」
ローズが驚きの声を上げた。
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