ローズマリーの冒険

世々良木夜風

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Episode 44. 山に偵察へ

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翌日、朝には嵐は完全に治まり、太陽の光が降り注いでいた。
まるで昨日の夜だけ、切り取られたように別の天気であった。

「ふぁぁぁ~~~~~あ!!」
そんな陽気の中、眠そうにあくびをしながらギルドに入ってくるローズ。
「大丈夫?ローズちゃん!...ベッドが変わって眠れなかった?」
そして、心配そうに後をついてくるマリーがいた。
「大丈夫!!マリーは守り通したから!!」
ローズは真剣な顔でマリーを見ながら言う。
「もう!!大袈裟なんだから!!」
マリーはそんなローズを見て、笑っていた。

「どうしたの?雷が怖くて眠れなかったの?」
中からミランダの声が聞こえてくる。
「それならまだ良かったんですけどね...」
そう言うローズに、
「どういう事?」
キャサリンが首を捻っていた。
見ると、ネルソンとダイアンもそこにいる。
ジーク、ハンナと何やら話し込んでいるようだった。

すると、
「あっ!!ちょうどいいところに来たね!!実は二人に確かめてきてもらいたいことがあるんだ!!」
ジークはマリーたちを見るなりそう言った。
「何ですか?別に構いませんけど...」
ローズが答えると、
「君たちは転移石を持っているね?」
ジークが二人に聞いてくる。
「えっ!!」
ローズは心配そうにミランダたちを見るが、
「大丈夫だ!ここにいる皆にはその話はした。そして秘密を守る約束もしてくれた!」
ジークはそう言う。
「でもなんで...」
ローズはあれだけ秘密にこだわっていたジークがなぜ話したのか、腑に落ちない様子だったが、
「とにかく、事態は一刻を争うんだ!!君たちには前にドラゴンを倒した山の山頂に行ってもらいたい!!」
ジークは真剣な表情でそう言う。
「いいですけど、あたしたちじゃなくても...」
ローズはそれほど急ぐのなら、何故、今まで自分たちを待っていたのか不思議に思う。
「今、詳しく話している時間はない!!とにかく山の山頂にある、不思議な石の色を見てきて欲しいんだ!!」
しかし、その問いに直接答えることなく、ジークはそう言った。
「色?」
ローズが訝しげな顔をすると、
「そこには古代文明の名残の大きな石があってね!!普段は青く光っているんだ!!」
ジークはそう言う。
「普段は?」
ローズの問いに、
「とにかく青色ならそれでいい!だが赤色に変わっていたら、転移石ですぐに戻ってきて、教えて欲しい!!」
ジークはそう答える。
「それってヤバいんですか?」
ローズが聞くと、
「非常に危険な状態だ!しかし、赤色ならまだいい!もし完全に光を失って、普通の石のように見えたら...」
「見えたら??」
ジークが額に皺を寄せるのを見たローズは、心配そうに聞き返す。
「即刻、転移するんだ!!そこで何が起きていようとも。逆に何もなく、穏やかだったとしてもだ!!」
ジークの珍しく興奮した声にローズは不安になる。
「何が起ころうとしているんですか?」
そう聞くが、
「...とにかく、事情は後で説明する!!今すぐ向かってくれ!!」
鬼気迫るジークの言葉にローズはマリーと共にギルドを飛び出したのだった。

☆彡彡彡

「あっ!!」
近くの山に急ぎ足で歩いていると、突然、ローズが声を上げ足を止めた。
「あた!...どうしたの?ローズちゃん」
思わずローズにぶつかってしまったマリーだったが、額を撫でながら聞くと、
「どうしよう...転移石、まだシェナリーに置いたままだ...」
どうやらジークに急かされたローズたちは、転移石を持たずに飛び出してきてしまったようだった。
「それなら急いで取りに戻らないと!!」
マリーが踵を返すが、
「待って!!マリー!」
ローズがマリーを止める。
「どうしたの?早く戻って、取ってこないと...」
焦った様子のマリーに、
「今から引き返したら遅くなるわ!!ジークさんは『一刻を争う』って言ってた...このまま行って、色を確認したら大急ぎで戻りましょ!!」
ローズは落ち着いた様子でそう言う。
「でもジークさんは転移石でって...」
マリーはジークが転移石にこだわっていたのが気になるようだ。しかし、
「急いで報告する為の転移石よね?今から取りに戻ったらかえって遅くなる...それじゃ意味がないわ!!このまま行って、最速で報告するわよ!!」
そう言って、更に足を早めたローズに、
「うん...」(ローズちゃんが言うんなら...でも...なんでだろ...胸騒ぎがするの!)
同意しながらも不安が消えないマリーだった。


やがて、二人は山の麓に辿り着く。その時、
「うわ~~~~!!助けてくれ~~~!!」
冒険者の声が聞こえてきた。
見ると、3人組の冒険者パーティが空飛ぶ魔物に追われている。
その魔物はマリーもローズも知らない魔物だった。
全身、真っ黒な鱗で覆われ、いかにも邪悪な雰囲気を醸し出している。
大きさは人間の子供くらいだが、頭には角が、背中には翼が生えている。おしりには長い尻尾も生えていた。
三叉の槍を持ち、空高くから冒険者の一人に襲いかかろうとした時、
「エアボール!!」
マリーが魔法を詠唱した。
<ブワッ!!>
空気の圧力に押されて魔物が軽く飛ばされる。その先には...
<ズバッ!!>
ローズが待ち構えていて、魔物を一刀両断にした。
「大丈夫?!」
ローズが冒険者に話しかけると、
「ああ、助かったよ!!見た目とは違ってすごく強くて逃げ出したんだが...あんたら強いな!!」
そう言って、感謝してくる。
「お礼はいいわ!それより、このことを冒険者ギルドのマスターに大急ぎで伝えてくれるかしら?...悪い予感がするわ!!」
ローズにそう言われた冒険者は、
「分かった!!よし!大急ぎでギルドに戻るぞ!!」
そう仲間に声をかけると街へと向けて走っていった。

「...なんだろう...この魔物...見たことないけど、すごくイヤな予感がする...」
マリーは魔物の死体を前にそう呟いている。
「あたしもよ!...どうやら本当に何かが起こっているようね!...急ぐわよ!!マリー!!」
「うん!!」
ローズに続いてマリーも山を駆け上がっていくのだった。

☆彡彡彡

一方、マリーたちが出ていった後のギルドでは、対策会議が行われていた。
「いざとなれば私とミランダ君のパーティ、そして戻ってきたローズ君たちで出撃する!他の冒険者は山に近づかないように連絡を...」
ジークが手順を説明していると、ギルドに飛び込んできた3人組の冒険者がいた。

「マ、マスター!!山の近くに見たこともない魔物が現れて...偶然、出会った冒険者に助けてもらったんですけど...急いで伝えてくれと...」
冒険者の一人が入ってくるなり、青い顔をしてまくし立てる。
焦っているのか、説明が要領を得なかった。
「落ち着きなさい!!ゆっくり、詳しく教えてくれないか?」
ジークはその冒険者の肩に手を置くと、真剣な眼差しで見つめて、落ち着かせようとする。
「すいません。実は...」
すると、冒険者は見てきたことを詳細に語り出したのだった。

「そうか!大切な情報をありがとう。しばらく山には近づかない方がいい!!他の冒険者たちにも伝えておいてくれるか?」
冒険者の話を聞いたジークはそう冒険者に頼む。すると、
「はい!分かりました!...おい!みんなに伝えて回ろうぜ!!」
冒険者は仲間を伴って、ギルドを飛び出していった。

やがて、冒険者の気配がなくなったことを確認したジークは、
「くそっ!!もう動き出していたか!!...このまま放置しておくことはできない...仕方あるまい!!出るぞ!!ミランダ君!!」
そう吐き捨てると、ミランダたちの方を見てそう言う。
「ローズたちは...」
ミランダが口にすると、
「ハンナ君!!ローズ君たちが戻ってきたら山の麓に引き返して私たちを探すように言ってくれ!!どこかで戦っているはずだ!!」
「はい!!」
ジークの指示にハンナが答える。
「それと、さっきの冒険者が伝えていると思うが、冒険者たちが山に近づかないように張り紙をしておいてくれるか?!」
「はい!!」
「それと手が空いたら、例の部屋から...分かるね?これを渡しておこう!!」
「これは...」
「これを見せたら話が早いだろう!!よろしく頼むよ!」
次々とハンナに指示を出すジーク。最後に何かを手渡し、意味深なことを言うと、
「では行くぞ!!ミランダ君たち!!」
「「「「はい!!」」」」
ミランダたち一行と共にギルドを飛び出していった。
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