ローズマリーの冒険

世々良木夜風

文字の大きさ
51 / 59

Episode 51. ジークのお話(前編)

しおりを挟む
「「・・・」」
マリーとローズがギルドの一室でジークを待っている。
二人とも緊張しているのか会話がない。

サタンとの戦いから3日後。大事な話があるということでジークに呼び出された。

<ガチャ!>
部屋のドアが開く。
そしてゆっくりとジークが中に入ってきた。
対面の椅子に座る。
そして、徐に口を開いた。
「おめでとう!!二人は英雄に叙されることになったよ!!」
「やった!!」
「・・・」
大喜びのローズと微妙な顔で黙っているマリー。
対照的な二人の反応だった。

「おや?マリー君はうれしくないのかね?」
ジークがそんなマリーを見て言う。
「わ、私。そんな大したことしてないし...」
マリーは謙遜してそう言うが、
「なに言ってるの?!サタンの魔法を完全に封じたじゃない!!それにあのエアボールもサタンに隙を作ってくれたわ!!マリーがいなきゃ、サタンを撃退できなかった!!」
ローズがマリーの手柄を言い立てると、
「それは私も同意見だ!!マリー君は英雄の名に値する!!だから王様にも進言したんだ!!」
ジークもマリーを褒め上げた。
「...そうかな?...」
マリーが少し、その気になってくると、
「そうだよ!それに英雄になると冒険をする上で、便利なことがたくさんある!!ローズ君と行動を共にするのならマリー君も持っておいた方がいい!!」
ジークがそう言って、マリーの背中を押した。
「どんな便利なことがあるんですか?」
ローズが興味深げに聞くと、
「英雄は国の宝!また、英雄になると下賜される英雄の証は王権の証だ!!よって、国内での完全な移動の自由が保証される!」
「それって!!」
ジークの言葉にローズが食いつくと、
「そうだ!検問や関所などで足止めされることがない!また、古代の遺跡やドラゴンの巣などの危険で立ち入り禁止の場所にも出入りできるようになる!」
「やった!!冒険の幅が広がるし、強い敵とも戦える!!『英雄』ってすごいのね!!」
ジークが詳しく説明すると、ローズは大興奮で声を上げた。
「それだけじゃない!!英雄は人類の宝でもある!よって国境の移動も簡易な手続きで出来るようになるし、他国でもほぼ、国内と同じ移動の自由が認められている!!」
ジークがさらにメリットを述べていくと、
「すごい!!将来は他の国にも行ってみたいと思ってるの!!...夢みたいだわ!!」
ローズが目を輝かせてそう言った。
「...そうだね。ローズちゃんがそうしたいのなら、私も英雄になっておいた方がいいよね!じゃないと...置いてかれる!!」
マリーが悲愴な声でそう言うと、
「もう!!マリーが英雄じゃなくても置いていったりしないわよ!!それに英雄になれるって決まったんだから!!だからもっと胸を張って!!」
そこまで言ったローズだったが、マリーの胸に目をやると、
「...あ、あんまり人前じゃ張らない方がいいかも!」
と、赤くなって慌てて訂正した。
「??変なローズちゃん!!...分かった!私、英雄になる!!」
少し首を傾げたマリーだったが、どうやら覚悟を決めたようだった。

「よし!では急だが、明日、王城でその為の儀式がある!!すまんが準備してくれるか?」
ジークが二人の様子を見てそう言うと、
「明日?!随分、急なんですね?!」
マリーが驚いたように言う。
「ああ!王様が一刻も早く、新たな英雄に会いたいそうでな!...よろしく頼む!」
そう言って、ジークが頭を下げた。
「ジークさんが気にすることないわ!!そんなの早い方がいいわよ!!ねぇ!マリー?!」
ローズが言うが、
「...王様が会いたいのはローズちゃんじゃ...」
そう寂しげに口にしたマリーに、
「なに言ってるの!!マリーの可愛さを見たら王様でもメロメロになっちゃうわよ!!...いつも言ってるけど、もっと自分に自信を持って!!」
ローズが笑ってそう言う。
「・・・」
しかし、なぜかジークは黙り込んだままだった。

そして、ジークから当日の説明が始まる。
「明日は、朝から私と一緒に王城に行ってもらう。服装は正装が基本だが、冒険者なのでいつもの格好でいい!」
「朝からか...でもジークさんが一緒っていうのは安心ね!」
ローズが答えるが、
「・・・」
マリーがじっとローズのドレスの裾を見ている。
「ど、どうしたの?!」
ローズが赤くなって思わず裾を引っ張るが、
「ゴ、ゴメン!!変なこと考えてたわけじゃないの!!...その...ローズちゃんの、短いから見えちゃわないかなって...」
マリーが慌ててそう答えると、
「ああ!そういう事ね!!...心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ!!見えないようにいつも行動してるから!」
ローズは納得という表情でそう言う。
「そ、そうだよね!いつもあんなに激しく動いてるのに見えないんだもん!!今回も大丈夫...」
そう笑顔で言うマリーに、
「えっ?!いつも見てるの?!」
ローズが恥ずかしそうに聞くと、
「ち、ち、違うよ!!その...えっと...」
マリーは返事に困ってしまう。するとローズは、
「あっ!もしかして誰かに見られるのが心配とか?...大丈夫よ!マリー以外には見せないから!!」
その言葉に、
「ゴホン!!」
ジークが咳ばらいをする。
二人は赤くなって黙り込んでしまった。

「とにかく、午前中は担当官との打ち合わせだ!!その際、決めてもらいたいことが二つある!!」
ジークはその場の空気を変えるかのように淡々と説明を再開した。
「二つ?」
ローズが聞くと、
「ああ!まずは『二つ名』だ!!」
ジークが最初の一つを答えた。
「『二つ名』ってジークさんの『ドラゴンスレイヤー』とか、ミランダさんの『融通無碍』とかですか?」
マリーが質問する。すると、ジークは頷いて、
「そうだ!出来るだけ自分の特徴を表すものがいい!明日までに考えておいてくれ!!」
その言葉に、
「難しいなぁ...ローズちゃんはいろいろありそうだけど...」
マリーが困ったような顔をするが、
「なら、あたしが考えてあげる!!あたしはマリーのいいところいっぱい知ってるから!!マリーはあたしのを考えて!!」
ローズがそう言ってくれた。するとジークも、
「うむ!他人から見た客観的な印象の方が良いことも多い!それがいいだろう!!」
と言って頷いた。
「分かった!ローズちゃんの『二つ名』かぁ...カッコいいのつけてあげるね!!」
それを聞いていたマリーはそう言って微笑むのだった。

「次は『英雄の証』のデザインだ!!これは特に決まりはないが、いつも持ち歩くものなので装飾品がいいだろう!」
ジークが決めないといけない事の二つ目を口にする。
「装飾品かぁ...ローズちゃんとお揃いとかでもいいのかな...」
マリーが頬を染めながらそう言うと、
「それ、いいかも!!後で二人で考えましょ!!」
ローズも賛成してくれる。
「もちろん、同じものでもいい!特に個人を特定できる必要はないからね!それに二人は一緒に行動するから特に問題視されないだろう!」
ジークも『それでいい』と言ってくれた。
「うん!!」
マリーが顔をほころばせながら頷くと、ローズは、
(マリーとお揃い...そういうのもいいわね!!どうして今まで気づかなかったのかしら?...も、もちろん、友達としてよ!け、決して恋人ってわけじゃ...って何考えてるの!あたし!!)
そんな事を心の中で考えて、思わず頭を横に振ってしまうのだった。
「??」
マリーが不思議そうな顔をしているが、
「それでその後は?!」
ローズは誤魔化すようにジークにその後の予定を聞くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...