ローズマリーの冒険

世々良木夜風

文字の大きさ
57 / 59

Episode 57. 行方知れずの王女(後編)

しおりを挟む
「儂はシェナリーに泊まった晩、リリアとジークのみを連れて孤児院に向かった...国王がすることではないが秘密保持の為にはそうするしかなかった...」
国王の話が続く。
「そこで見た、女の子...その子には確かにリリアの面影があった...」
「・・・」
ローズはそっと王妃に目を移す。
(確かに似てるかも...)
そんな事を思っているうちにも話は続く。
「しかし、だからといって何が出来るわけではない!何しろ物的証拠がない。状況証拠だけでは孤児を王族に加えるには説得力があまりにも乏しかった...」
国王は無念そうに目を閉じた。
「儂に出来ることは時折、ジークに様子を見に行かせることくらいだった...『剣が好き』と聞いた時はうれしかったな!!儂も冒険者をしていたくらいだからな!!」
そう言った国王に、
「もしかしてあの剣も?」
ローズが孤児院で中古の剣をもらったことを思い出す。
「いや、あれは私が用意した!孤児院にあってもおかしくないものを探すのは意外に難しかったよ...」
そう言ったのはジークだった。
「あたし、ジークさんに見守られてたんですね...って、もしかしてドラゴンの骨について話していたのって!!」
ローズはふと、孤児院で院長先生が冒険者らしい男性と話しているのを盗み聞きしたことを思い出す。
「ああ!私だ!!院長が王妃様が護身用に持ってらした変わったナイフに興味を持ったようで、後で聞かれたのだ!!まさかそこにローズ君がいたとはね!!私から気配を消すとはなかなかだ!!」
ジークはそう言って笑った。
「じゃあ、あたしがサクラノの冒険者学校に行かされたのは...」
ローズがハッと気づく。
「そうだ!私がちょうど、冒険者を引退してサクラノの装置の見張りをすることになったので、私の目の届くところがいいだろうと、サクラノの冒険者学校を院長に推薦したんだ!!」
ジークの説明に、
「...そっか...あたし、嫌われてたんじゃなかったんだ...また、孤児院に行ってみようかな...」
ローズが長年のわだかまりが解けたかのようにスッキリした顔で言う。するとマリーが、
「ねっ!!私の言った通りでしょ!!...今度は二人で行こうね!!」
そうローズに笑いかけた。
「あっ!!じゃあ、マリーが知ってたのって孤児院で聞いて...でもよく話してくれたわね?!」
ローズがマリーに聞くと、
「どうやら、私が『ローズちゃんと一緒に冒険してる』って聞いて、王様がつけた護衛だと思ったらしいの!!...こんな頼りない護衛なんておかしいよね!!」
そう言って笑うマリーに、
「そ、そんな事ないと思うけど...マリーって実は戦闘での機転とかすごいし、頼りになるのに...でも、ならなんで話してくれなかったの?!」
ローズがフォローしたかと思ったら、今度は頬を膨らます。
「それは、私がただの冒険者仲間だと分かって、慌てて口止めされたの!!...院長先生って意外とそそっかしいんだね!!」
マリーはおかしそうにふふふと笑う。
「そっか...そんなことがあったんだ...」
ローズが納得していると、
「それに...話すとローズちゃんが遠い人になっちゃいそうで...」
「マリー...」
そう言って、目を伏せたマリーにローズはどう答えていいものか分からなかった。

「でも、なんで今になってそんな話を?!証拠がないからどうしようもないんじゃなかったんですか?!」
ローズが話題を変えようと、国王にわざわざそんな話をした理由を聞くと、
「一つはお前を目の前にして、話すのを止められなかったから。もう一つは...」
「もう一つは?」
ローズが繰り返すと、
「今がお前を我が子として迎える絶好のチャンスだからだ!!」
「ええぇぇ~~~~~!!」
国王の言葉にローズが大声を上げてしまう。
「な、なんで??...だってあたしは...」
ローズが戸惑っていると、
「今、国民は世界を救った新たな英雄に酔いしれている!!さらにその英雄が行方知れずになった王女だと聞いたらどう反応すると思う??」
国王がそう尋ねてきた。
「・・・」
ローズは答えない。答えが分からないからではなく、それがローズにとって望ましい事ではないからだろう。
しかし、国王の言葉は止まらない。
「熱狂的に迎えるに違いない!!そうなれば、もはや状況証拠で十分!!まだ残っているサーシャ派の貴族も反対できまい!のう!大臣よ!」
「はっ!仰る通りにございます!!」
国王の言葉に大臣も同意した。
「だからお前が心配することは何もないのだよ!」
国王は安心させるようにローズに話しかける。すると、
「じゃ、じゃあ、最初に話した『もう一つの道』って...」
ローズがその意味にやっと気づく。
「そうだ!!王女として王宮に戻ってきてくれぬか?!」
国王がハッキリと断言した。
「そ、それは...」
ローズは困ったように口を濁す。
「もちろんお前が冒険をしたがっていることは知っている!!本格的には難しいかもしれないが、多少は目をつぶってやろう!!」
それを見た国王は、懸命にローズを説得しようとする。
「でもマリーは...」
ローズが逃げ道を探すようにそう言うと、
「ああ!その娘なら...そうだな!!信頼のおける貴族の養子にしてやろう!!それなら親交を深めても問題はあるまい!!」
「えっ?!それってマリーが貴族に?!」
国王の言葉に先程までとローズの態度が変わる。すると、国王はチャンスとばかりに、
「ああ!!もちろん!!なんなら王宮に部屋を用意してやってもいい!!」
そう言って畳みかけた。
「・・・」
黙り込むローズ。ブツブツ呟きながら何かを考え出す。
「マリー...貴族...側室じゃなくて正妻に...チャンス...」
誰も意味が分からなかったが、国王は無言でローズに考える時間を与えている。
ローズは必死に葛藤していた。
「・・・」
隣で目で訴えてくるマリーに気づかないほどに...

そして、しばらくの後、ローズが出した答えは、
「申し訳ありません。返答は後日ということでお願いできないでしょうか?マリーの気持ちを確認しないと...」
「そんな必要ないよ!!」
<ガタン!!>
ローズは返事を保留しようとしたが、隣から聞こえてきた声と音に驚いて目をやる。
そこではマリーが椅子から立ち上がり、今にも泣きそうな顔をしていた。
「マリー?」
ローズが出来るだけ優しい声で話しかけるが、
「王女様なんてすごいじゃない!!ローズちゃんは自分のしたいようにしたらいいよ!!私の気持ちなんて確認しないでいい!!」
泣きそうな声で叫ぶマリー。
「そうじゃないの!!あたしはマリーのことを...」
そんなマリーをローズは必死で落ち着かせようとする。しかし、
「私はローズちゃんと冒険できればそれで良かったの!!貴族になんてなりたくない!!」
「マリー!それだったら...」
ローズが興奮しているマリーに何か言おうとしたが、マリーに遮られる。
「...私、ローズちゃんも同じだと思ってた...冒険が好きで...私も...きっと必要としてくれてるんだって...」
そう言ったマリーの目から一筋の涙が流れる。
「もちろんそうよ!!だから...」
しかし、ローズの言葉はマリーには届かなかった。
「...幸せになってね!...さよなら...」
傷心のマリーは涙でそう言うと、晩餐会の部屋から飛び出していった。
「マリー!!」
慌てて追いかけるローズ。
その様子を呆気に取られて見ていた国王だったが、
「いかん!!王宮は広い!!無闇に走り回ると迷子になるぞ!!誰か追いかけろ!!」
「はっ!!」
そう命令すると、一人の高官が二人を追いかけようとする。しかし、
「やめなされ!!」
ジークの張りのある声に追いかけようとした高官が止まった。
「しかし...」
まだ心配そうな国王に、
「今は二人だけにしておいてあげてください...あの二人なら迷子になっても何とかするでしょう。それよりも大切な話をこれから二人はしようとしているのです...」
ジークは扉の外を眺めると、真剣な眼差しでそう言うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...