バスト・バースト!

世々良木夜風

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Burst30. シージェラとジェンヌの喧嘩

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「二人は共に過ごしているうちにいつしか恋心を抱くようになっておりました」
シージェラの屋敷で、船が出なくなった理由が語られようとしていた。
「まあ!それは素敵です!」
マリアが目を輝かせる。どうやら恋バナは好きなようだ。
オトメはお菓子に夢中だ。グレースはこの手の話は苦手なので空気になっていた。
「ところが、ジェンヌときたら、他の女性がいるとチラチラ横目で見ているのです!私が側にいるというのに!」
シージェラの声に怒りが混ざる。
「なんて失礼なのでしょう!こんなに可愛らしい恋人がいるというのに!」
マリアも一緒になって怒る。
「本当ですわ!何度も注意しました。その度に『悪い。もう二度と見ないと誓う』と言うのですが、しばらくするとまた元通り...」
「なんてひどい...」
「ついに堪忍袋の緒が切れた私はジェンヌに言ってしまったのです。『もう、ジェンヌなんか知らない!もう会いに来ないし、ついでにうちの領からこちらの領に人も寄越さない!』と...」
「いや、シージェラさんが行かないのは勝手だけど、なんで他の人まで寄越さないの?」
オトメがつい、余計な事を言ってしまう。
しかし、二人はオトメを見事にスルーした。
「そんなことが...でも、今でもジェンヌさんのことがお好きなのでしょう?」
マリアが優しく言う。
「そ、それは...」
シージェラの顔が赤くなる。
「それで謝りに来るのを待っているのですね。分かります、その気持ち...」
「そう言っていただけるとうれしいですわ。私はただ、『ごめん。今まで悪かった』と謝ってもらって、『僕には君しか見えない』と抱きしめてもらって、『結婚しよう』とプロポーズしてもらって、一生、仲睦まじく過ごしたいだけなのに...」
「うん、シージェラさんの妄想はよく分かったから、早く渡航を再開しよう!他の人は関係ないよ!」
オトメは懲りずに話に水を差した。
しかし、マリアとシージェラは話に夢中になっている。部外者の声など聞こえない。
「まあ...なんて素敵な...私もオトメさんに...いえ、何でもありません...分かりました!私がその夢を叶えてみせましょう!」
「本当ですか!でもどうやって...こちらからあちらに行くことはできません...」
「いや、普通に船に乗っていこうよ!」
まだ懲りない女が話に割り込む。
「行けないのなら来させればいいのです!私に考えがあります!」
「「えっ!どうやって?!」」
懲りない女と妄想女の声が重なる。
「魔物を呼ぶのです。もし、ジェンヌさんが今でもシージェラさんを好きならきっと助けに来てくれるでしょう!」
「『魔物を呼ぶ』ってどうやって...」
シージェラが言うが、
「簡単ですよね!オトメさん!」
「はい?」
オトメはマリアの言っている意味が分からなかった。

・・・

「あぁぁ~~~~~~ん!!!マリ...」
ここは、サーカイの街の入口。ここでオトメとマリアが人目も憚らずコトをしていた。
周りの目が集まる。
二人の近くにはグレースとシージェラの姿も見えた。
しばらく皆が見ていると...街の外から魔物が集まってきた。
目指すはオトメの出したバースト・ボール。
これは強力に魔物を引き寄せる。
だが、魔物は街には入らない。入れるのは最上位の魔物、『イケメンモドキ』だけだ。
理由は分からないが、元が持たざる者の嫉妬なので街の人に害を与えるようなことはしないのだろう。
そんなに多くはないが、それなりに集まってきた。
危なそうなのはグレースが切り捨てる。
しかし、街は騒然となる。
「おい、魔物がたくさん集まってきたぞ!」
「どうなってるの?こんなこと今までなかった!私、大丈夫かしら?」
騒ぎはどんどん大きくなる。

やがて、トナリノ領の見張り台からもその様子が見て取れた。
すぐに、管理者の元に伝令が飛ぶ。
「ジェンヌ様!大変です!」
「どうした?」
「多くの魔物がテジナ領の街の入口に集まっているようです!」
「何?本当か?どうしてそんなことが...」
「分かりません!しかし、テジナ領が騒然となっております!」
「シージェラ...シージェラは!」
「それが、街の入口におられるようでして...食い止めようとしているのかもしれません!」
「馬鹿な!あいつはEカップ!すぐに標的になるぞ!こうしてはおれん!僕も出る!冒険者を集めて船へ!」
「はっ!」
こうして狙い通り、トナリノ領から船でジェンヌと冒険者たちがやってきた。

・・・

オトメたちが街に魔物を集めてから小一時間。
「シージェラ!大丈夫か!」
冒険者たちの先頭に立って現れたのは凛々しい...女性だった。ボーイッシュな格好をしている。
「ジェンヌ!来てくれたのね!」
うれしそうなシージェラの顔。
それを聞いたオトメはバースト・ボールを魔物に叩きつける。
半分ほどの魔物が消えた。残りの魔物もマリアとグレースが簡単に片付ける。
「師匠...強くなったな!」
「お二人に負けてはいられません!私だって守られてばかりじゃないのですよ!」
「マリアちゃん...」
オトメもうれしそうだった。

「これは一体...」
ジェンヌが呆然と立ち尽くす。
「話はこれからです!私たちと一緒に来てもらいましょうか!」
マリアが怒った声でジェンヌに話しかける。
「君は誰だ?」
「後で説明します!とにかく、全部、洗いざらい吐いてもらいますからね!」
「冒険者の方は帰って結構です。特別に船を出しましょう。お騒がせしました」
シージェラが冒険者たちに声を掛け、部下に指示を出す。
すると、冒険者たちはその指示に従って帰っていった。

・・・

場所は改まって、シージェラの屋敷。
オトメたちとシージェラ、ジェンヌとその側近が応接室に集まっていた。
「その...すまん、シージェラ。もっと早くに来ようと思っていたのだが踏ん切りがつかなくてな」
「あやまることはないわ。所詮、私はあなたにとってそれだけの存在だったのよ。他の可愛い女の子と仲良くしたらいいんじゃないかしら...」
「違う!僕が好きなのはシージェラだけだ!」
「嘘よ!何度言っても他の可愛い女の子を見てるじゃない!私はそのうちの一人だった...それで勘違いしてしまったのよ...」
「だから違うんだ!僕が見てるのは女の子ではなく...」
そこでジェンヌは言い淀んでしまった。何度か口を開きかけるが結局、閉じてしまう。
「ほら、やっぱりそうなんじゃない」

そんな二人のやり取りを見ながらオトメはつぶやいていた。
「なるほど...こう言えばマリアちゃんが...『私が好きなのはマリ...だけなの!』なんちゃって!」
オトメが一人で照れていると、ふと視線を感じる。
それはジェンヌのものだった。
(あれ?この視線...覚えがある...これは私が...を見るときの...)

「ちょっと!どこ見てるの!よりによってマリアさんの失礼なお付きを見るなんて!」
その視線に気づいたシージェラが嫉妬の炎を燃やした。
「ち、違うんだ!僕が見たのはこの胸のないガサツな少女ではなくて...」
宝塚系のジェンヌがうろたえる。
「全く、失礼なカップルだなぁ...あれ?このセリフどこかで言った気が...じゃなくて、ジェンヌさんが見たのは私じゃないよ!」
オトメははらわたが煮えくり返る思いであったが、何とか笑顔をキープして言った。
「それでは何だといいますの?!」
「それは、可愛い洋服だよ!今日はマリアちゃんのために買った洋服を着てるから!」
「オ、オトメさん...」
マリアが赤くなって慌てている。
そういえば今日のオトメの服は冒険用の麻のワンピースではなく、ワガマーマで買ったミニワンピだ。
「それはどういう...」
「な、な、な、なんでそれを!」
シージェラはピンと来ないようだが、ジェンヌは傍から見ても分かるほど動揺している。
「だって、私の服を見た視線。私が他の子がブラをつけてるのを見る視線と同じだったから...もしかして、こういう服、好きなの?」
「ち、ち、違う!僕はそのような可愛らしい、女の子らしい服など、憧れたことも、着たいと思ったこともない!」
ジェンヌは更に動揺していた。しかし、頬が赤く染まり、恥ずかしがっているのが分かる。
「そ、そんな...カッコイイ服が似合う、凛々しいジェンヌが可愛らしい服を着たがっていたなんて...」
シージェラはその事実に衝撃を受けているようだ。
「...ごめん、シージェラ...僕は君が思うようなカッコイイ女子ではなくて、女の子らしい服に憧れる乙女な心を持っていたんだ...さよなら...」
ジェンヌはそう言うと、部屋の出口に向かって歩き始めた。
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