【完結】君と創る世界

くみた柑

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【第一章】記憶の底にある世界

その日だけの近道

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 小学五年生は、特に男子にとって、そうした特別な存在を意識するのが難しい年頃だ。
 特定の女子にばかり声をかけると、すぐに好きなのかとからかわれる。
 だからこそ、僕は放課後まで彼女に話しかけるのを控えるようにしていた。
 彼女は不思議なことに、いつも最後まで教室に残っていた。

 帰り支度をしながら、僕はちらちらと彼女を見ていた。その時、ふと背中に声がかかる。

「ハチ、一緒に帰ろう」

 彼女の声はいつも楽しそうで、僕は名前を呼ばれるたびに、内心、飛び上がるくらい嬉しかった。
 でも、誰かに見られて冷やかされるのが怖くて、できるだけ平静を装った。

 ある日の帰り道、「家までの近道があるの」と彼女は通学路から外れた道に僕を誘った。
 湿気を帯びた風がまとわりつく、梅雨特有の蒸し暑い日だった。

 彼女は公園の裏にある古びたブロック塀の前で立ち止まった。
 その奥には暗い竹林が広がっている。

 塀の真ん中あたりが老朽化でボロボロと崩れ、頭一つ分の穴が開いている。見た目では到底、人が通れるものには思えない。
 塀を乗り越えられないこともないけれど、彼女はスカートを履いているし、こんなボロボロな塀、登って崩れたら危ない。仮に通り抜けて竹林に入ったとしても、方角的に近道にはなりそうもない。

 そんなことを考えていると、彼女はブロック塀の壊れている部分を指差した。

「ここ、今だけ通れるのよ」

 からかわれているのかと思い、困惑した表情を浮かべる僕を見て、彼女は口元に手を当てて楽しげに笑った。そして、彼女は僕の手をとり、

「ほんとよ。ここを通れば、私の家のすぐ近くに出るの」

 と悪戯な笑みを見せ、ブロック塀に向かい歩き出した。

 ぶつかる! と思った瞬間、彼女の体はブロック塀に飲み込まれていく。
 僕の心臓は早鐘のように鳴り出す。ついに彼女は手だけになり、彼女とつないでいた僕の手も、続いてするすると塀の中に入り、全てが暗闇に呑まれた。

 痛みも何も感じなかった。次の瞬間、壁の中に消えたはずの彼女の後ろ姿が見えた。
 気がつくとそこはもう、彼女の家の近くの路地裏だった。地面から湿った土の香りが漂っている。

「今日、うちに遊びに来ない?」

 彼女の声がどこか夢の中のように響き、まだ状況を飲み込めていない僕は、つい「うん」と返事をした。彼女は「よかった」と大きな瞳を輝かせた。
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