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【第二章】彼女だけがいない世界
同窓会
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家に戻り、シャワーを浴びて汗を流してから、同窓会の会場へ向かった。
会場といっても、実家から歩いて二十分ほどの距離にある居酒屋だ。『本日貸し切り』の札がかかった扉を開けると、中から賑やかな話し声が漏れてきた。懐かしい笑い声やざわめきが混ざり合い、同窓会独特の温かい空気が漂っている。
「お! 来た来た! 洵ー、こっち!」
大きな声で手を振っていたのは窪裕史だった。体型は少しふくよかになっていたが、笑った顔は昔のままだった。
「窪、久しぶり」僕も手を上げて彼の近くに行き、ハイタッチを交わす。見た目はお互い変わったのに、話せばすぐに、子どもの頃の懐かしい空気が流れる。
「やっぱり東京に行くと、シャレオツになるな!」と窪はおどけるように笑った。
「は? 僕は全然オシャレじゃないよ。この服だって近所の量販店のものだし」
「いやいや、量販店でもセンスが違うんだよ、東京もんは!」と再び笑った。
「窪は少し……」とお腹の辺りに視線をやると、
「おいおい、みなまで言うなよ」と、ぽんぽんとお腹を叩いて笑った。
「ラーメンばっかり食べてりゃ、まあこうなるってもんだ」
窪の家は夫婦でラーメン屋を経営していて、彼はその店を継ぐことにしたらしい。最近のメッセージのやり取りで知ってはいたが、こうして窪と話していると、仲の良い彼の家族を思い出し、どこか温かい気持ちになる。
軽く店内を見回すと、席はほとんど埋まっていた。
久しぶりの再会に盛り上がるグループがいくつもできていて、笑い声が絶え間なく響いている。髪型や体型が変わった人も多いけれど、不思議と誰が誰だかわかる。それがなんだか面白くて、懐かしさが胸にじんわりと広がる。
ふいに、店の扉がガラガラと音を立てて開いた。
「あ! 竹田先生!」
その声を合図に、店内が一気に賑やかになった。
「うわー、竹田先生だ!」「懐かしい!」「きゃー変わってなーい」
次々に歓声が上がる。
竹田先生は、少し照れたように微笑みながら、店の入り口で手を振っていた。
白髪こそ増えたものの、怒ると怖いが普段は優しくて面倒見が良い、あの頃の温厚なおばちゃん先生の姿はそのままだった。四、五、六年の三年間、僕達の担任として見守ってくれた、あの懐かしい日々を思い出す。
「わー、みんな変わらないね! 元気そうで安心した!」
竹田先生の言葉に女子たちがいっせいに近づき、賑やかに話しかけ始める。
次々に声が飛び交い、竹田先生はあっという間に、女子グループの真ん中に座らされていた。あの頃の教室が、そのままここに戻ってきたかのようだった。
「やっぱり先生は俺らほど変化ないなー」と、隣で窪が言う。
僕は頷く。子供の頃からの十数年と大人のそれでは、まるで時の流れ方が違うみたいだ。
「それじゃあ、そろそろみんな揃ったみたいなので、神深山小学校同窓会を始めます!」
幹事の山根が声を張り上げ、両手を広げる。その仕草にみんなが拍手で応じ、店内が一層賑やかになった。ジョッキが次々に掲げられ、「乾杯!」の声が響き渡る。
ビールをぐいっと飲み隣の窪に声をかける。
「今日って、全員来てるの?」
「いや、確か二人欠席、一人遅刻、だったかな。全員じゃないよ」
と枝豆をもぐもぐしながら窪が答える。
僕は周りを見回しながら、記憶の中のクラスメイトと今のメンバーをひとりずつ照らし合わせていく。
女子は化粧をして雰囲気が変わった人も多いが、声や笑い方で不思議と誰だかわかるものだ。
もしかしたら今日、彼女が来ているかもしれない、とほんの少しの期待をしたが、女子は全て、顔と名前が一致した。でも、もしかしたらその欠席と遅刻の中に、彼女がいるのかもしれない――
諦めが悪い自分に、内心苦笑いした。
記憶を辿ってみれば、欠席者と遅刻者三人の顔と名前はすぐに思い浮かんだ。
彼女ではない。やはり、この同窓会に彼女は呼ばれていないのだ。
小学五年の、ほんのひと夏。僕らと過ごした年月が短すぎる。
それに、あの夏の記憶がどれだけみんなの中に残っているかもわからない。もし声をかけていたとしても、彼女が来る可能性はきっと低かっただろう。
それでも、彼女がここにいない現実を目の当たりにして、胸の中に小さな波紋が広がっていくのを感じた。
会場といっても、実家から歩いて二十分ほどの距離にある居酒屋だ。『本日貸し切り』の札がかかった扉を開けると、中から賑やかな話し声が漏れてきた。懐かしい笑い声やざわめきが混ざり合い、同窓会独特の温かい空気が漂っている。
「お! 来た来た! 洵ー、こっち!」
大きな声で手を振っていたのは窪裕史だった。体型は少しふくよかになっていたが、笑った顔は昔のままだった。
「窪、久しぶり」僕も手を上げて彼の近くに行き、ハイタッチを交わす。見た目はお互い変わったのに、話せばすぐに、子どもの頃の懐かしい空気が流れる。
「やっぱり東京に行くと、シャレオツになるな!」と窪はおどけるように笑った。
「は? 僕は全然オシャレじゃないよ。この服だって近所の量販店のものだし」
「いやいや、量販店でもセンスが違うんだよ、東京もんは!」と再び笑った。
「窪は少し……」とお腹の辺りに視線をやると、
「おいおい、みなまで言うなよ」と、ぽんぽんとお腹を叩いて笑った。
「ラーメンばっかり食べてりゃ、まあこうなるってもんだ」
窪の家は夫婦でラーメン屋を経営していて、彼はその店を継ぐことにしたらしい。最近のメッセージのやり取りで知ってはいたが、こうして窪と話していると、仲の良い彼の家族を思い出し、どこか温かい気持ちになる。
軽く店内を見回すと、席はほとんど埋まっていた。
久しぶりの再会に盛り上がるグループがいくつもできていて、笑い声が絶え間なく響いている。髪型や体型が変わった人も多いけれど、不思議と誰が誰だかわかる。それがなんだか面白くて、懐かしさが胸にじんわりと広がる。
ふいに、店の扉がガラガラと音を立てて開いた。
「あ! 竹田先生!」
その声を合図に、店内が一気に賑やかになった。
「うわー、竹田先生だ!」「懐かしい!」「きゃー変わってなーい」
次々に歓声が上がる。
竹田先生は、少し照れたように微笑みながら、店の入り口で手を振っていた。
白髪こそ増えたものの、怒ると怖いが普段は優しくて面倒見が良い、あの頃の温厚なおばちゃん先生の姿はそのままだった。四、五、六年の三年間、僕達の担任として見守ってくれた、あの懐かしい日々を思い出す。
「わー、みんな変わらないね! 元気そうで安心した!」
竹田先生の言葉に女子たちがいっせいに近づき、賑やかに話しかけ始める。
次々に声が飛び交い、竹田先生はあっという間に、女子グループの真ん中に座らされていた。あの頃の教室が、そのままここに戻ってきたかのようだった。
「やっぱり先生は俺らほど変化ないなー」と、隣で窪が言う。
僕は頷く。子供の頃からの十数年と大人のそれでは、まるで時の流れ方が違うみたいだ。
「それじゃあ、そろそろみんな揃ったみたいなので、神深山小学校同窓会を始めます!」
幹事の山根が声を張り上げ、両手を広げる。その仕草にみんなが拍手で応じ、店内が一層賑やかになった。ジョッキが次々に掲げられ、「乾杯!」の声が響き渡る。
ビールをぐいっと飲み隣の窪に声をかける。
「今日って、全員来てるの?」
「いや、確か二人欠席、一人遅刻、だったかな。全員じゃないよ」
と枝豆をもぐもぐしながら窪が答える。
僕は周りを見回しながら、記憶の中のクラスメイトと今のメンバーをひとりずつ照らし合わせていく。
女子は化粧をして雰囲気が変わった人も多いが、声や笑い方で不思議と誰だかわかるものだ。
もしかしたら今日、彼女が来ているかもしれない、とほんの少しの期待をしたが、女子は全て、顔と名前が一致した。でも、もしかしたらその欠席と遅刻の中に、彼女がいるのかもしれない――
諦めが悪い自分に、内心苦笑いした。
記憶を辿ってみれば、欠席者と遅刻者三人の顔と名前はすぐに思い浮かんだ。
彼女ではない。やはり、この同窓会に彼女は呼ばれていないのだ。
小学五年の、ほんのひと夏。僕らと過ごした年月が短すぎる。
それに、あの夏の記憶がどれだけみんなの中に残っているかもわからない。もし声をかけていたとしても、彼女が来る可能性はきっと低かっただろう。
それでも、彼女がここにいない現実を目の当たりにして、胸の中に小さな波紋が広がっていくのを感じた。
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