【完結】君と創る世界

くみた柑

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【第二章】彼女だけがいない世界

不思議な森

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「久しぶり! 男子も飲んでる? おーみんな立派になって!」

 竹田先生が、女性陣の輪から抜け、ビール瓶を片手に僕たちのグループに来た。

「お! 八幡くん久しぶり。確か君は東京の大学に行ったのよねぇ。まあまあ、垢抜けちゃって!」

 竹田先生は笑顔を浮かべながら、僕のグラスにビールを注いでくれる。

「どうも」と照れながら、僕はビールを一口飲む。
 竹田先生の変わらない明るさに、授業を受けていた頃の懐かしい雰囲気を思い出した。

 窪は彼女のことは知らないと言っていたけれど、もしかしたら忘れてしまっているのかもしれない。でも先生なら、短い期間の転校生だって覚えているのでは。
 そんな淡い期待を胸に、僕は思い切って訊いてみた。

「竹田先生。五年生の夏頃に、女の子の転校生って来ませんでしたっけ」

 竹田先生は少し驚いたように首を傾げた。

「五年生の夏? 転校生はいなかったわね。それよりも八幡くん、もしかしてあの時のこと、思い出したの?」

「あの時?」先生の言葉に、再び心がざわりと波立つ。

「ああ、違ったのなら気にしないでね……」先生は少し表情を曇らせた。

「森で失踪した時のことですか?」
「そう! やっぱり思い出したの?」

 先生が心配そうに顔を近づけてくるのがわかる。
 そう、あの時。

『ハチ、今日は森に遊びに行こう!』

 夏休みも終わりに近づいたある日、虫取りがしたいと言っていた僕に、彼女が楽しそうに提案した。

「実はね、この先に面白い森があるの!」

 そう言って彼女は僕の手を引き、舗装された道を外れ、草の茂る細い道をずんずん進んでいった。
 虫取りが好きだった僕は、小さい頃からあちこちの森で遊んだことがあるけれど、彼女が連れて行ってくれた森は、初めて見る場所だった。

「こんなところにも森があったんだ」

 足を踏み入れた瞬間、空気ががらりと変わる。
 森の奥から漂う冷たく澄んだ空気が、じんわりと身体を包み込む。濃密な花々の香りと、朝露のようにみずみずしい葉の香りが混ざり合い、甘く僕の鼻先をくすぐる。鳥のさえずりや、どこか遠くから聞こえる虫の音。五感を刺激する初めての感覚に、胸の高鳴りが止まらなかった。

「すごい……」

 思わず声が漏れる。
 見上げた木々は、どれも見慣れたものとは違った。ねじれたような枝ぶりをしている木、葉先が光に透けて虹色を帯びる葉っぱ、あちこちに咲いている花はどれも、この辺りで見たことのない形や色合いをしている。

「まだ虫も見つけてないのに、もうすごいの?」

 彼女は口元に手を当てくすくすと笑った。その声が木々の間に反響する。

「こんな森、初めてだ」

 僕の言葉に彼女は満足そうに微笑む。

「どっちがたくさん見つけるか、競争ね!」

 そう言うと、彼女はぱっと走り出した。スカートの裾がふわりと揺れる。
 僕は「あ、待ってよ!」と声を上げながら、急いで彼女の背中を追った。
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