11 / 132
【第二章】彼女だけがいない世界
不思議な森
しおりを挟む
「久しぶり! 男子も飲んでる? おーみんな立派になって!」
竹田先生が、女性陣の輪から抜け、ビール瓶を片手に僕たちのグループに来た。
「お! 八幡くん久しぶり。確か君は東京の大学に行ったのよねぇ。まあまあ、垢抜けちゃって!」
竹田先生は笑顔を浮かべながら、僕のグラスにビールを注いでくれる。
「どうも」と照れながら、僕はビールを一口飲む。
竹田先生の変わらない明るさに、授業を受けていた頃の懐かしい雰囲気を思い出した。
窪は彼女のことは知らないと言っていたけれど、もしかしたら忘れてしまっているのかもしれない。でも先生なら、短い期間の転校生だって覚えているのでは。
そんな淡い期待を胸に、僕は思い切って訊いてみた。
「竹田先生。五年生の夏頃に、女の子の転校生って来ませんでしたっけ」
竹田先生は少し驚いたように首を傾げた。
「五年生の夏? 転校生はいなかったわね。それよりも八幡くん、もしかしてあの時のこと、思い出したの?」
「あの時?」先生の言葉に、再び心がざわりと波立つ。
「ああ、違ったのなら気にしないでね……」先生は少し表情を曇らせた。
「森で失踪した時のことですか?」
「そう! やっぱり思い出したの?」
先生が心配そうに顔を近づけてくるのがわかる。
そう、あの時。
『ハチ、今日は森に遊びに行こう!』
夏休みも終わりに近づいたある日、虫取りがしたいと言っていた僕に、彼女が楽しそうに提案した。
「実はね、この先に面白い森があるの!」
そう言って彼女は僕の手を引き、舗装された道を外れ、草の茂る細い道をずんずん進んでいった。
虫取りが好きだった僕は、小さい頃からあちこちの森で遊んだことがあるけれど、彼女が連れて行ってくれた森は、初めて見る場所だった。
「こんなところにも森があったんだ」
足を踏み入れた瞬間、空気ががらりと変わる。
森の奥から漂う冷たく澄んだ空気が、じんわりと身体を包み込む。濃密な花々の香りと、朝露のようにみずみずしい葉の香りが混ざり合い、甘く僕の鼻先をくすぐる。鳥のさえずりや、どこか遠くから聞こえる虫の音。五感を刺激する初めての感覚に、胸の高鳴りが止まらなかった。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
見上げた木々は、どれも見慣れたものとは違った。ねじれたような枝ぶりをしている木、葉先が光に透けて虹色を帯びる葉っぱ、あちこちに咲いている花はどれも、この辺りで見たことのない形や色合いをしている。
「まだ虫も見つけてないのに、もうすごいの?」
彼女は口元に手を当てくすくすと笑った。その声が木々の間に反響する。
「こんな森、初めてだ」
僕の言葉に彼女は満足そうに微笑む。
「どっちがたくさん見つけるか、競争ね!」
そう言うと、彼女はぱっと走り出した。スカートの裾がふわりと揺れる。
僕は「あ、待ってよ!」と声を上げながら、急いで彼女の背中を追った。
竹田先生が、女性陣の輪から抜け、ビール瓶を片手に僕たちのグループに来た。
「お! 八幡くん久しぶり。確か君は東京の大学に行ったのよねぇ。まあまあ、垢抜けちゃって!」
竹田先生は笑顔を浮かべながら、僕のグラスにビールを注いでくれる。
「どうも」と照れながら、僕はビールを一口飲む。
竹田先生の変わらない明るさに、授業を受けていた頃の懐かしい雰囲気を思い出した。
窪は彼女のことは知らないと言っていたけれど、もしかしたら忘れてしまっているのかもしれない。でも先生なら、短い期間の転校生だって覚えているのでは。
そんな淡い期待を胸に、僕は思い切って訊いてみた。
「竹田先生。五年生の夏頃に、女の子の転校生って来ませんでしたっけ」
竹田先生は少し驚いたように首を傾げた。
「五年生の夏? 転校生はいなかったわね。それよりも八幡くん、もしかしてあの時のこと、思い出したの?」
「あの時?」先生の言葉に、再び心がざわりと波立つ。
「ああ、違ったのなら気にしないでね……」先生は少し表情を曇らせた。
「森で失踪した時のことですか?」
「そう! やっぱり思い出したの?」
先生が心配そうに顔を近づけてくるのがわかる。
そう、あの時。
『ハチ、今日は森に遊びに行こう!』
夏休みも終わりに近づいたある日、虫取りがしたいと言っていた僕に、彼女が楽しそうに提案した。
「実はね、この先に面白い森があるの!」
そう言って彼女は僕の手を引き、舗装された道を外れ、草の茂る細い道をずんずん進んでいった。
虫取りが好きだった僕は、小さい頃からあちこちの森で遊んだことがあるけれど、彼女が連れて行ってくれた森は、初めて見る場所だった。
「こんなところにも森があったんだ」
足を踏み入れた瞬間、空気ががらりと変わる。
森の奥から漂う冷たく澄んだ空気が、じんわりと身体を包み込む。濃密な花々の香りと、朝露のようにみずみずしい葉の香りが混ざり合い、甘く僕の鼻先をくすぐる。鳥のさえずりや、どこか遠くから聞こえる虫の音。五感を刺激する初めての感覚に、胸の高鳴りが止まらなかった。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
見上げた木々は、どれも見慣れたものとは違った。ねじれたような枝ぶりをしている木、葉先が光に透けて虹色を帯びる葉っぱ、あちこちに咲いている花はどれも、この辺りで見たことのない形や色合いをしている。
「まだ虫も見つけてないのに、もうすごいの?」
彼女は口元に手を当てくすくすと笑った。その声が木々の間に反響する。
「こんな森、初めてだ」
僕の言葉に彼女は満足そうに微笑む。
「どっちがたくさん見つけるか、競争ね!」
そう言うと、彼女はぱっと走り出した。スカートの裾がふわりと揺れる。
僕は「あ、待ってよ!」と声を上げながら、急いで彼女の背中を追った。
1
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
見上げた空は、今日もアオハルなり
木立 花音
青春
──私の想いは届かない。私には、気持ちを伝えるための”声”がないから。
幼馴染だった三人の少年少女。広瀬慎吾(ひろせしんご)。渡辺美也(わたなべみや)。阿久津斗哉(あくつとおや)。そして、重度の聴覚障害を抱え他人と上手くうち解けられない少女、桐原悠里(きりはらゆうり)。
四人の恋心が激しく交錯するなか、文化祭の出し物として決まったのは、演劇ロミオとジュリエット。
ところが、文化祭の準備が滞りなく進んでいたある日。突然、ジュリエット役の桐原悠里が学校を休んでしまう。それは、言葉を発しない彼女が出した、初めてのSOSだった。閉ざされた悠里の心の扉をひらくため、今、三人が立ち上がる!
これは──時にはぶつかり時には涙しながらも、卒業までを駆け抜けた四人の青春群像劇。
※バレンタイン・デイ(ズ)の姉妹作品です。相互にネタバレ要素を含むので、了承願います。
※表紙画像は、ミカスケ様にリクエストして描いて頂いたフリーイラスト。イメージは、主人公の一人悠里です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる