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【第四章】残酷な世界
軽くなる体 重くなる心
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リハビリが始まった。
初めて車椅子に乗った日、医師や看護師たちは、これからどんどん良くなると笑顔で励ましてくれた。
体は生きる方向に進んでいるのに、心は死んだように沈んでいく。軽くなる体に反比例して、心は重さを増していった。
リハビリを終え病室に戻ると、あの幸せだった日々を反芻する。
「今日は月が綺麗ですよ」
元気がない僕に、看護師さんがそう教えてくれた。
僕は窓からぼんやりと夜空を眺める。
雲一つない夜空に浮かぶ満月は、ただ静かに輝いているだけで、どこか味気なかった。
「ハチ! 見て、月が綺麗!」
可琳と一緒にご飯を食べたあと、外に出ると、空には満月が浮かんでいた。
月なんて気にしたことがなかったけれど、可琳と一緒に見上げる夜空は、いつも以上に美しかった。
「満月でも、さすがここでは星がこんなにたくさん見えるんだな」
「東京ではやっぱり、星は見えない?」
「全然見えないよ。東京は夜も明るいから」
僕の言葉に可琳は柔らかく微笑むと、そっと囁いた。
「じゃあ、帰ってきてよかったね」
僕は、可琳の暖かい笑顔を思い出す。
病室から見る月は、東京で見た月と同じくらい、どこか冷たく、味気なく見えた。可琳がいないだけで、世界は輝きを失う。いつだって僕の世界を明るく灯すのは、可琳の笑顔だった。でも、今はもう、その笑顔に触れることさえできない。
あの幸せだった時間はもう戻らない――。
それを知るたび、心が軋むように痛んだ。
リハビリを重ねるたび、身体に力が戻ってくるのを実感する。
でもそれとは反対に、現実を生きる僕の心は、どんどん弱くなっていった。
璃花子さんは時々、僕の病室に来ては父さんの話をしてくれた。
正直僕は、父さんの話なんて聞きたくなかった。父さんが母さんを怒鳴りつけている姿が、どうしても頭から離れなかったからだ。
けれど、璃花子さんの話を聞くうちに、父さんへの思いが少しずつ変わっていった。
母さんの浮気が発覚した頃、父さんは体調不良で病院へ行った。精密検査を受けた結果、末期の癌で余命があと僅かであることがわかったそうだ。
僕には想像もつかない。自分の命がまもなく尽きるとわかった人間がどれだけの恐怖に苛まれるのかなんて。
そんな状況で、父さんは母さんの裏切りを知った。
父さんが母さんに向かって投げつけていたあの酷い言葉や態度――それは、単なる怒りではなく、絶望から来ていたのだ。
あのときの僕は、ただ耳を塞いでいることしかできなかった。
その後、僕が森で怪我をし意識を失ったとき、父さんは自分を責め、意気消沈してしまったそうだ。
初めて車椅子に乗った日、医師や看護師たちは、これからどんどん良くなると笑顔で励ましてくれた。
体は生きる方向に進んでいるのに、心は死んだように沈んでいく。軽くなる体に反比例して、心は重さを増していった。
リハビリを終え病室に戻ると、あの幸せだった日々を反芻する。
「今日は月が綺麗ですよ」
元気がない僕に、看護師さんがそう教えてくれた。
僕は窓からぼんやりと夜空を眺める。
雲一つない夜空に浮かぶ満月は、ただ静かに輝いているだけで、どこか味気なかった。
「ハチ! 見て、月が綺麗!」
可琳と一緒にご飯を食べたあと、外に出ると、空には満月が浮かんでいた。
月なんて気にしたことがなかったけれど、可琳と一緒に見上げる夜空は、いつも以上に美しかった。
「満月でも、さすがここでは星がこんなにたくさん見えるんだな」
「東京ではやっぱり、星は見えない?」
「全然見えないよ。東京は夜も明るいから」
僕の言葉に可琳は柔らかく微笑むと、そっと囁いた。
「じゃあ、帰ってきてよかったね」
僕は、可琳の暖かい笑顔を思い出す。
病室から見る月は、東京で見た月と同じくらい、どこか冷たく、味気なく見えた。可琳がいないだけで、世界は輝きを失う。いつだって僕の世界を明るく灯すのは、可琳の笑顔だった。でも、今はもう、その笑顔に触れることさえできない。
あの幸せだった時間はもう戻らない――。
それを知るたび、心が軋むように痛んだ。
リハビリを重ねるたび、身体に力が戻ってくるのを実感する。
でもそれとは反対に、現実を生きる僕の心は、どんどん弱くなっていった。
璃花子さんは時々、僕の病室に来ては父さんの話をしてくれた。
正直僕は、父さんの話なんて聞きたくなかった。父さんが母さんを怒鳴りつけている姿が、どうしても頭から離れなかったからだ。
けれど、璃花子さんの話を聞くうちに、父さんへの思いが少しずつ変わっていった。
母さんの浮気が発覚した頃、父さんは体調不良で病院へ行った。精密検査を受けた結果、末期の癌で余命があと僅かであることがわかったそうだ。
僕には想像もつかない。自分の命がまもなく尽きるとわかった人間がどれだけの恐怖に苛まれるのかなんて。
そんな状況で、父さんは母さんの裏切りを知った。
父さんが母さんに向かって投げつけていたあの酷い言葉や態度――それは、単なる怒りではなく、絶望から来ていたのだ。
あのときの僕は、ただ耳を塞いでいることしかできなかった。
その後、僕が森で怪我をし意識を失ったとき、父さんは自分を責め、意気消沈してしまったそうだ。
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