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【第六章】重なる世界
揺るぎない想い
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「小さい頃に交通事故で車椅子になってから、可琳はたくさん傷ついてきたの。周りの目も気にして、自分に自信を持てなくなってしまった。でも……そんな中でも、あの子なりに必死に頑張ってきたわ」
時安リーダーの声には、娘への誇りが滲む一方で、後悔が微かに陰を落としていた。
「可琳が事故にあってから、私もどこかで変わってしまったんだと思うわ。あの子を守りたいと思うあまり、過保護になりすぎていたのかもしれない。気をつけているつもりだけれど、あの娘のことを思うと、どうしても、ね。大切な一人娘なの。洵くんも、わかってくれるわよね?」
「はい、もちろんです」
僕は自然と頷いていた。けれど、どうしても一つだけ、確かめたいことがあった。
「……あの、それと、可琳さんは一人っ子なんですか? 圭さんという弟さんはいませんか?」
「弟……?」
時安リーダーは驚いた顔をしてから、首を傾げた。
「いえ、弟はいないわ。可琳は一人っ子よ。どうして?」
「β世界には、可琳に『圭』って名前の弟がいるんです」
僕の言葉に、時安リーダーは、ぽかんとしてから少し考え込むように視線を宙に泳がせた後、くすりと微笑んだ。
「ああきっと、八幡くんの仕業ね。可琳が小さい頃、よく『弟が欲しい』って言っていたの。きっとβ世界で、八幡くんがその夢を叶えてくれたのね」
時安リーダーは、まるでその光景を思い浮かべるように、懐かしそうに微笑んだ。
「今では圭とは、なんでも話せる親友みたいになっていて」
「それは素敵ね。面白いわ」
「でも……β世界の可琳には、もう長いこと会えてなくて――今でもβ世界を探しています」
「……本当にあなたは、可琳のことが大好きなのね」
その言葉に、僕は思わず顔を赤くした。
「はい。可琳だけなんです。僕の世界を輝かせてくれたのは。もう一度会いたいです。会って、話がしたいです」
自分でも恥ずかしいくらい、まっすぐな言葉だった。でも、それが僕の本心だった。
リーダーはその言葉を真摯に受け止め、静かに微笑んだ。
「もし……もしもよ。あなたの世界の可琳のデータが、私の娘の可琳だったとして……見た目も、そしておそらく性格すら違う現実の世界の可琳に、あなたはまた、恋をするの?」
その問いは、まるで僕の心を試しているようだった。
「もう……恋してるんだと思います」
僕は顔を真っ赤にしながら答えた。可琳本人にもまだ伝えてない気持ちを、先に親御さんに伝えるなんて……どうも僕は、いつも順番を間違える。
自分の言葉があまりに大胆すぎて、少しだけ後悔したけれど、時安リーダーはそんな僕に優しく微笑み、ただ静かに頷いた。
「そう……」
そんな僕の馬鹿とも阿呆ともとれる告白を聞いた時安リーダーは、額に手をあてて、しばらく俯いていた。その姿を見ながら、僕は思わず息を呑む。
今日、僕はここで「可琳には近づくな」と釘を刺される覚悟をしていた。時安リーダーは、娘を想う親として、僕を警戒しているはずだし、それは当然のことだと思う。
ましてや、彼女は小さい頃の事故で車椅子生活を送っている。親の心配は計り知れない。
だけど――。
僕の中では、車椅子に乗ったあの女の子が、なぜだか愛しくてたまらないのだ。見た目も性格も、β世界の可琳とはまるで違うのに。彼女の笑った顔が、仕草が、僕の心の中にいる可琳と共鳴している。
愛しくてたまらない。言葉ではうまく説明できないけれど、僕の心の深いところで、どうしようもなく惹かれるのだ。
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。しばらく悩んでいた時安リーダーは、やがて顔を上げた。その表情は、何かをふっきったように晴れやかだった。
「洵くん、あなたを信じてみるわ」
思いがけない言葉に、僕は驚きで声を失った。
「ちょっと人見知りで頑固なところがある娘だけれど、これからもよろしくね」
「はい!」
力強く返事をした僕だったけれど、時安リーダーが、一体僕に何をよろしくしてほしいのか、実はよくわからなくて戸惑っていた。でも、都合よく、「このまま好きになっていいんだ。いや、むしろもっと好きになっていいんだ」と解釈することにした。
嬉しくなって、僕はスパークリングワインを一口飲む。
ここまで、味がよくわからなかったワインが、急に美味しく感じた。
時安リーダーの声には、娘への誇りが滲む一方で、後悔が微かに陰を落としていた。
「可琳が事故にあってから、私もどこかで変わってしまったんだと思うわ。あの子を守りたいと思うあまり、過保護になりすぎていたのかもしれない。気をつけているつもりだけれど、あの娘のことを思うと、どうしても、ね。大切な一人娘なの。洵くんも、わかってくれるわよね?」
「はい、もちろんです」
僕は自然と頷いていた。けれど、どうしても一つだけ、確かめたいことがあった。
「……あの、それと、可琳さんは一人っ子なんですか? 圭さんという弟さんはいませんか?」
「弟……?」
時安リーダーは驚いた顔をしてから、首を傾げた。
「いえ、弟はいないわ。可琳は一人っ子よ。どうして?」
「β世界には、可琳に『圭』って名前の弟がいるんです」
僕の言葉に、時安リーダーは、ぽかんとしてから少し考え込むように視線を宙に泳がせた後、くすりと微笑んだ。
「ああきっと、八幡くんの仕業ね。可琳が小さい頃、よく『弟が欲しい』って言っていたの。きっとβ世界で、八幡くんがその夢を叶えてくれたのね」
時安リーダーは、まるでその光景を思い浮かべるように、懐かしそうに微笑んだ。
「今では圭とは、なんでも話せる親友みたいになっていて」
「それは素敵ね。面白いわ」
「でも……β世界の可琳には、もう長いこと会えてなくて――今でもβ世界を探しています」
「……本当にあなたは、可琳のことが大好きなのね」
その言葉に、僕は思わず顔を赤くした。
「はい。可琳だけなんです。僕の世界を輝かせてくれたのは。もう一度会いたいです。会って、話がしたいです」
自分でも恥ずかしいくらい、まっすぐな言葉だった。でも、それが僕の本心だった。
リーダーはその言葉を真摯に受け止め、静かに微笑んだ。
「もし……もしもよ。あなたの世界の可琳のデータが、私の娘の可琳だったとして……見た目も、そしておそらく性格すら違う現実の世界の可琳に、あなたはまた、恋をするの?」
その問いは、まるで僕の心を試しているようだった。
「もう……恋してるんだと思います」
僕は顔を真っ赤にしながら答えた。可琳本人にもまだ伝えてない気持ちを、先に親御さんに伝えるなんて……どうも僕は、いつも順番を間違える。
自分の言葉があまりに大胆すぎて、少しだけ後悔したけれど、時安リーダーはそんな僕に優しく微笑み、ただ静かに頷いた。
「そう……」
そんな僕の馬鹿とも阿呆ともとれる告白を聞いた時安リーダーは、額に手をあてて、しばらく俯いていた。その姿を見ながら、僕は思わず息を呑む。
今日、僕はここで「可琳には近づくな」と釘を刺される覚悟をしていた。時安リーダーは、娘を想う親として、僕を警戒しているはずだし、それは当然のことだと思う。
ましてや、彼女は小さい頃の事故で車椅子生活を送っている。親の心配は計り知れない。
だけど――。
僕の中では、車椅子に乗ったあの女の子が、なぜだか愛しくてたまらないのだ。見た目も性格も、β世界の可琳とはまるで違うのに。彼女の笑った顔が、仕草が、僕の心の中にいる可琳と共鳴している。
愛しくてたまらない。言葉ではうまく説明できないけれど、僕の心の深いところで、どうしようもなく惹かれるのだ。
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。しばらく悩んでいた時安リーダーは、やがて顔を上げた。その表情は、何かをふっきったように晴れやかだった。
「洵くん、あなたを信じてみるわ」
思いがけない言葉に、僕は驚きで声を失った。
「ちょっと人見知りで頑固なところがある娘だけれど、これからもよろしくね」
「はい!」
力強く返事をした僕だったけれど、時安リーダーが、一体僕に何をよろしくしてほしいのか、実はよくわからなくて戸惑っていた。でも、都合よく、「このまま好きになっていいんだ。いや、むしろもっと好きになっていいんだ」と解釈することにした。
嬉しくなって、僕はスパークリングワインを一口飲む。
ここまで、味がよくわからなかったワインが、急に美味しく感じた。
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